【完結】奪われた花嫁は海の藻屑になりそこね、水龍王に愛でられる

remo

文字の大きさ
上 下
10 / 22
2章.なりそこねた少女は水龍王に愛でられる

01.再生

しおりを挟む
「…まだ」

ふわふわ浮かぶ。ゆらゆら漂う。心地いい。快い。満ち足りた。充足。
じわじわ高まる心地良さに思わず身じろぐと、

「動くな。充分でない」

大きな力に引き戻され、柔らかく包み込まれて、瞬間、内側から弾けた。
振動。爆発。閃光。戦慄。余韻。
注がれて微睡まどろんで揺られて漂う。

この最高に心地良い温もりを、快感の喘ぎを、私は知っている。かつて経験したことがある。それはいつだったか、私がまだ人間で、人の子の名前を持っていた頃。

…まだ人間? では今は? …名前? そう、私は、…

「…、ネ」

口を開けると温かな舌を差し込まれた。ゆっくりと撫でられて舐められて絡められて吸われる。快感に耐えられなくて内側から込み上げた熱い塊が次々弾ける。弾けても弾けても終わらずに震える身体を持て余して声が漏れる。

「…うん? 気持ちいいのだな、リーネ?」

沁み渡るような深い声が自分の名前を呼ぶ。…リーネ。
その声に触れると、自分が浄化され、穢れなく透明に澄んでいくような気がした。痛みも苦しみも。悲しさも寂しさも。不本意も理不尽もやるせなさも。憤りを感じることも全て。甘く溶かされる。

温かい。気持ちいい。

どうして、ここにいるのか。なぜ、こうしているのか、もう思い出せない。
全部忘れて溶けて消えてしまった。

「…案ずるな。ここには心地よさ以外、何もない」

深く沁みるこの声は誰のものだろう。目を開けるのが少し億劫ではあったが、自分の全てを大きく包み込み、癒し慈しみながら繋がっている存在を見たい気持ちも強い。そっと重い瞼を上げた。

「…リーネ。お前を確かに受け取った」

目に映ったのは、怖いくらい青く蒼く碧い二つの瞳。すぐ目の前で、キスの距離から自分を見ている。ガラス細工のように精巧で曇りなく、透明に澄んで眩しい、青。この色を知っている。人を癒し生かす、恵みの水の色。

「まだもう少し、漂うが良い。三日三晩、注ぎ続けねばお前はここで生きてゆけぬ」

頭に直接語りかけてくるような、水を伝って振動するような、深い声が再び響く。寄せては返す波の音のように穏やかで、生まれ出づる前に母の胎内で聞く心音のように安心する。

眠い。ずっと続いていて欲しい心地良い微睡まどろみの中。
しっかりと穿うがたれた繋がりから絶え間なく繰り返される律動。何度となく注ぎ込まれる快感。

この水の瞳を持ち、自分を繋ぎ止めている存在はひどく大きく、爪と牙と鱗、羽のようなものもある。まるで、…龍のよう。

眠い。抗えない睡魔に溶けるように落ちていく。
律動。刺激。快感。心地よく昇り詰めて弾けて。わななきさえも痺れるように夢心地で。溢れるほど注がれて作り替えられていく。

この快感は少し切ない。
美しい青い瞳も。少しだけ、切なさをはらんで映るのはどうしてだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios
恋愛
妃を亡くした国王には愛妾が一人いる。 新しく迎えた若い王妃は、そんな愛妾に見向きもしない。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...