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1章.奪われた花嫁は海の藻屑に
04.求婚
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「ココリーネ・リンシャ。君を愛している。どうか私の妻になっておくれ」
マルスがその父トム・レゴリーを伴って粉屋に現れ、恭しく跪いてココリーネに求婚した時、ココリーネはこんな夢のようなことが本当にあるのかと信じられない思いだった。粉屋夫婦も娘のメアリも驚きのあまり呆然としている。この街で最も裕福な牧場主の息子にみすぼらしいココリーネが見初められるなんて、天地がひっくり返ってもあり得ない。
「マルス様。本当にココリーネでよろしいんですか。家にはもう一人器量良しのメアリもおりますが、…」
粉屋夫婦がそれとなく愛娘を勧めても、マルスは笑顔で辞退した。半信半疑の粉屋夫婦だったが、膨大な支度金を目にするところりと態度を変え、大喜びで承諾した。「世の中にはうまい話もあるもんだ」「何の取り柄もない娘だったけど、最後に良い働きをしたよ」レゴリー親子にへつらって、結納を交わし、親交の宴を催した。
「ココリーネお姉様ったら、こんな素敵な殿方をたらし込むなんて。意外とやるわね」
メアリはマルスの野生的な魅力にうっとりと見惚れながらココリーネを肘で小突く。
「あたしから水汲みの仕事を奪い取ったのはそういうことだったのね。ああでもこんな素敵な人がお義兄様になるなんて、あたしも鼻が高いわ」
メアリはマルスに擦り寄った。
メアリには恋仲になった男たちが何人かいたが、マルスはその誰よりも精悍で大人の魅力に溢れている。おまけに大金持ちだ。こんな人が美しい自分を差し置いて下卑たココリーネを選ぶなんて、…あるわけないのよ。メアリは胸の奥でこっそりとほくそ笑んだ。
後日、迎えに来たマルスに連れられて、ココリーネは長年暮らした粉屋を後にした。粉屋夫婦も義妹のメアリも、快く送り出してくれた。これからはメアリと比べられたり蔑まれたりすることのない生活が始まる。優しく逞しいマルスとの牧場での生活はとても穏やかそうだ。ココリーネは生まれて初めての希望を胸にしていた。
「待てっ」
牧場に向かうマルスとココリーネの一行が小高い丘に差し掛かった時、突如一行の前に馬に乗った若者が現れた。マルスの牧場はこの丘を登った先にある。
「ココリーネ、迎えに来たぞ。さあ、僕と一緒に来るんだ」
ココリーネが乗っている馬車まで進み出てきたのは、どこかで見たことのある男だった。誰だったか、…そう、かつてメアリが交際していた呉服商の息子、ベン・セバスチャンだ。
「ココリーネと僕は、将来を誓い合った恋人同士だ。ココリーネは僕の子を身ごもっている。悪いが、その結婚、認めるわけにはいかない」
ベンは声高に語り、驚きに固まる一行を横目に強引に馬車に押し入ると、ココリーネの腕をつかんだ。
マルスがその父トム・レゴリーを伴って粉屋に現れ、恭しく跪いてココリーネに求婚した時、ココリーネはこんな夢のようなことが本当にあるのかと信じられない思いだった。粉屋夫婦も娘のメアリも驚きのあまり呆然としている。この街で最も裕福な牧場主の息子にみすぼらしいココリーネが見初められるなんて、天地がひっくり返ってもあり得ない。
「マルス様。本当にココリーネでよろしいんですか。家にはもう一人器量良しのメアリもおりますが、…」
粉屋夫婦がそれとなく愛娘を勧めても、マルスは笑顔で辞退した。半信半疑の粉屋夫婦だったが、膨大な支度金を目にするところりと態度を変え、大喜びで承諾した。「世の中にはうまい話もあるもんだ」「何の取り柄もない娘だったけど、最後に良い働きをしたよ」レゴリー親子にへつらって、結納を交わし、親交の宴を催した。
「ココリーネお姉様ったら、こんな素敵な殿方をたらし込むなんて。意外とやるわね」
メアリはマルスの野生的な魅力にうっとりと見惚れながらココリーネを肘で小突く。
「あたしから水汲みの仕事を奪い取ったのはそういうことだったのね。ああでもこんな素敵な人がお義兄様になるなんて、あたしも鼻が高いわ」
メアリはマルスに擦り寄った。
メアリには恋仲になった男たちが何人かいたが、マルスはその誰よりも精悍で大人の魅力に溢れている。おまけに大金持ちだ。こんな人が美しい自分を差し置いて下卑たココリーネを選ぶなんて、…あるわけないのよ。メアリは胸の奥でこっそりとほくそ笑んだ。
後日、迎えに来たマルスに連れられて、ココリーネは長年暮らした粉屋を後にした。粉屋夫婦も義妹のメアリも、快く送り出してくれた。これからはメアリと比べられたり蔑まれたりすることのない生活が始まる。優しく逞しいマルスとの牧場での生活はとても穏やかそうだ。ココリーネは生まれて初めての希望を胸にしていた。
「待てっ」
牧場に向かうマルスとココリーネの一行が小高い丘に差し掛かった時、突如一行の前に馬に乗った若者が現れた。マルスの牧場はこの丘を登った先にある。
「ココリーネ、迎えに来たぞ。さあ、僕と一緒に来るんだ」
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「ココリーネと僕は、将来を誓い合った恋人同士だ。ココリーネは僕の子を身ごもっている。悪いが、その結婚、認めるわけにはいかない」
ベンは声高に語り、驚きに固まる一行を横目に強引に馬車に押し入ると、ココリーネの腕をつかんだ。
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