【完結】奪われた花嫁は海の藻屑になりそこね、水龍王に愛でられる

remo

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終章.そして、水龍王の花嫁は幸福に微笑む

最終話.そして、水龍王の花嫁は幸福に微笑む

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「リヴ様、…」

リヴァイアサンに抱かれてうっとりとその凛々しい姿を見上げたリーネに、

「待ちわびたよ、私の花嫁」

リヴァイアサンは愛おしさだけを浮かべて甘く微笑み、ちゅっと優しいキスをした。

あああ―――――っ

それを目の前で見せつけられたレオは、
な、何しやがる、このっ、よりによって俺の目の前で――――…っ
という文句が喉まで出かかったけれど、結局声に出すことはなかった。

…リーネが泣いていたから。

悲しいとか寂しいとかそういう類の涙ではなく。感涙。心と心が重なって。離れ離れになってしまった魂が長い年月を経てようやく巡り合えたような。触れるべくして触れられたような。そんな感極まった涙に見えた。この瞬間をリヴァイアサンもリーネもずっと待っていたことが、どうしてか(双子だからか?)レオにも分かってしまった。同じように自分の目にも涙が浮かんでいることに、レオは気づいていなかった。

「おかえり、リーネ」
「おかえりなさい」「おかえりなさい」

会場のあちらこちらから、温かな声が贈られ、祝福の拍手が響いた。人魚の娘たちが歓迎に舞い踊り、歌った。会場は歌声に共鳴し、やがて広間は温かなハーモニーで包まれた。それは初めて聞く曲なのに、どこか懐かしく、レオの大切な双子の妹は、偉大なる水龍王リヴァイアサンのただ一人だけの花嫁なのだと理解した。

「リヴ、…」

リーネは溢れてくる涙の意味も分からないまま、精一杯の力でリヴァイアサンにしがみ付いた。帰ってきた。リヴァイアサンに触れられた時、その思いが落ちてきた。帰ってきたよ、リヴ。

『それは、人として生まれ、人としての役割を果たしてからではないか。自分はちゃんとできることを全てやったのか。胸を張ってリヴにそう言えるか。一点の曇りなく抱きしめてもらえるか』

リヴァイアサンに抱きしめてもらった時に、心が震えた。あるべき所に還ってきた。やり遂げて還ってきた。ぴったりと当てはまって、しっかりと繋がれた。やっと、ここに還ってきた。

リヴァイアサンの長い舌で涙を拭かれて、気恥ずかしさとくすぐったさに身悶えすると、

「…うん? お前も歌うか。約束したのだったな」
「え、…わっ」

リヴァイアサンは小さなリーネを肩に抱き上げた。大きくて高い肩口に乗って不安定なリーネをリヴァイアサンの翼が後ろからそっと支える。高みから広間が一望出来た。集ったみんなが帰りを歓迎してくれている。どうしてだろう、この歌を知っている。このハーモニーが懐かしい。

「…ただいま」

自然とリーネの口から歌が零れた。歌声はハーモニーにのって龍宮から飛び出し、水の国の各地を巡ってゆく。

「あ、リーネだ」「リーネだよ」
「リヴァイアサン様の所に戻ってきたんだね」

人魚の砦。海藻の丘。水晶の洞窟。太刀魚の館。月見の森。星の砂浜、…

…―――ありがとう、帰ってきたよ。

この日、水龍王リヴァイアサンが生涯ただ一人きりの花嫁を迎えたとして、水の国は夜通し祝福に沸いた。

「リ、…ヴ。…リヴっ」
「…すまぬ。あまりにも長くお前を待ちわびて、…許せ」

龍宮の奥にあるリヴァイアサンの居室で、リヴァイアサンが性急にリーネの中に入ってくる。身体中いたるところを撫でて舐めて咥えて吸われる。貼りつく皮膚も温度も、滴る汗も吐息も、絡みつく舌も絡まり合う指も、繋がる全てが気持ちいい。内側でリヴが熱く脈打ち、その衝撃にリーネは立て続けに弾けた。自分が粉々に砕けてなくなり、繋ぎ止められ注がれて、新たに形作られていくような気がする。

「…大丈夫か?」

あまりに強い快感に吹き飛ばされたリーネが目を開けると、青く蒼く碧い二つの瞳がすぐそばから覗き込んでいた。綺麗な目。人を癒し生かす、恵みの水の色。

「はい、…」

応えると、リヴはその美しい瞳を少し泣きそうに揺らして、優しい優しいキスをした。

「…愛している」

思えば、気まぐれに受け取った小さな人間の娘が、リヴァイアサンに愛することを教えてくれた。寂しさも焦がれることも時の長さとかけがえのなさも。無力な存在などどこにもいないのだと思い知らされた。

「私も愛してる」

遥かなる楽園水の国で絶対的な力を持つ水龍王リヴァイアサンの最愛の花嫁は、そう言って微笑み、彼に幸福を教えてくれた。
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