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2章.なりそこねた少女は水龍王に愛でられる
06.別離
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「リーネ、このお花あげる」「この貝あげる」
「に、…兄様が作ってくれたガラスのネックレスもあげるぅ、…っ」
「ありがとう、みんな、…」
夕暮れの岬で人魚の仲間たちが次々とリーネに贈り物を差し出した。
今日は、地上に帰ることを決めたリーネが仲間たちと過ごす最後の日だ。
『…行くのか』
『うん。私、人として与えられた場所でちゃんと生きて、それで、…』
レオが水の国にやって来てから、リーネの心に砂粒のように僅かな疑問が生じ、それがゆっくりと波紋を広げていった。
このままここにいて本当にいいのか。この夢のように恵まれた場所で、自分を受け入れ必要としてくれる人に囲まれて。揺るぎなく信頼できる存在に守られ、惜しみなく愛されて。心地よくて幸せで、毎日が楽しくて。それでいいのか。それに甘んじているだけで、本当にいいのか。
それは、人として生まれ、人としての役割を果たしてからではないか。自分はちゃんとできることを全てやったのか。胸を張ってリヴにそう言えるか。一点の曇りなく抱きしめてもらえるか。
『…うむ。分かった。再びお前が私の元に戻ってくるのを待っていよう』
リヴァイアサンは、リーネを引き留めることはしなかった。
恐らく、リーネは地上から逃げてきた。地上は過酷なところであるらしい。争いが絶えず、人間は妬んだり羨んだり陥れたり裏切ったりするらしい。それでも、レオのように自分を見つけてくれる人もいる。だから、次は、ちゃんと人としての生を全うして、「還って」きたい。そう思うリーネをリヴァイアサンは尊重してくれた。強く偉大で慈悲深い王は、「やり直す」機会を与えてくれた。
「もうリーネの歌が聞けなくなるなんて」「ダメよ、そんなこと言っちゃ」
「そうよ、な、泣いちゃうじゃない~~~」
マリアが涙ぐむと他の人魚たちも次々と涙を浮かべ、こらえきれずにしゃくり上げる。
「泣かないで、みんな。私、絶対帰ってくるから」
リーネはそんな一人一人を心から抱きしめた。いつもリヴァイアサンがしているように相手を想い、敬意を込めて。
「うんうん、きっとよ」「おばあちゃんになっても待ってるわ」
「人間の方が先に老いるけどね」「ちょっと、ビビアン。そゆこと言わない」
「リーネ、元気でね」「元気でね」
人魚たちも口々に別れを惜しみながらハグを返す。
今日は人魚仲間たちと貝殻探しと潜り鬼ごっこと花輪作りをして遊んだ。みんなで歌いながら泳いだ。楽しくて沢山笑った。水の国で過ごす最後の日は、働いたり遊んだり歌ったりして「普通」に過ごした。リヴァイアサンに連れていってもらい、色々な場所で歌ってきた。そこに集ったものは皆リーネの歌声を愛おしみ、一緒に歌って心に留めた。また歌おうと言ってくれた。種族も違う。住む世界も違う。次元も違う。それでもそう約束してくれた。
別れを惜しんでくれる相手がいることは幸せなことだ。自分を想ってくれる人がいて、帰りを待ってくれる人がいる。それ以上の幸せはない。
水の国は理想郷だった。
飢えも争いもなく、略奪も理不尽もなく。違いを受け入れ分け合うことを喜ぶ。リヴァイアサンに守られて、日々は穏やかにつつがなく流れていく。その平凡さが特別で、その無益さがかけがえない。
「…寂しいとは、このことか」
リーネの中でリーネを揺らすリヴが今日はいつもより激しい。いつもより深くいつもより執拗で、リーネの中に永遠に消えない自分を刻み込もうとしているかのようだった。
「に、…兄様が作ってくれたガラスのネックレスもあげるぅ、…っ」
「ありがとう、みんな、…」
夕暮れの岬で人魚の仲間たちが次々とリーネに贈り物を差し出した。
今日は、地上に帰ることを決めたリーネが仲間たちと過ごす最後の日だ。
『…行くのか』
『うん。私、人として与えられた場所でちゃんと生きて、それで、…』
レオが水の国にやって来てから、リーネの心に砂粒のように僅かな疑問が生じ、それがゆっくりと波紋を広げていった。
このままここにいて本当にいいのか。この夢のように恵まれた場所で、自分を受け入れ必要としてくれる人に囲まれて。揺るぎなく信頼できる存在に守られ、惜しみなく愛されて。心地よくて幸せで、毎日が楽しくて。それでいいのか。それに甘んじているだけで、本当にいいのか。
それは、人として生まれ、人としての役割を果たしてからではないか。自分はちゃんとできることを全てやったのか。胸を張ってリヴにそう言えるか。一点の曇りなく抱きしめてもらえるか。
『…うむ。分かった。再びお前が私の元に戻ってくるのを待っていよう』
リヴァイアサンは、リーネを引き留めることはしなかった。
恐らく、リーネは地上から逃げてきた。地上は過酷なところであるらしい。争いが絶えず、人間は妬んだり羨んだり陥れたり裏切ったりするらしい。それでも、レオのように自分を見つけてくれる人もいる。だから、次は、ちゃんと人としての生を全うして、「還って」きたい。そう思うリーネをリヴァイアサンは尊重してくれた。強く偉大で慈悲深い王は、「やり直す」機会を与えてくれた。
「もうリーネの歌が聞けなくなるなんて」「ダメよ、そんなこと言っちゃ」
「そうよ、な、泣いちゃうじゃない~~~」
マリアが涙ぐむと他の人魚たちも次々と涙を浮かべ、こらえきれずにしゃくり上げる。
「泣かないで、みんな。私、絶対帰ってくるから」
リーネはそんな一人一人を心から抱きしめた。いつもリヴァイアサンがしているように相手を想い、敬意を込めて。
「うんうん、きっとよ」「おばあちゃんになっても待ってるわ」
「人間の方が先に老いるけどね」「ちょっと、ビビアン。そゆこと言わない」
「リーネ、元気でね」「元気でね」
人魚たちも口々に別れを惜しみながらハグを返す。
今日は人魚仲間たちと貝殻探しと潜り鬼ごっこと花輪作りをして遊んだ。みんなで歌いながら泳いだ。楽しくて沢山笑った。水の国で過ごす最後の日は、働いたり遊んだり歌ったりして「普通」に過ごした。リヴァイアサンに連れていってもらい、色々な場所で歌ってきた。そこに集ったものは皆リーネの歌声を愛おしみ、一緒に歌って心に留めた。また歌おうと言ってくれた。種族も違う。住む世界も違う。次元も違う。それでもそう約束してくれた。
別れを惜しんでくれる相手がいることは幸せなことだ。自分を想ってくれる人がいて、帰りを待ってくれる人がいる。それ以上の幸せはない。
水の国は理想郷だった。
飢えも争いもなく、略奪も理不尽もなく。違いを受け入れ分け合うことを喜ぶ。リヴァイアサンに守られて、日々は穏やかにつつがなく流れていく。その平凡さが特別で、その無益さがかけがえない。
「…寂しいとは、このことか」
リーネの中でリーネを揺らすリヴが今日はいつもより激しい。いつもより深くいつもより執拗で、リーネの中に永遠に消えない自分を刻み込もうとしているかのようだった。
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