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番外編①【葡萄】
03.
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『ほら。お前にやる』
葡萄競争でロウに敵う人狼はいない。幼少期から、彼を指導した元帥よりも速かった。
ロウは最も高い樹に生える太陽に一番近い葡萄を見つける。果樹林の山葡萄はどれも美味しいが、ロウが取ってくるてっぺん葡萄は別格で、それをいつもユイにくれた。
「ほら、お前にやる」
「え、…?」
観覧席でユイの隣にいたロウが、一瞬姿を消したかと思うと、風のように舞い戻ってきた。手に葡萄を持っている。
「なんと、本日は特別にボス自ら葡萄競争の模範演技をお披露目ですっ」
いつの間にか模範演技を披露し、てっぺん葡萄をとってきたらしい。
「ユイ。口開けろ」
「え、…っ」
展開が早すぎて状況を掴みきれないまま開けた口の中に、最高に甘くジューシーな葡萄が差し込まれた。奔放なロウの長い舌で。
「ん、…ふ、…っ」
甘くて。瑞々しくて。程よく柔らかく。とろける。
ロウがとってきてくれる山葡萄は、ユイが最も好きな食べ物である。
「ボスが手ずからご伴侶に葡萄を、…っ、手ずからと言うか舌ずから? 口移し? 羨ましい限りなんですがっ」
実況担当の人狼が興奮気味に話す声が響く。が、そんな実況に需要はあるのだろうか。
人狼社会では睦ごとはオープンであるとはいえ、恥ずかしいことに変わりはない。特にロウは注目の的だし、何でも模範とされてしまう。
この日から、葡萄競争で獲得したてっぺん葡萄を最愛の雌に捧げるのが人狼社会のトレンドになったと言う。
「美味いか?」
ロウの美しい瞳に極間近から見つめられて、ユイはいっぱいいっぱいのまま頷く。正直葡萄が甘いのかロウが甘いのか分からない。甘くて美味しくて気持ちいいのは確かだけど。
「ふ、…お前は可愛いな」
葡萄とユイを食みながら、ロウの舌先がユイを翻弄する。
ユイに葡萄を与えたロウは、なぜかとても満足そうにしている。
ブドウ大会は、利き葡萄、ワイン飲み比べ、葡萄料理と葡萄菓子の振る舞い、楽器演奏、ワイン樽転がしレース、…と続き、日が暮れるとレーザー光線、花火など光の祭典も催された。
そして。
「ユイ。俺と踊っていただけますか」
「はい」
正装した雄にエスコートされ、雌雄ペアで踊るダンスパーティが始まる。
月夜に管弦楽が流れ、流麗なドレスが優雅にはためく。
「ロウ、いつダンスなんて覚えたの」
「…覚えてない。真似してるだけだ」
確かに。
帝都で京月院スミカから習ったダンスとは違い、人間業ではないアクロバティックな動きで、空中を回転したり、湖上を駆け抜けたりする。空中遊泳のアトラクションに乗っているような爽快感があったかと思うと、一転して男女の親密な触れ合いを体現したりもする。静かに、密やかに、手足のみならず腰が触れ、肌が触れ、離れないよう密着したまま揺れ動く。
「ロウ、……」
触れているところが熱くなり、顔が熱を持ち、野外にもかかわらず、もっと奥深くまでロウと繋がりたくなる。
「俺が欲しい?」
ロウの官能的な微笑みに陥落する。
パーティ会場から離れた静かな湖上の畔で、煌びやかな衣装を纏ったまま、ロウがユイの中心を貫く。甘い吐息と身体の奥が密接に混ざり合う。
「あ、…っ、ん、……ロウ、…――――…っ」
「うん。ゆっくりいこうな」
人狼の森の奥で恍惚の舞踏に彷徨いだす番たちを、琥珀色の月だけが見ていた。
「スミカ。ブドウ会楽しかったから、お前にもやる」
「はあ。ありがとうございます」
上機嫌の白き人狼から極上の山葡萄をもらった京月院スミカは、なぜ自分が葡萄をもらえたのかよく分からないままだった。
葡萄競争でロウに敵う人狼はいない。幼少期から、彼を指導した元帥よりも速かった。
ロウは最も高い樹に生える太陽に一番近い葡萄を見つける。果樹林の山葡萄はどれも美味しいが、ロウが取ってくるてっぺん葡萄は別格で、それをいつもユイにくれた。
「ほら、お前にやる」
「え、…?」
観覧席でユイの隣にいたロウが、一瞬姿を消したかと思うと、風のように舞い戻ってきた。手に葡萄を持っている。
「なんと、本日は特別にボス自ら葡萄競争の模範演技をお披露目ですっ」
いつの間にか模範演技を披露し、てっぺん葡萄をとってきたらしい。
「ユイ。口開けろ」
「え、…っ」
展開が早すぎて状況を掴みきれないまま開けた口の中に、最高に甘くジューシーな葡萄が差し込まれた。奔放なロウの長い舌で。
「ん、…ふ、…っ」
甘くて。瑞々しくて。程よく柔らかく。とろける。
ロウがとってきてくれる山葡萄は、ユイが最も好きな食べ物である。
「ボスが手ずからご伴侶に葡萄を、…っ、手ずからと言うか舌ずから? 口移し? 羨ましい限りなんですがっ」
実況担当の人狼が興奮気味に話す声が響く。が、そんな実況に需要はあるのだろうか。
人狼社会では睦ごとはオープンであるとはいえ、恥ずかしいことに変わりはない。特にロウは注目の的だし、何でも模範とされてしまう。
この日から、葡萄競争で獲得したてっぺん葡萄を最愛の雌に捧げるのが人狼社会のトレンドになったと言う。
「美味いか?」
ロウの美しい瞳に極間近から見つめられて、ユイはいっぱいいっぱいのまま頷く。正直葡萄が甘いのかロウが甘いのか分からない。甘くて美味しくて気持ちいいのは確かだけど。
「ふ、…お前は可愛いな」
葡萄とユイを食みながら、ロウの舌先がユイを翻弄する。
ユイに葡萄を与えたロウは、なぜかとても満足そうにしている。
ブドウ大会は、利き葡萄、ワイン飲み比べ、葡萄料理と葡萄菓子の振る舞い、楽器演奏、ワイン樽転がしレース、…と続き、日が暮れるとレーザー光線、花火など光の祭典も催された。
そして。
「ユイ。俺と踊っていただけますか」
「はい」
正装した雄にエスコートされ、雌雄ペアで踊るダンスパーティが始まる。
月夜に管弦楽が流れ、流麗なドレスが優雅にはためく。
「ロウ、いつダンスなんて覚えたの」
「…覚えてない。真似してるだけだ」
確かに。
帝都で京月院スミカから習ったダンスとは違い、人間業ではないアクロバティックな動きで、空中を回転したり、湖上を駆け抜けたりする。空中遊泳のアトラクションに乗っているような爽快感があったかと思うと、一転して男女の親密な触れ合いを体現したりもする。静かに、密やかに、手足のみならず腰が触れ、肌が触れ、離れないよう密着したまま揺れ動く。
「ロウ、……」
触れているところが熱くなり、顔が熱を持ち、野外にもかかわらず、もっと奥深くまでロウと繋がりたくなる。
「俺が欲しい?」
ロウの官能的な微笑みに陥落する。
パーティ会場から離れた静かな湖上の畔で、煌びやかな衣装を纏ったまま、ロウがユイの中心を貫く。甘い吐息と身体の奥が密接に混ざり合う。
「あ、…っ、ん、……ロウ、…――――…っ」
「うん。ゆっくりいこうな」
人狼の森の奥で恍惚の舞踏に彷徨いだす番たちを、琥珀色の月だけが見ていた。
「スミカ。ブドウ会楽しかったから、お前にもやる」
「はあ。ありがとうございます」
上機嫌の白き人狼から極上の山葡萄をもらった京月院スミカは、なぜ自分が葡萄をもらえたのかよく分からないままだった。
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