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番外編①【葡萄】
01.
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ひらひらを着てくるくる回るイベントは、葡萄祭りであるらしい。
「人狼様、あれは舞踏会と称されるもので、西洋風の装いで音楽に合わせ踊るのです」
「ふうん、ブドウ会。楽しいのか」
「そうですね。楽しいと言いますか、…人間貴族の社会では教養とされています」
「教養なー」
帝都でユイを匿った京月院スミカは、人狼の森の麓で行われている樹木再生事業に参加するようになった。かつて人間が灰色人狼討伐部隊を結成し、森の麓を焼き払った際、麓一帯の大地が傷ついた。樹木再生事業とは、廃れた大地を癒し自然を再生させるため、先代が始めた事業である。
この事業の妙なところは、人間と人狼の両者が自由参加するところだ。
参加中人狼は人間を襲わず、人間は人狼を攻撃しないと言う暗黙のルールがある。人間である母が人狼の父に嫁いできた時にその約束事が出来たらしい。
現在、この事業は両者が交流を持つ唯一の場であり、帝都に降りては人間を喰らう人狼も、この場では手を出さない。もっとも、麓を離れた後、人狼が人間を襲わないという保証はないので、参加する人間はある程度の覚悟を持っているか、よほどの物好きかのどちらかだ。
そこに、京月院スミカがせっせと通い詰めている。
ユイに会いたいがためらしい。奴は後者に分類される。
しかしまあ、奴のおかげでユイが人間社会で不自由なく過ごせたらしいので、たまにユイを連れて麓に降りる。スミカはユイを見ると大喜びで近づいてくる。奴は基本いいやつなのだが、ユイに焦がれる同士であり、やたらべたべたしたがるところも似ているので、本音を言えばあまりユイに近づけたくはない。
「人間が人狼様と手を繋いでいると若干歩きにくそうですね」
更に、最近人狼に慣れたらしいスミカは、ユイと同じ種族であると言う人間マウントを取ってくる。規格外のサイズで悪かったな。
「ささ、ユイ様、お疲れでしょう。どうぞこちらへ。久我宮のシェフが朝どれコーンのスープをぜひユイ様にと」
スミカはそそくさとユイの手を取って大きな荷物の中から保温ポットを取り出す。コップにとろりとした黄金色のコーンスープを注ぎ、さあさあとユイに勧める。
こいつは一体何をしに来たんだ、と言いたくなるが、
「ありがとうございます、スミカ様」
ユイがせっかく人間と友好関係を築こうとしているので、我慢して見守る。
白き人狼として生まれ、人狼社会の絶対的統率者として生きてきたロウには、人間たちの考えることはよく分からない。何を好み、何に興ずるのか。
帝都に降りる人狼仲間の情報では、てらてらひらひらした服や手を取り合って回るイベントが人間の内で流行っているらしい。ユイを追いかけて帝都に通っていたロウもその様子を見た。スミカは今日は動きやすそうな羽織を着ているが、いつぞやはてらてらしていた。
「おい、スミカ。あのくるくる回るやつは何だ?」
機会があったら聞いてみようと思っていた問いを投げる。
てらてらしたスミカに連れられてユイがくるくる回っているのを見た時から、ロウはずっと気になっていた。ユイが楽しそうに見えたから。
「くるくる、…? ダンス、…舞踏会のことですか?」
なるほど。どうやらあのひらひらくるくるは、葡萄の祭りであるようだ。
ユイは葡萄が好きだ。
トウモロコシよりもな。
「人狼様、あれは舞踏会と称されるもので、西洋風の装いで音楽に合わせ踊るのです」
「ふうん、ブドウ会。楽しいのか」
「そうですね。楽しいと言いますか、…人間貴族の社会では教養とされています」
「教養なー」
帝都でユイを匿った京月院スミカは、人狼の森の麓で行われている樹木再生事業に参加するようになった。かつて人間が灰色人狼討伐部隊を結成し、森の麓を焼き払った際、麓一帯の大地が傷ついた。樹木再生事業とは、廃れた大地を癒し自然を再生させるため、先代が始めた事業である。
この事業の妙なところは、人間と人狼の両者が自由参加するところだ。
参加中人狼は人間を襲わず、人間は人狼を攻撃しないと言う暗黙のルールがある。人間である母が人狼の父に嫁いできた時にその約束事が出来たらしい。
現在、この事業は両者が交流を持つ唯一の場であり、帝都に降りては人間を喰らう人狼も、この場では手を出さない。もっとも、麓を離れた後、人狼が人間を襲わないという保証はないので、参加する人間はある程度の覚悟を持っているか、よほどの物好きかのどちらかだ。
そこに、京月院スミカがせっせと通い詰めている。
ユイに会いたいがためらしい。奴は後者に分類される。
しかしまあ、奴のおかげでユイが人間社会で不自由なく過ごせたらしいので、たまにユイを連れて麓に降りる。スミカはユイを見ると大喜びで近づいてくる。奴は基本いいやつなのだが、ユイに焦がれる同士であり、やたらべたべたしたがるところも似ているので、本音を言えばあまりユイに近づけたくはない。
「人間が人狼様と手を繋いでいると若干歩きにくそうですね」
更に、最近人狼に慣れたらしいスミカは、ユイと同じ種族であると言う人間マウントを取ってくる。規格外のサイズで悪かったな。
「ささ、ユイ様、お疲れでしょう。どうぞこちらへ。久我宮のシェフが朝どれコーンのスープをぜひユイ様にと」
スミカはそそくさとユイの手を取って大きな荷物の中から保温ポットを取り出す。コップにとろりとした黄金色のコーンスープを注ぎ、さあさあとユイに勧める。
こいつは一体何をしに来たんだ、と言いたくなるが、
「ありがとうございます、スミカ様」
ユイがせっかく人間と友好関係を築こうとしているので、我慢して見守る。
白き人狼として生まれ、人狼社会の絶対的統率者として生きてきたロウには、人間たちの考えることはよく分からない。何を好み、何に興ずるのか。
帝都に降りる人狼仲間の情報では、てらてらひらひらした服や手を取り合って回るイベントが人間の内で流行っているらしい。ユイを追いかけて帝都に通っていたロウもその様子を見た。スミカは今日は動きやすそうな羽織を着ているが、いつぞやはてらてらしていた。
「おい、スミカ。あのくるくる回るやつは何だ?」
機会があったら聞いてみようと思っていた問いを投げる。
てらてらしたスミカに連れられてユイがくるくる回っているのを見た時から、ロウはずっと気になっていた。ユイが楽しそうに見えたから。
「くるくる、…? ダンス、…舞踏会のことですか?」
なるほど。どうやらあのひらひらくるくるは、葡萄の祭りであるようだ。
ユイは葡萄が好きだ。
トウモロコシよりもな。
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