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20.旅は道連れ世は情け②
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何ということだ。
酔っぱらって何をしたのか全く覚えていない、…
ガマニエルはアヤメを腕に抱き、トカゲ族の案内で砂漠を渡りながら悶々としていた。
トカゲ族の根城で兄弟の杯を酌み交わし(正直、こんなごつい弟はいらないと思った)、勧められるままに飲んだ「蜥蜴日和」という酒が、美味だがアルコール度数が高く、久しぶりに酔って記憶が飛んだ。自分がいつオアシスの街に帰ってきたのか覚えていない。気が付いたら、宿屋のベッドでアヤメを抱いて寝ていたのだ。起きた時に目の前にアヤメの顔があって、しかもはにかんだ微笑みを浮かべていたりして、キュン死にするかと思ったのだった。
「アニキ、ベタ惚れっすね」「溺愛っすね」
「これぞ真の男というものっす」「愛妻家っす」
トカゲ族のマーカスたちがニヤニヤしながら言い募って来るが、自分が何をしたのか思い出せない。そりゃあアヤメは文句なしに可愛いが、俺は何をしたんだろうか。
「ガマニエルさま、アヤメばっかりずる~い」「私にもして欲しかった!」
生贄たちが口を尖らせながら擦り寄ってくるので、ますます自信がなくなってくる。
俺は一体何を?
何か、アヤメとの仲を進展させることをしてしまったのか? て、…手を繋ぐ以上のことを!? キス、…いや、まさか、初夜的なことを!?
頭を壁にガンガンぶつけたい衝動に駆られる。
しっかりしろ、俺。自分がキモガマだという自覚をもて!
ぐるぐると疑問が巡り、自分が全く信用出来ずに腕の中のアヤメを見ると、やっぱりはにかみながら微笑まれ、途端に動悸が早くなる。
やっぱりしたのか! だったら、なんで覚えてないんだ! せっかくのアヤメとの初めてだったのに‼
後悔に青くなったり赤くなったりするが、相変わらず顔色の変化は外部からはまるで読めない。
まさかかつて月皇子の異名をとった恋の魔導士ガマニエル・ドゥ・ニコラス・シャルルが初恋相手の微笑みでキュン死になどと宣っているとは誰も思わない。
トカゲ族の特殊な日除けで灼熱の太陽を遮り、その怪力で馬車も馬も運んでもらって、何日か要すると思った砂漠の道を驚くほどの速さで渡り切った。トカゲ族は砂漠の案内人として相当に優秀だ。
「この谷の向こうは寒帯に続きます。ヘッド、大将、無事のお帰りをお待ちしております」
トカゲ族とは砂漠の果てで別れ、金銀王子とその妻たちが乗る馬車、ガマニエルとアヤメ、ばあやと蛙獣人、にトカゲ族のマーカスを加えた一行は、寒気の谷へ降り、急速に冷えていく外気に慄いて絶妙に着ぶくれながら先を急いだ。
「寒いわ。こう寒くっちゃやってられないわ」
「僕と温め合おうか、アマリリス」
「結構よ」
「寒すぎる。こんなの飲まなきゃやってられないわ」
「すみませ~ん、トカゲ族のヘッドさん、お酒追加で!」
「気がきくわね」
馬車の中は、キンキラ王子よりも「蜥蜴日和」の人気が勝っており、それなりに盛り上がっていたが、外気は刻一刻と下がっていき、外を歩く面々は次第に焦りを感じ始めた。
「おーじ、宿探す」「凍える、凍える」
「そうだな、寒帯の国まで急ごう」
気が付けば腕の中のアヤメも身震いしている。風邪でも引いたら大変だ。今夜の宿を探さなければ。
…宿。今夜はどうやって寝ることになるんだろうか。そこはやはり新婚らしく清く正しく、…新婚? 響きが甘美すぎるだろうっ!
やばい。脳みそが沸く。
ガマニエルは、すぐ先に見えている寒帯の国に向かって走りながら腕の中にアヤメの温もりを感じ、一人体温を上げているのだった。
「ようこそ、いらっしゃいませ~」
寒帯の国に入る頃にちらつき始めた小雨はまもなく霙に変わり、地面は雪と氷に閉ざされて寒さは一層厳しくなった。
ともかくも最初に目に付いた旅館らしきところに飛び込むと、室内は氷を思わせる透明なクリスタルガラスのような素材で統一された造りになっており、
「童話の世界のようですね、姫さま」
「そうね、氷のお城みたい」
初めて見るに異世界空間にアヤメとばあやはワクワク感を隠し切れずにいた。
出迎えてくれた雪のような肌色の女性たちは真っ白いドレス姿で雪の妖精を思わせた。
「なんか、寒々しい感じの宿ね」
「ていうか、女ばっかじゃない?」
若干足元がおぼつかなくなっている姉姫たちは、妖精に囲まれて眉を顰めるが、
「なんか、可愛い娘ばっかりだね」
金銀王子たちはへらっと眉尻を下げた。
「アニキ、喰いがいありそうっすよ!」
マーカスはガマニエルに囁きかけるも、冷たい一瞥に口をつぐむことになった。
本物の氷で造られているわけではないだろうが、遮断性と密閉性に優れた宿は、冷んやりと静かでどこか厳かな気分になる。
「露天風呂がございますので、お寛ぎ下さい。温まりますよ」
案内されたのは雪見温泉でどこまでも風情がある。
「ばあや、寒帯の国も素敵ね」
「それな!」
…それな?
アヤメは雪を見ながらの温泉など初めてで、ゆったり温まり、寛いでしまって、またも、魔界へ行くというよりは、旅行に来たような気分になってしまうのだった。
旦那様、酔うと可愛いし。
なんだかくすくすしてしまう。そんなアヤメに反してガマニエルは部屋の寝具の前で仁王立ちになっていた。
シュラフというのか。寝袋というのか。この極寒の地ではこれで寝るのが普通らしく旅館の部屋に用意されているのだが、…だがっ
問題はそれが一つしかないことだ。
この密密な寝具にくるまって寝ろというのか? アヤメと? 一緒に?
もしかして。
この国は、最高なんじゃあないか!?
酔っぱらって何をしたのか全く覚えていない、…
ガマニエルはアヤメを腕に抱き、トカゲ族の案内で砂漠を渡りながら悶々としていた。
トカゲ族の根城で兄弟の杯を酌み交わし(正直、こんなごつい弟はいらないと思った)、勧められるままに飲んだ「蜥蜴日和」という酒が、美味だがアルコール度数が高く、久しぶりに酔って記憶が飛んだ。自分がいつオアシスの街に帰ってきたのか覚えていない。気が付いたら、宿屋のベッドでアヤメを抱いて寝ていたのだ。起きた時に目の前にアヤメの顔があって、しかもはにかんだ微笑みを浮かべていたりして、キュン死にするかと思ったのだった。
「アニキ、ベタ惚れっすね」「溺愛っすね」
「これぞ真の男というものっす」「愛妻家っす」
トカゲ族のマーカスたちがニヤニヤしながら言い募って来るが、自分が何をしたのか思い出せない。そりゃあアヤメは文句なしに可愛いが、俺は何をしたんだろうか。
「ガマニエルさま、アヤメばっかりずる~い」「私にもして欲しかった!」
生贄たちが口を尖らせながら擦り寄ってくるので、ますます自信がなくなってくる。
俺は一体何を?
何か、アヤメとの仲を進展させることをしてしまったのか? て、…手を繋ぐ以上のことを!? キス、…いや、まさか、初夜的なことを!?
頭を壁にガンガンぶつけたい衝動に駆られる。
しっかりしろ、俺。自分がキモガマだという自覚をもて!
ぐるぐると疑問が巡り、自分が全く信用出来ずに腕の中のアヤメを見ると、やっぱりはにかみながら微笑まれ、途端に動悸が早くなる。
やっぱりしたのか! だったら、なんで覚えてないんだ! せっかくのアヤメとの初めてだったのに‼
後悔に青くなったり赤くなったりするが、相変わらず顔色の変化は外部からはまるで読めない。
まさかかつて月皇子の異名をとった恋の魔導士ガマニエル・ドゥ・ニコラス・シャルルが初恋相手の微笑みでキュン死になどと宣っているとは誰も思わない。
トカゲ族の特殊な日除けで灼熱の太陽を遮り、その怪力で馬車も馬も運んでもらって、何日か要すると思った砂漠の道を驚くほどの速さで渡り切った。トカゲ族は砂漠の案内人として相当に優秀だ。
「この谷の向こうは寒帯に続きます。ヘッド、大将、無事のお帰りをお待ちしております」
トカゲ族とは砂漠の果てで別れ、金銀王子とその妻たちが乗る馬車、ガマニエルとアヤメ、ばあやと蛙獣人、にトカゲ族のマーカスを加えた一行は、寒気の谷へ降り、急速に冷えていく外気に慄いて絶妙に着ぶくれながら先を急いだ。
「寒いわ。こう寒くっちゃやってられないわ」
「僕と温め合おうか、アマリリス」
「結構よ」
「寒すぎる。こんなの飲まなきゃやってられないわ」
「すみませ~ん、トカゲ族のヘッドさん、お酒追加で!」
「気がきくわね」
馬車の中は、キンキラ王子よりも「蜥蜴日和」の人気が勝っており、それなりに盛り上がっていたが、外気は刻一刻と下がっていき、外を歩く面々は次第に焦りを感じ始めた。
「おーじ、宿探す」「凍える、凍える」
「そうだな、寒帯の国まで急ごう」
気が付けば腕の中のアヤメも身震いしている。風邪でも引いたら大変だ。今夜の宿を探さなければ。
…宿。今夜はどうやって寝ることになるんだろうか。そこはやはり新婚らしく清く正しく、…新婚? 響きが甘美すぎるだろうっ!
やばい。脳みそが沸く。
ガマニエルは、すぐ先に見えている寒帯の国に向かって走りながら腕の中にアヤメの温もりを感じ、一人体温を上げているのだった。
「ようこそ、いらっしゃいませ~」
寒帯の国に入る頃にちらつき始めた小雨はまもなく霙に変わり、地面は雪と氷に閉ざされて寒さは一層厳しくなった。
ともかくも最初に目に付いた旅館らしきところに飛び込むと、室内は氷を思わせる透明なクリスタルガラスのような素材で統一された造りになっており、
「童話の世界のようですね、姫さま」
「そうね、氷のお城みたい」
初めて見るに異世界空間にアヤメとばあやはワクワク感を隠し切れずにいた。
出迎えてくれた雪のような肌色の女性たちは真っ白いドレス姿で雪の妖精を思わせた。
「なんか、寒々しい感じの宿ね」
「ていうか、女ばっかじゃない?」
若干足元がおぼつかなくなっている姉姫たちは、妖精に囲まれて眉を顰めるが、
「なんか、可愛い娘ばっかりだね」
金銀王子たちはへらっと眉尻を下げた。
「アニキ、喰いがいありそうっすよ!」
マーカスはガマニエルに囁きかけるも、冷たい一瞥に口をつぐむことになった。
本物の氷で造られているわけではないだろうが、遮断性と密閉性に優れた宿は、冷んやりと静かでどこか厳かな気分になる。
「露天風呂がございますので、お寛ぎ下さい。温まりますよ」
案内されたのは雪見温泉でどこまでも風情がある。
「ばあや、寒帯の国も素敵ね」
「それな!」
…それな?
アヤメは雪を見ながらの温泉など初めてで、ゆったり温まり、寛いでしまって、またも、魔界へ行くというよりは、旅行に来たような気分になってしまうのだった。
旦那様、酔うと可愛いし。
なんだかくすくすしてしまう。そんなアヤメに反してガマニエルは部屋の寝具の前で仁王立ちになっていた。
シュラフというのか。寝袋というのか。この極寒の地ではこれで寝るのが普通らしく旅館の部屋に用意されているのだが、…だがっ
問題はそれが一つしかないことだ。
この密密な寝具にくるまって寝ろというのか? アヤメと? 一緒に?
もしかして。
この国は、最高なんじゃあないか!?
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