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poppin' 1 蓮多

05.

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「蓮多ぁ、木瀬んとこ行かなくていいのか?」
「…あいつ、俺のこと嫌いっぽい」

休み時間とならば間髪おかずに木瀬の机に通い詰めていた蓮多が、教室の自席から動かず、突っ伏したままいじけている姿を見て、

「今更か」「やっと気づいたんか」

友人たちは冷たい突っ込みを入れている。

「木瀬って特待生なんでしょ。ボンボンの蓮多とは合わなくてもしょうがないんじゃない」

唯一慰めるような響きを持った皆実の言葉は、蓮多の胸に刺さった。

特待生、か。

木瀬は住む世界が違うと言った。
確かに木瀬の家は裕福ではなさそうで、父親の気配もないし、母親は身体が弱そうだった。木瀬は寝る間も惜しんでバイト三昧だし、かと言って勉強も部活動も手を抜くわけではない。おまけに言うならクラス委員なんぞも受け持っている。そりゃあ特別待遇にもしたくなるだろう。

祖父や父が為した財で悠々自適に日々暮らしを謳歌し、塾に通いながら、遊び惚けている蓮多など、足元にも及ばない。完敗。

しかし。
だからといって、住む世界が違うということはないだろ?

蓮多が悶々とし続けていると、女子たちがキャッキャ騒ぐ声が耳に入った。

「ねえねえ、木瀬くんて、アイスクリーム屋さんでバイトしてるんだって」
「えーっ、見に行きたーい」「制服姿見てみたーい」

蓮多のこめかみがピクリと動く。

「おい、お前ら、ちょっと待て!」

振り返って、騒いでいる女子たちに人差し指を突きつけた。

「いいか、木瀬は遊んでるんじゃねえ! 真剣に働いてるんだ。そんな、…」

そんな冷やかし半分に行くのは失礼だろうが、と言いかけて、真っ先に冷やかしに行ったのは自分であることを思い出した。

「…そんな、な、…そんなアイツの作るアイスは、めっちゃクソ甘いんだぞっ!」

やけくそに続けた蓮多の雄叫びに、クラス中しんと静まり返ってから、笑いの渦に包まれた。

「なに、蓮多」「木瀬通アピール??」
「アイスは甘いに決まってんじゃん」

あああ、俺のバカ。
俺はただ、あいつの邪魔しちゃダメだろって思っただけで、決してあいつのピンク色の制服姿が結構可愛いとか、そういうことを言いたいわけじゃなくて、…

頭を抱えて机に打ち付け始めた蓮多を見て、東と仁志が心配とも突っ込みとも取れる言葉を投げかけた。

「大丈夫か、蓮多」「もはやアホ加減が愛しいぞ?」

俺は馬鹿でも阿呆でもねえっ

それを証明するために、蓮多は即行動を開始した。

「…で。何でお前がうちのアイス屋でバイト始めてんの?」

ピンク色の制服を着こなした木瀬が、アイスクリームショップのカウンターに立って、同じ制服姿の蓮多に冷たい目を向ける。

「店長に聞いたら、ちょうど人手不足で新しいバイト探してたんだと」
「…そういうことじゃなく」

木瀬の視線の冷たさに耐えかねて蓮多は叫んだ。

「うるせえな! お前に出来て俺に出来ないことがあるか!」
「いや。だからそういう意味じゃ、…」
「いいか? 俺もお前もただの高校生。何にも違わないんだよっ‼」

なおもぐちゃぐちゃ言っている木瀬に畳みかけて叫んだら、

「…お前。ホント馬鹿だな」
「な、…っ!?」

呆れたような諦めたような木瀬の言い草に、反射的に言い返そうとした言葉を、蓮多は飲み込んだ。

木瀬が笑っていたから。
見たこともないような、優しい顔で。
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