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2章.なりそこねた少女は水龍王に愛でられる

04.闖入者

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「アウラが溺れている人間を助けたの」
「リーネと同じ、足があるのよ」
「凄く綺麗な男の人なの」
「そう。すっごくすっごくかっこいいのよ」

人魚の娘たちが大興奮で、束になってきゃあきゃあ言いながらリヴァイアサンに報告しに来た。
人魚の砦から水の国に入り込んだ人間がいるらしい。舞踏会に沸く広間からは少し離れた謁見の間に連れてこられているらしく、リヴァイアサンがすぐに会いに行った。身支度を整えたリーネも皆に遅れて謁見の間に向かった。「ここで待っていろ」と言われたけれど、なぜだかどうにも気が急いて、部屋で大人しくしていられない。

人間がやってきた。自分と同じ。

リヴに抱かれた後は、ずっと心地良い痺れが身体中を巡ってふわふわする。空気に触れても快感に震えてしまうほど、身体が敏感に研ぎ澄まされている。時間が経ってもリヴと繋がっている感覚は消えない。リヴに注がれたもので満たされた身体は安心と喜びではち切れそうで、それが溢れ出すと寂しさを感じる。どこか終焉を感じさせる。
リヴの匂いが色濃く残るベッドを降りて急ぐリーネの足元は、夢の中を彷徨っているかのようにおぼつかない。心地よさに痺れた身体は力が入らない。本当は、そのまま熱に冒されてふわふわと心地良さだけに漂っていたいけれど。

胸騒ぎがする。

人間だった頃の記憶はないのに、気がはやる。不安。期待。畏怖。好奇。何に突き動かされているのか、よく分からないまま、ようやくリーネが謁見の間に辿り着くと、

「……、っ!!」

弾丸のように鋭い何かが一直線に飛んできて、自分をがんじがらめに抱きしめた。骨が砕けてバラバラになるんじゃないかと思うほど、それはそれは強い力で。自分よりも大きくすらりと縦に伸びているその人は、しっかりとした体躯と長い足を持っていた。身に着けている衣服は上質で触り心地も良いけれど、ひどく擦り切れて破れてボロボロになっている。大きく強い力でリーネを抱きしめ、無事を確かめるように身体のあちこちに触れると、リーネの目を覗き込む。金色の髪の向こうから深い藍色の瞳がリーネを射すくめた。その人は目が合うと声にならない声を上げて泣いた。激しく。悲しく。リーネをかき抱きながら。訳が分からないまでもつられて泣いてしまいそうなほど手放しで全力でむせび泣いた。

「…地上の各地を彷徨って白蛇の沼に辿り着き、取引をして人魚の砦に流れ着いたのだろう」

リーネを抱きしめたまま放さない人間の男性の後ろからリヴァイアサンが静かに近づいてきた。

「この男はここに来ることと引き換えに白蛇に声を渡している。話すことが出来ないのだ」

人間の男性を見ると、彼は少し悲しげに微笑んだ。涙が光る藍色の瞳はとても美しく、初めて見るのにどこか懐かしい感じがした。
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