【完結】奪われた花嫁は海の藻屑になりそこね、水龍王に愛でられる

remo

文字の大きさ
上 下
15 / 22
2章.なりそこねた少女は水龍王に愛でられる

06.別離

しおりを挟む
「リーネ、このお花あげる」「この貝あげる」
「に、…兄様が作ってくれたガラスのネックレスもあげるぅ、…っ」

「ありがとう、みんな、…」

夕暮れの岬で人魚の仲間たちが次々とリーネに贈り物を差し出した。
今日は、地上に帰ることを決めたリーネが仲間たちと過ごす最後の日だ。


『…行くのか』
『うん。私、人として与えられた場所でちゃんと生きて、それで、…』

レオが水の国にやって来てから、リーネの心に砂粒のように僅かな疑問が生じ、それがゆっくりと波紋を広げていった。

このままここにいて本当にいいのか。この夢のように恵まれた場所で、自分を受け入れ必要としてくれる人に囲まれて。揺るぎなく信頼できる存在に守られ、惜しみなく愛されて。心地よくて幸せで、毎日が楽しくて。それでいいのか。それに甘んじているだけで、本当にいいのか。

それは、人として生まれ、人としての役割を果たしてからではないか。自分はちゃんとできることを全てやったのか。胸を張ってリヴにそう言えるか。一点の曇りなく抱きしめてもらえるか。

『…うむ。分かった。再びお前が私の元に戻ってくるのを待っていよう』

リヴァイアサンは、リーネを引き留めることはしなかった。
恐らく、リーネは地上から逃げてきた。地上は過酷なところであるらしい。争いが絶えず、人間は妬んだり羨んだり陥れたり裏切ったりするらしい。それでも、レオのように自分を見つけてくれる人もいる。だから、次は、ちゃんと人としての生を全うして、「還って」きたい。そう思うリーネをリヴァイアサンは尊重してくれた。強く偉大で慈悲深い王は、「やり直す」機会を与えてくれた。


「もうリーネの歌が聞けなくなるなんて」「ダメよ、そんなこと言っちゃ」
「そうよ、な、泣いちゃうじゃない~~~」

マリアが涙ぐむと他の人魚たちも次々と涙を浮かべ、こらえきれずにしゃくり上げる。

「泣かないで、みんな。私、絶対帰ってくるから」

リーネはそんな一人一人を心から抱きしめた。いつもリヴァイアサンがしているように相手を想い、敬意を込めて。

「うんうん、きっとよ」「おばあちゃんになっても待ってるわ」
「人間の方が先に老いるけどね」「ちょっと、ビビアン。そゆこと言わない」
「リーネ、元気でね」「元気でね」

人魚たちも口々に別れを惜しみながらハグを返す。
今日は人魚仲間たちと貝殻探しと潜り鬼ごっこと花輪作りをして遊んだ。みんなで歌いながら泳いだ。楽しくて沢山笑った。水の国で過ごす最後の日は、働いたり遊んだり歌ったりして「普通」に過ごした。リヴァイアサンに連れていってもらい、色々な場所で歌ってきた。そこに集ったものは皆リーネの歌声を愛おしみ、一緒に歌って心に留めた。また歌おうと言ってくれた。種族も違う。住む世界も違う。次元も違う。それでもそう約束してくれた。

別れを惜しんでくれる相手がいることは幸せなことだ。自分を想ってくれる人がいて、帰りを待ってくれる人がいる。それ以上の幸せはない。

水の国は理想郷だった。
飢えも争いもなく、略奪も理不尽もなく。違いを受け入れ分け合うことを喜ぶ。リヴァイアサンに守られて、日々は穏やかにつつがなく流れていく。その平凡さが特別で、その無益さがかけがえない。

「…寂しいとは、このことか」

リーネの中でリーネを揺らすリヴが今日はいつもより激しい。いつもより深くいつもより執拗で、リーネの中に永遠に消えない自分を刻み込もうとしているかのようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

処理中です...