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終章.そして、水龍王の花嫁は幸福に微笑む
01.胎動
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「ココ様、ココ様、お話読んで」
「あれがいい、あの、龍の王様のお話」
「あー、あれね。『りゅうおうさまのはなよめ』」
ココリーネが部屋を訪問すると、遊びに興じていた子どもたちが次々と周りに集まってきた。
王城を囲む敷地に多くの養護施設が建てられ、そこを訪れることがココリーネの日課となっていた。捨て子だったココリーネの境遇に心を痛めていたレオンは社会的養護に力を注いだ。学校に通えなかったココリーネは養護施設で子どもたちと遊んだり学んだり協力して仕事したりすることを楽しみ、可能性を秘めた才能豊かな子どもたちは国を支える大きな力となった。政策は結果的にディアマナス国の繁栄を後押しすることとなった。
『…ある晩、水に飛び込んだ女の子の前に大きな龍が現れ、龍宮城に連れて行ってくれました。そこは四季様々な花の咲く楽園で、歌ったり踊ったりして過ごす夢のように楽しい世界でした』
ココリーネが絵本を読み始めると、子どもたちが膝や背中に乗ってくる。王と王妃の国民との距離の近さに、難色を示す諸侯たちもいたが、レオンとココリーネはお互いの姿に水龍王リヴァイアサンの眼差しを重ねていた。最大限の愛情で相手を慈しみ、尊重する。国民たちは王に絶大な信頼を寄せ、ディアマナス国は豊かで穏やかな国として近隣各国の賞賛を浴びた。豊かである背景には、水の恵みがあることも大きく、水龍の泉の水は不老長寿の功があるなど各国でもてはやされ、また泉の淵で見つかった水晶も希少価値の高い鉱石として国を潤した。
『龍宮城で幸せな時を過ごした女の子でしたが、人間の国に帰ることを決めると、龍王様は女の子に【やり直す力】をくれました。人間の国に帰った女の子は、誰かのおまけではなく、自分のための人生を生きることが出来たのでした。おしまい』
絵本を閉じると、訳知り顔の子どもたちが声を上げた。
「シャーロット、知ってる。これ、ココ様のことでしょう?」
「そうだよ。ココ様は龍王様の花嫁なんだよ。だから雨を呼べるんだよ」
「でも、ココ様はレオン様のお妃様よ?」
子どもたちはお互いに顔を見合わせた後、
「さんかくかんけい」「…しゅらば」
「…王様、かわいそう」「リリィがお嫁さんになってあげようかな」
「バカお前、王様にだって好みってもんが」
「そういうブラントはリリーをとられたくないんでしょ」
やいのやいの騒ぎ始めた。どうしたものかと思っていると、
「…心配には及ばないよ。俺は俺にしかできないやり方でココリーネを愛してるから」
迎えに来たらしいレオンが背後から現れ、後ろから片腕でココリーネを抱き寄せた。
「あ、王様のお迎えだ~」「いいなぁ、仲良し」
「ラブラブっていうんだよ」「先生が王様は過保護って言ってた」
レオンの登場に子どもたちが更なる盛り上がりを見せる。
「当たり前だ。ココは俺の子を身籠ってるんだから」
しかし、レオンはしれっと言い放ち、
「ええ―――」「きゃあ―――」
興奮状態に達した子どもたちを微笑ましく見やりながら、ココリーネを片腕に抱いたまま王城に戻った。
「…お前、あいつと比べてないだろうな?」
レオンのキスはいつも優しいけれど、どうやらココリーネが身籠ったらしいと知ってから、殊更に優しくなった。髪に触る手も頬を撫でる指も優しさに満ちている。
「ない。けど、強いて言うなら」
「言うのかよ」
「…レオンの方が恥ずかしい」
言ったらレオンがふっと笑って、深く、奥深くまでその奔放な舌を差し入れた。
「あれがいい、あの、龍の王様のお話」
「あー、あれね。『りゅうおうさまのはなよめ』」
ココリーネが部屋を訪問すると、遊びに興じていた子どもたちが次々と周りに集まってきた。
王城を囲む敷地に多くの養護施設が建てられ、そこを訪れることがココリーネの日課となっていた。捨て子だったココリーネの境遇に心を痛めていたレオンは社会的養護に力を注いだ。学校に通えなかったココリーネは養護施設で子どもたちと遊んだり学んだり協力して仕事したりすることを楽しみ、可能性を秘めた才能豊かな子どもたちは国を支える大きな力となった。政策は結果的にディアマナス国の繁栄を後押しすることとなった。
『…ある晩、水に飛び込んだ女の子の前に大きな龍が現れ、龍宮城に連れて行ってくれました。そこは四季様々な花の咲く楽園で、歌ったり踊ったりして過ごす夢のように楽しい世界でした』
ココリーネが絵本を読み始めると、子どもたちが膝や背中に乗ってくる。王と王妃の国民との距離の近さに、難色を示す諸侯たちもいたが、レオンとココリーネはお互いの姿に水龍王リヴァイアサンの眼差しを重ねていた。最大限の愛情で相手を慈しみ、尊重する。国民たちは王に絶大な信頼を寄せ、ディアマナス国は豊かで穏やかな国として近隣各国の賞賛を浴びた。豊かである背景には、水の恵みがあることも大きく、水龍の泉の水は不老長寿の功があるなど各国でもてはやされ、また泉の淵で見つかった水晶も希少価値の高い鉱石として国を潤した。
『龍宮城で幸せな時を過ごした女の子でしたが、人間の国に帰ることを決めると、龍王様は女の子に【やり直す力】をくれました。人間の国に帰った女の子は、誰かのおまけではなく、自分のための人生を生きることが出来たのでした。おしまい』
絵本を閉じると、訳知り顔の子どもたちが声を上げた。
「シャーロット、知ってる。これ、ココ様のことでしょう?」
「そうだよ。ココ様は龍王様の花嫁なんだよ。だから雨を呼べるんだよ」
「でも、ココ様はレオン様のお妃様よ?」
子どもたちはお互いに顔を見合わせた後、
「さんかくかんけい」「…しゅらば」
「…王様、かわいそう」「リリィがお嫁さんになってあげようかな」
「バカお前、王様にだって好みってもんが」
「そういうブラントはリリーをとられたくないんでしょ」
やいのやいの騒ぎ始めた。どうしたものかと思っていると、
「…心配には及ばないよ。俺は俺にしかできないやり方でココリーネを愛してるから」
迎えに来たらしいレオンが背後から現れ、後ろから片腕でココリーネを抱き寄せた。
「あ、王様のお迎えだ~」「いいなぁ、仲良し」
「ラブラブっていうんだよ」「先生が王様は過保護って言ってた」
レオンの登場に子どもたちが更なる盛り上がりを見せる。
「当たり前だ。ココは俺の子を身籠ってるんだから」
しかし、レオンはしれっと言い放ち、
「ええ―――」「きゃあ―――」
興奮状態に達した子どもたちを微笑ましく見やりながら、ココリーネを片腕に抱いたまま王城に戻った。
「…お前、あいつと比べてないだろうな?」
レオンのキスはいつも優しいけれど、どうやらココリーネが身籠ったらしいと知ってから、殊更に優しくなった。髪に触る手も頬を撫でる指も優しさに満ちている。
「ない。けど、強いて言うなら」
「言うのかよ」
「…レオンの方が恥ずかしい」
言ったらレオンがふっと笑って、深く、奥深くまでその奔放な舌を差し入れた。
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