【完結】金の国 銀の国 蛙の国―ガマ王太子に嫁がされた三女は蓮の花に囲まれ愛する旦那様と幸せに暮らす。

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35.真実を貫く魔王剣②

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「いやっほ――――――い!」「受け取った――――――い!」
「極悪極悪ガマニエルっ!」「闇落ち闇落ちガマニエルっ!!」

魔王剣を手にしたガマニエルにゴブリンたちは大喜びではやし立て、手に手を取って盛り上がる。

「いいぞ、ガマニエル。やれっ、やってしまえっ!!」

ドーデモードも調子づいて、格闘技を見物する観客のように身を乗り出した。

「…そうだ。俺は愚かで臆病なれ者だ」

魔王ドーデモードから託された禍々しさ全開の剣を受け取り、ガマニエルがゆらりと立ち上がる。魔王剣に切り付けられた肩口からは血が溢れ出て、醜い斑点模様を赤く染めている。

「や、いやいやいや、ガマニエル様、…」
「ほ、本気で私たちを刺すおつもりじゃあ、…」

表情を無くし、操り人形のようにゆらゆら揺れるガマニエルの巨体を見て、アマリリスとアネモネは手に手を取って後退る。あんな不気味で強力な剣に刺されたら、美貌が台無し、…どころじゃないわ、もはや完全に消滅してしまう。美しさは正義だけど命あっての物種だし、…

「ガ、ガマニエル様、お気を確かに? よく目を見開いてご覧になって。私たち、仕方なく押し付けられたアヤメじゃなくて」
「世にも美しい愛妾ですわよ!?」
「そうよ、アネモネ、よく言ったわ。そういうことで、大変残念ですけれど、ガマニエル様にアネモネを差し上げますわ」
「ちょっとお姉さま。会話が噛み合ってないじゃない。この期に及んでご自分だけ助かる気!?」
「いえいえ、オホホ。私、夫のある身ですので、この辺で失礼させていただこうかと、…」
「ちょっとちょっとぉ。今更金のボンクラ引っ張り出して、自分だけ逃れるなんて許されないわよ!?」
「いえいえ、オホホ。あなたガマニエル様にご執心だったから、私、殊勝にも身を引こうかと」
「何言ってんの、殺されるくらいなら私だって銀のボンクラの方が数倍マシよっ!!」

取り合った手を握りしめて、今度はつかみ合いの喧嘩を始める。自分だけは助かろうと必死だ。そのためなら、誰を犠牲にしようと構わない。

「醜い、…」「醜すぎる、…」
「あーやだやだ、これだから見てくれだけの女なんて」

そのあまりにも露骨な態度にゴブリンでさえげんなりしている。決して魔界男子の抱かれたい男ナンバー67位を馬鹿にされたからではない。

「正直、最も魔族に相応しいのはあの女たちじゃないでやんすか」
「確かにでやんす」「お前、たまには良いこと言ったでやんす!」

頷き合うゴブリンABCの会話を聞いて、いや、あんな現金な女、こっちからお断りだ、とドーデモードはこっそり思う。魔王にだって選択権がある。私の可愛いラミナはあんな現金な女じゃ、…と愛妃を思い浮かべて、いや、見てくれだけのガマニエルに惹かれて付いていったんじゃなかったか、とちょっと自信が無くなった。

「真実を貫くのなら、刺すしかないだろうな」

魔王とゴブリンが現金女に手間取っている間に、意を決したガマニエルが手に持った禍々しい剣を振り上げた。

「ええええ――――――っ!!」
「いやあああ――――――っっ」

切先が不気味な光を帯びてギラギラ光る。アマリリスとアネモネは、つかみ合いの手を止めて、ひしっと固く抱き合い、目を閉じた。

い、いくのか、ホントにいくのかっ、悪どいな、ガマニエル、…っ

自分でけしかけたとはいえ、決定的瞬間に興奮が隠しきれないドーデモードが手に汗を握る。血走った目を大きく見開くと、ガマニエルは魔王剣をその手に掲げて大きく振り下ろし、…

「ダメです、…っ!!」

なんか光の矢みたいな、稲妻みたいなものが煌めいて、瞬時にに目の前をよぎり、ガマニエルが振り下ろした魔王剣の切っ先に飛び込んでいった。

「え、…?」「は、…?」「あら、…?」

その場に居合わせた誰もが何が起きたか分からなかった。

ただなにか、大きな光が弾けて、おどろおどろしく薄暗い魔王城の謁見の間が真昼のような明るさに包まれた。お互いを抱きしめて震えていた姉姫たち2人が恐る恐る目を開く。痛くない。刺されてない。とりあえず無事だわ。

「アネモネっ」「お姉さまっっ」

昨日の敵は今日の友。ついさっきまでお互いを売ろうとしていたことなどすっかり忘れて、2人は涙を流して抱き合った。

「愛してるわ、アネモネっ」「やっぱりお姉さまは最高ですわ~~~っ」

ななな、なんだ。何があった!?

動揺するドーデモードが目を凝らして一歩踏み出すと、

「なんで、…ダメだ、…アヤメ――――――っっ!!」

血を吐くようなガマニエルの悲痛な叫び声が魔王城に響き渡った。

巨大で不気味で醜悪なガマ妖怪はどこにもいない。
そこには、輝くばかりに美しく、誰もが一目で魅了されてしまう秀麗すぎる美男子が、何やらちっぽけで、痩せて黒い牛蒡のような人間の娘を、この上なく大切そうにその両腕で抱きしめていた。
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