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1章.奪われた花嫁は海の藻屑に
05.襲撃
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「待ってくれ。そんなこと、到底信じられない」
我に返ったマルスが引き留めるが、ベンは全くひるまず言い募る。
「マルス様はご存じないでしょうが、ココリーネは僕と何度も愛を交わしています。確かめれば分かることです」
「本当なのか、ココリーネ!?」
ココリーネは何が何やら分からないまでも必死で首を横に振った。驚きのあまり言葉が出ない。
「ココリーネは腹の子のために財産が必要だとあなたに迫ったのでしょう。それでもあなたがココリーネを妻にと望むなら、僕も潔く身を引きます。ただ、最後に二人だけで話をさせて下さい。日没までには牧場にお返しすると約束します」
「…分かった。ココリーネ、私はお前を信じている。牧場で待っているから、この若者と話を付けて来なさい」
マルスがココリーネを離し、ベンがココリーネを自分の馬に乗せた。重い鎖のようにベンの太い腕が腰に巻き付く。ココリーネは不安と嫌悪に身じろいだが、ベンの太い腕はびくとも動かず、マルスを乗せた馬車は立ち去っていく。「さあ、行こうか」ベンはココリーネをがっしりとつかんだまま林の中に進んだ。
「お、お、…」
降ろして下さい、とようやく出せた声で訴えたけれど、ベンはニヤリとしたまま耳を貸さない。人気のない林の奥まで入っていき、「ほらよっ」ココリーネを馬から突き落とした。地面に打ち付けた肩と背中に激痛が走る。
「お前を犯して殺せば俺には大金が手に入る」
馬から降りたベンは苦痛にもがくココリーネの上に乗りかかった。
「お前には何の恨みもないが、全てはメアリと金のため。悪く思うな、せいぜい楽しませてやるからよ」
下卑た笑いを浮かべたベンに乗られて、力ずくで衣服を剥ぎ取られる。恐怖とショックで声が出ない。身を捩らせて抵抗を試みるが、ガタイの良いベンの前では無力に等しかった。ソーセージのように厚いベンの手で口を塞がれ、スカートをたくし上げられる。ベンの指の感触を肌に感じ、生理的な嫌悪感に冷や汗が溢れ、吐き気に襲われた。嫌だ。助けて。なんで。どうして。
「ぐわ、…っ」
ふいに、ココリーネの身体を這い回るベンの太い手と興奮した荒い息使いが止まった。馬乗りになっていたベンが呻き声を上げると、どさりと傍らに転がり落ちた。身体が軽くなる。ココリーネは反射的に起き上がり、身ごろをかき合わせた。ベンは苦悶の表情を浮かべたままかっと目を見開いたかと思うと大量の血を吐き、巨体を痙攣させ、やがて動かなくなった。恐怖に震えるココリーネの目に、ベンの背中から流れる血が地面に黒いシミを作っているのが見えた。
「…怪我は?」
恐怖と混乱で泣きながら動けずにいるココリーネの前に人影が立つ。とても身なりが良く、恐ろしく整った顔立ちの男性で、ベンを刺したと思われる剣を携えている。ココリーネを見つめる瞳は海より深い藍色で、太陽の光を受けて金色の髪がキラキラと輝いていた。
我に返ったマルスが引き留めるが、ベンは全くひるまず言い募る。
「マルス様はご存じないでしょうが、ココリーネは僕と何度も愛を交わしています。確かめれば分かることです」
「本当なのか、ココリーネ!?」
ココリーネは何が何やら分からないまでも必死で首を横に振った。驚きのあまり言葉が出ない。
「ココリーネは腹の子のために財産が必要だとあなたに迫ったのでしょう。それでもあなたがココリーネを妻にと望むなら、僕も潔く身を引きます。ただ、最後に二人だけで話をさせて下さい。日没までには牧場にお返しすると約束します」
「…分かった。ココリーネ、私はお前を信じている。牧場で待っているから、この若者と話を付けて来なさい」
マルスがココリーネを離し、ベンがココリーネを自分の馬に乗せた。重い鎖のようにベンの太い腕が腰に巻き付く。ココリーネは不安と嫌悪に身じろいだが、ベンの太い腕はびくとも動かず、マルスを乗せた馬車は立ち去っていく。「さあ、行こうか」ベンはココリーネをがっしりとつかんだまま林の中に進んだ。
「お、お、…」
降ろして下さい、とようやく出せた声で訴えたけれど、ベンはニヤリとしたまま耳を貸さない。人気のない林の奥まで入っていき、「ほらよっ」ココリーネを馬から突き落とした。地面に打ち付けた肩と背中に激痛が走る。
「お前を犯して殺せば俺には大金が手に入る」
馬から降りたベンは苦痛にもがくココリーネの上に乗りかかった。
「お前には何の恨みもないが、全てはメアリと金のため。悪く思うな、せいぜい楽しませてやるからよ」
下卑た笑いを浮かべたベンに乗られて、力ずくで衣服を剥ぎ取られる。恐怖とショックで声が出ない。身を捩らせて抵抗を試みるが、ガタイの良いベンの前では無力に等しかった。ソーセージのように厚いベンの手で口を塞がれ、スカートをたくし上げられる。ベンの指の感触を肌に感じ、生理的な嫌悪感に冷や汗が溢れ、吐き気に襲われた。嫌だ。助けて。なんで。どうして。
「ぐわ、…っ」
ふいに、ココリーネの身体を這い回るベンの太い手と興奮した荒い息使いが止まった。馬乗りになっていたベンが呻き声を上げると、どさりと傍らに転がり落ちた。身体が軽くなる。ココリーネは反射的に起き上がり、身ごろをかき合わせた。ベンは苦悶の表情を浮かべたままかっと目を見開いたかと思うと大量の血を吐き、巨体を痙攣させ、やがて動かなくなった。恐怖に震えるココリーネの目に、ベンの背中から流れる血が地面に黒いシミを作っているのが見えた。
「…怪我は?」
恐怖と混乱で泣きながら動けずにいるココリーネの前に人影が立つ。とても身なりが良く、恐ろしく整った顔立ちの男性で、ベンを刺したと思われる剣を携えている。ココリーネを見つめる瞳は海より深い藍色で、太陽の光を受けて金色の髪がキラキラと輝いていた。
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