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27.魔王妃ラミナの逆襲③
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ラミナス祭当日。
降り積もった雪を眩しい日差しが照らす中、朝早くから号砲が鳴り響き、鮮やかに彩られた煙幕が祭りの開催を知らせた。この日を心待ちにしていた街の人々は皆早起きで、装飾が施された通りには軽快な音楽が流れ、次々と市が立ち並び、人々はラミナス祭万歳、と賑やかに声を掛け合いながら、出店巡りに勤しんだ。
「どんな衣装にしようかしら、迷っちゃうわ~~~」
「見てから決めましょうよ」
金銀王子とその妻たちも、珍しく早起きをしてウキウキと貸衣装屋に出かけていく。
「私がベストカップルに選ばれるところを見せつけてあげるわ」
「あーら、お姉様、選ばれるのは私よ」
「バカ言っちゃいけないわ、ベストなのは私って昔から決まってるの」
「あらあら、お姉様。私の方が常にベストよ。ベストが服着て歩いてるって言われてるもの」
「何言ってるの、ベストは服なんだから着たら重ね着になっちゃうでしょ」
「そっちこそ何言ってるの、そのベストじゃないわよ」
何かと低レベルな争いを繰り広げながら。
「…っていうか、そもそも夫とベストカップルになっていいの?」
「それもそうね」
「私たちにはガマニエル様という共通の推しがいるのよ?」
「確かに! 夫ではベストとは言えないわ!」
「いやいや、ちょっと待って」「夫以外の人とベストカップルっておかしいでしょ」
妻たちの張り合いをなだめながら、後ろをついて行く金銀王子たちは、
「俺たちってさ、一応結婚してるんだよな」
「魔王の呪いがかかっているのは分かってるけど」
「「…扱いが雑過ぎない?」」
今更ながら傷ついた心を慰め合っているのだった。
「祭りの朝市では、パンマルシェが人気ですよ。特にフルーツサンドが絶品で売り切れ必須なので、早めに行かれてみてはいかがですか」
モリス卿の勧めで、アヤメとばあやはパンマルシェに出かけることにした。ガマニエルは教会で待っていると言い、ガラコスとルキオが供についてくれることになった。
「ばあや、ばあや、見て。みんな並んでいるわ。やっぱりすごく人気なのね」
様々な形の氷のオブジェが並べられた通りは、華やかに賑わっている。アヤメは所狭しと並び立てられた市を見ながらはしゃいで歩いた。モリス卿が言っていたパンマルシェは行列が出来ていて、目当てのフルーツサンドはもう残りわずかだったが、メロンと柿といった珍しいフルーツの組み合わせと芳醇なクリームがマッチした絶品をゲットすることに成功した。
「すごく美味しい!」「ですね、姫さま!」
フルーツサンドを堪能した後は、ガラス細工工房を訪れたり、雪見酒の利き酒をしたり、子どもたちの演奏会に耳を澄ませたりして通りの催しを楽しんだ。アヤメは終始笑顔で、憧れのお祭りに参加できて本当に嬉しそうだったが、それでもばあやにはどこか無理があるように感じられた。
姫さまも、本当はキモガマ、でなくて、旦那様とカップルイベントに参加したかったんでしょうに。
昨夜、ガマニエルが食事処を出て行ってから、アヤメはどうも元気がない。自分はガマニエルにふさわしくない、と思っているようだ。
ガマニエルは優しいから妻であるアヤメを優先してくれるが、人前に出すには、やはり姉姫たちのように美貌と知性を兼ね備えた華のある女性がいい。そもそも、ガマニエルがこの旅に連れていきたかったのは本当は姉姫たちなのだ。自分は無理を言って連れてきてもらったに過ぎない。
などと思っているのが手に取るように分かる。
「姫さま。婿殿は恥ずかしがってるんだと思いますよ?」
「…うん。恥ずかしい、よね」
あのキモガマがそんなタマかと思いながら、なけなしのフォローをしてみても、アヤメは自分といることが恥ずかしいのだ、とマイナスに捉えてしまう。
逆じゃ、逆! と叫びたい。いや、実際叫んでもみた。アヤメの頭を揺さぶって、しっかりしろ、あのボケガエルの方がどう見てもよっぽど恥ずかしい容貌だろう! と。
しかし、どうにも姫さまの心には響いてくれない。体のいい慰めと思われているらしい。
旦那様には恥ずかしいところなんて一つもない、ばあやは言葉が過ぎるわ、などと諌められる始末だ。姫さまは、嗜好が相当偏っている。
まあ。姫さまは不遇の時代が長かったから、趣味が変でも文句は言えまいが、…
ため息を堪えながら、ばあやがアヤメに目を向けると、
「…姫さま⁉︎」
いつの間にかアヤメはシンデレラの館などといういかにも怪しげな館に迷い込んでいた。
「姫さま、お待ちに、…」
「おやおや、お連れ様ですか?」
ばあやと従者たちがアヤメの後を追うと、これまた怪しげな美魔女風の女性が出て来て、にっこり笑いながらさりげなく行く手を阻むという高等テクニックを繰り出した。
「皆さまにも変身願望がおありなんですね」
「変身、…?」
言われてみれば「なりたい自分になれる」などという幟が館の前にはためいている。この怪しい謳い文句がアヤメの心を掴んだのか。
「こちらは変身願望を叶える館です。先程のお嬢さんは、ここでご自分の望む姿になって、洞窟イベントに参加されるそうです。どうぞ皆さま、お楽しみにしてらして。きっと、驚くべき変貌を遂げますわ」
美魔女店員の真っ赤なルージュは、なんとも危険な信号に見える。
「姫さまと、離れるわけにはいかないのですが」
「大丈夫です。洞窟で、すぐに会えますから」
館の前でばあやと従者が食い下がるが、中に入れてはもらえない。ガラコスとルキオは目と目を見交わして、
「失礼」
ガラコスが強引に館に押し入り、ルキオがガマニエルの待つ教会に走った。
降り積もった雪を眩しい日差しが照らす中、朝早くから号砲が鳴り響き、鮮やかに彩られた煙幕が祭りの開催を知らせた。この日を心待ちにしていた街の人々は皆早起きで、装飾が施された通りには軽快な音楽が流れ、次々と市が立ち並び、人々はラミナス祭万歳、と賑やかに声を掛け合いながら、出店巡りに勤しんだ。
「どんな衣装にしようかしら、迷っちゃうわ~~~」
「見てから決めましょうよ」
金銀王子とその妻たちも、珍しく早起きをしてウキウキと貸衣装屋に出かけていく。
「私がベストカップルに選ばれるところを見せつけてあげるわ」
「あーら、お姉様、選ばれるのは私よ」
「バカ言っちゃいけないわ、ベストなのは私って昔から決まってるの」
「あらあら、お姉様。私の方が常にベストよ。ベストが服着て歩いてるって言われてるもの」
「何言ってるの、ベストは服なんだから着たら重ね着になっちゃうでしょ」
「そっちこそ何言ってるの、そのベストじゃないわよ」
何かと低レベルな争いを繰り広げながら。
「…っていうか、そもそも夫とベストカップルになっていいの?」
「それもそうね」
「私たちにはガマニエル様という共通の推しがいるのよ?」
「確かに! 夫ではベストとは言えないわ!」
「いやいや、ちょっと待って」「夫以外の人とベストカップルっておかしいでしょ」
妻たちの張り合いをなだめながら、後ろをついて行く金銀王子たちは、
「俺たちってさ、一応結婚してるんだよな」
「魔王の呪いがかかっているのは分かってるけど」
「「…扱いが雑過ぎない?」」
今更ながら傷ついた心を慰め合っているのだった。
「祭りの朝市では、パンマルシェが人気ですよ。特にフルーツサンドが絶品で売り切れ必須なので、早めに行かれてみてはいかがですか」
モリス卿の勧めで、アヤメとばあやはパンマルシェに出かけることにした。ガマニエルは教会で待っていると言い、ガラコスとルキオが供についてくれることになった。
「ばあや、ばあや、見て。みんな並んでいるわ。やっぱりすごく人気なのね」
様々な形の氷のオブジェが並べられた通りは、華やかに賑わっている。アヤメは所狭しと並び立てられた市を見ながらはしゃいで歩いた。モリス卿が言っていたパンマルシェは行列が出来ていて、目当てのフルーツサンドはもう残りわずかだったが、メロンと柿といった珍しいフルーツの組み合わせと芳醇なクリームがマッチした絶品をゲットすることに成功した。
「すごく美味しい!」「ですね、姫さま!」
フルーツサンドを堪能した後は、ガラス細工工房を訪れたり、雪見酒の利き酒をしたり、子どもたちの演奏会に耳を澄ませたりして通りの催しを楽しんだ。アヤメは終始笑顔で、憧れのお祭りに参加できて本当に嬉しそうだったが、それでもばあやにはどこか無理があるように感じられた。
姫さまも、本当はキモガマ、でなくて、旦那様とカップルイベントに参加したかったんでしょうに。
昨夜、ガマニエルが食事処を出て行ってから、アヤメはどうも元気がない。自分はガマニエルにふさわしくない、と思っているようだ。
ガマニエルは優しいから妻であるアヤメを優先してくれるが、人前に出すには、やはり姉姫たちのように美貌と知性を兼ね備えた華のある女性がいい。そもそも、ガマニエルがこの旅に連れていきたかったのは本当は姉姫たちなのだ。自分は無理を言って連れてきてもらったに過ぎない。
などと思っているのが手に取るように分かる。
「姫さま。婿殿は恥ずかしがってるんだと思いますよ?」
「…うん。恥ずかしい、よね」
あのキモガマがそんなタマかと思いながら、なけなしのフォローをしてみても、アヤメは自分といることが恥ずかしいのだ、とマイナスに捉えてしまう。
逆じゃ、逆! と叫びたい。いや、実際叫んでもみた。アヤメの頭を揺さぶって、しっかりしろ、あのボケガエルの方がどう見てもよっぽど恥ずかしい容貌だろう! と。
しかし、どうにも姫さまの心には響いてくれない。体のいい慰めと思われているらしい。
旦那様には恥ずかしいところなんて一つもない、ばあやは言葉が過ぎるわ、などと諌められる始末だ。姫さまは、嗜好が相当偏っている。
まあ。姫さまは不遇の時代が長かったから、趣味が変でも文句は言えまいが、…
ため息を堪えながら、ばあやがアヤメに目を向けると、
「…姫さま⁉︎」
いつの間にかアヤメはシンデレラの館などといういかにも怪しげな館に迷い込んでいた。
「姫さま、お待ちに、…」
「おやおや、お連れ様ですか?」
ばあやと従者たちがアヤメの後を追うと、これまた怪しげな美魔女風の女性が出て来て、にっこり笑いながらさりげなく行く手を阻むという高等テクニックを繰り出した。
「皆さまにも変身願望がおありなんですね」
「変身、…?」
言われてみれば「なりたい自分になれる」などという幟が館の前にはためいている。この怪しい謳い文句がアヤメの心を掴んだのか。
「こちらは変身願望を叶える館です。先程のお嬢さんは、ここでご自分の望む姿になって、洞窟イベントに参加されるそうです。どうぞ皆さま、お楽しみにしてらして。きっと、驚くべき変貌を遂げますわ」
美魔女店員の真っ赤なルージュは、なんとも危険な信号に見える。
「姫さまと、離れるわけにはいかないのですが」
「大丈夫です。洞窟で、すぐに会えますから」
館の前でばあやと従者が食い下がるが、中に入れてはもらえない。ガラコスとルキオは目と目を見交わして、
「失礼」
ガラコスが強引に館に押し入り、ルキオがガマニエルの待つ教会に走った。
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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