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2章.なりそこねた少女は水龍王に愛でられる
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「…まだ」
ふわふわ浮かぶ。ゆらゆら漂う。心地いい。快い。満ち足りた。充足。
じわじわ高まる心地良さに思わず身じろぐと、
「動くな。充分でない」
大きな力に引き戻され、柔らかく包み込まれて、瞬間、内側から弾けた。
振動。爆発。閃光。戦慄。余韻。
注がれて微睡んで揺られて漂う。
この最高に心地良い温もりを、快感の喘ぎを、私は知っている。かつて経験したことがある。それはいつだったか、私がまだ人間で、人の子の名前を持っていた頃。
…まだ人間? では今は? …名前? そう、私は、…
「…、ネ」
口を開けると温かな舌を差し込まれた。ゆっくりと撫でられて舐められて絡められて吸われる。快感に耐えられなくて内側から込み上げた熱い塊が次々弾ける。弾けても弾けても終わらずに震える身体を持て余して声が漏れる。
「…うん? 気持ちいいのだな、リーネ?」
沁み渡るような深い声が自分の名前を呼ぶ。…リーネ。
その声に触れると、自分が浄化され、穢れなく透明に澄んでいくような気がした。痛みも苦しみも。悲しさも寂しさも。不本意も理不尽もやるせなさも。憤りを感じることも全て。甘く溶かされる。
温かい。気持ちいい。
どうして、ここにいるのか。なぜ、こうしているのか、もう思い出せない。
全部忘れて溶けて消えてしまった。
「…案ずるな。ここには心地よさ以外、何もない」
深く沁みるこの声は誰のものだろう。目を開けるのが少し億劫ではあったが、自分の全てを大きく包み込み、癒し慈しみながら繋がっている存在を見たい気持ちも強い。そっと重い瞼を上げた。
「…リーネ。お前を確かに受け取った」
目に映ったのは、怖いくらい青く蒼く碧い二つの瞳。すぐ目の前で、キスの距離から自分を見ている。ガラス細工のように精巧で曇りなく、透明に澄んで眩しい、青。この色を知っている。人を癒し生かす、恵みの水の色。
「まだもう少し、漂うが良い。三日三晩、注ぎ続けねばお前はここで生きてゆけぬ」
頭に直接語りかけてくるような、水を伝って振動するような、深い声が再び響く。寄せては返す波の音のように穏やかで、生まれ出づる前に母の胎内で聞く心音のように安心する。
眠い。ずっと続いていて欲しい心地良い微睡の中。
しっかりと穿たれた繋がりから絶え間なく繰り返される律動。何度となく注ぎ込まれる快感。
この水の瞳を持ち、自分を繋ぎ止めている存在はひどく大きく、爪と牙と鱗、羽のようなものもある。まるで、…龍のよう。
眠い。抗えない睡魔に溶けるように落ちていく。
律動。刺激。快感。心地よく昇り詰めて弾けて。わななきさえも痺れるように夢心地で。溢れるほど注がれて作り替えられていく。
この快感は少し切ない。
美しい青い瞳も。少しだけ、切なさをはらんで映るのはどうしてだろう。
ふわふわ浮かぶ。ゆらゆら漂う。心地いい。快い。満ち足りた。充足。
じわじわ高まる心地良さに思わず身じろぐと、
「動くな。充分でない」
大きな力に引き戻され、柔らかく包み込まれて、瞬間、内側から弾けた。
振動。爆発。閃光。戦慄。余韻。
注がれて微睡んで揺られて漂う。
この最高に心地良い温もりを、快感の喘ぎを、私は知っている。かつて経験したことがある。それはいつだったか、私がまだ人間で、人の子の名前を持っていた頃。
…まだ人間? では今は? …名前? そう、私は、…
「…、ネ」
口を開けると温かな舌を差し込まれた。ゆっくりと撫でられて舐められて絡められて吸われる。快感に耐えられなくて内側から込み上げた熱い塊が次々弾ける。弾けても弾けても終わらずに震える身体を持て余して声が漏れる。
「…うん? 気持ちいいのだな、リーネ?」
沁み渡るような深い声が自分の名前を呼ぶ。…リーネ。
その声に触れると、自分が浄化され、穢れなく透明に澄んでいくような気がした。痛みも苦しみも。悲しさも寂しさも。不本意も理不尽もやるせなさも。憤りを感じることも全て。甘く溶かされる。
温かい。気持ちいい。
どうして、ここにいるのか。なぜ、こうしているのか、もう思い出せない。
全部忘れて溶けて消えてしまった。
「…案ずるな。ここには心地よさ以外、何もない」
深く沁みるこの声は誰のものだろう。目を開けるのが少し億劫ではあったが、自分の全てを大きく包み込み、癒し慈しみながら繋がっている存在を見たい気持ちも強い。そっと重い瞼を上げた。
「…リーネ。お前を確かに受け取った」
目に映ったのは、怖いくらい青く蒼く碧い二つの瞳。すぐ目の前で、キスの距離から自分を見ている。ガラス細工のように精巧で曇りなく、透明に澄んで眩しい、青。この色を知っている。人を癒し生かす、恵みの水の色。
「まだもう少し、漂うが良い。三日三晩、注ぎ続けねばお前はここで生きてゆけぬ」
頭に直接語りかけてくるような、水を伝って振動するような、深い声が再び響く。寄せては返す波の音のように穏やかで、生まれ出づる前に母の胎内で聞く心音のように安心する。
眠い。ずっと続いていて欲しい心地良い微睡の中。
しっかりと穿たれた繋がりから絶え間なく繰り返される律動。何度となく注ぎ込まれる快感。
この水の瞳を持ち、自分を繋ぎ止めている存在はひどく大きく、爪と牙と鱗、羽のようなものもある。まるで、…龍のよう。
眠い。抗えない睡魔に溶けるように落ちていく。
律動。刺激。快感。心地よく昇り詰めて弾けて。わななきさえも痺れるように夢心地で。溢れるほど注がれて作り替えられていく。
この快感は少し切ない。
美しい青い瞳も。少しだけ、切なさをはらんで映るのはどうしてだろう。
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