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1章.奪われた花嫁は海の藻屑に
06.レオン・ディアベルト
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「…うん、綺麗だ」
湯浴みして、髪を整え、シルクとレースがふんだんに施された贅沢で美しいドレスを身に纏ったココリーネを満足そうに見つめる男は、レオン・ディアベルトと名乗った。見る者を虜にする甘く端正な顔立ちのディアマナス国第二王子である、らしい。
レオン王子は牧場に続く丘にある林の中で、恐怖で動けないココリーネを抱き上げると、後からやってきた従者たちと共に颯爽と馬を操って王城に戻った。初めて目にする賑やかな王都の中心部を抜け、広大で豪奢な王城に入ると、あれよあれよという間に侍女たちにかしずかれ、訳が分からぬまま全身を洗われ、オイルやらパウダーやら芳しい香りのものを身体や髪に振りかけられた。洗ってスッキリした髪は軽やかにカットされ、愛らしく結い上げられて、花飾りまで付けられた。「いかがですか、ココ様」鏡に映る自分はもはや別人で、まるで現実感がない。金色の髪と藍色の瞳を持つ麗しいレオン王子の前に立っていることも、未だまるで、現実感がない。
「おいで、ココリーネ。お腹が空いているだろう?」
王子はココリーネの手を取って、テーブルまで連れてくると、恭しく自分の隣に座らせた。テーブルには見たこともない豪華な食事が所狭しと並べられている。香ばしく焼き上げられた肉や魚、色とりどりの野菜に新鮮な果物、琥珀色の飲み物や甘い香りのする宝石のようなお菓子たち。
「ほら、口を開けて」
自分の身に起きていることも、目の前の光景もおよそ信じられない。王子が手づから料理を取り分け、ココリーネの目の前に差し出してくれても、身体が強張ってなかなか口を開くことが出来ない。
「…どうした? ココ?」
王子がココリーネの髪に手を差しいれて、間近から覗き込む。
甘やかな藍色の瞳が一心に自分に注がれている。こんなに綺麗な瞳も、綺麗な男の人も、見たことがない。目に映るもの触れるもの、何もかもが初めてで、怖い。どうして自分はここに連れてこられたのか。
この人は何の躊躇いもなくベンを一刺しにした。ベンはどうなっただろう。牧場はどうなっただろう。粉屋はどうなっているんだろう。王子がすることは絶対だけど、自分はここにいて、こんな風に着飾って、豪華な食事をして、いいのだろうか。
「あ、の、…」
それを聞くことは許されるだろうか。
目の前の王子は自分をどうしようとしているのだろうか。
「…うん?」
震えるココリーネの唇を、王子の滑らかな指先がなぞり、王子の麗しい唇が軽く触れた。
湯浴みして、髪を整え、シルクとレースがふんだんに施された贅沢で美しいドレスを身に纏ったココリーネを満足そうに見つめる男は、レオン・ディアベルトと名乗った。見る者を虜にする甘く端正な顔立ちのディアマナス国第二王子である、らしい。
レオン王子は牧場に続く丘にある林の中で、恐怖で動けないココリーネを抱き上げると、後からやってきた従者たちと共に颯爽と馬を操って王城に戻った。初めて目にする賑やかな王都の中心部を抜け、広大で豪奢な王城に入ると、あれよあれよという間に侍女たちにかしずかれ、訳が分からぬまま全身を洗われ、オイルやらパウダーやら芳しい香りのものを身体や髪に振りかけられた。洗ってスッキリした髪は軽やかにカットされ、愛らしく結い上げられて、花飾りまで付けられた。「いかがですか、ココ様」鏡に映る自分はもはや別人で、まるで現実感がない。金色の髪と藍色の瞳を持つ麗しいレオン王子の前に立っていることも、未だまるで、現実感がない。
「おいで、ココリーネ。お腹が空いているだろう?」
王子はココリーネの手を取って、テーブルまで連れてくると、恭しく自分の隣に座らせた。テーブルには見たこともない豪華な食事が所狭しと並べられている。香ばしく焼き上げられた肉や魚、色とりどりの野菜に新鮮な果物、琥珀色の飲み物や甘い香りのする宝石のようなお菓子たち。
「ほら、口を開けて」
自分の身に起きていることも、目の前の光景もおよそ信じられない。王子が手づから料理を取り分け、ココリーネの目の前に差し出してくれても、身体が強張ってなかなか口を開くことが出来ない。
「…どうした? ココ?」
王子がココリーネの髪に手を差しいれて、間近から覗き込む。
甘やかな藍色の瞳が一心に自分に注がれている。こんなに綺麗な瞳も、綺麗な男の人も、見たことがない。目に映るもの触れるもの、何もかもが初めてで、怖い。どうして自分はここに連れてこられたのか。
この人は何の躊躇いもなくベンを一刺しにした。ベンはどうなっただろう。牧場はどうなっただろう。粉屋はどうなっているんだろう。王子がすることは絶対だけど、自分はここにいて、こんな風に着飾って、豪華な食事をして、いいのだろうか。
「あ、の、…」
それを聞くことは許されるだろうか。
目の前の王子は自分をどうしようとしているのだろうか。
「…うん?」
震えるココリーネの唇を、王子の滑らかな指先がなぞり、王子の麗しい唇が軽く触れた。
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