【完結】双き狼の相愛 人狼シリーズ③

remo

文字の大きさ
上 下
40 / 46
番外編①【葡萄】

01.

しおりを挟む
ひらひらを着てくるくる回るイベントは、葡萄祭りであるらしい。

「人狼様、あれは舞踏ぶとう会と称されるもので、西洋風の装いで音楽に合わせ踊るのです」
「ふうん、ブドウ会。楽しいのか」
「そうですね。楽しいと言いますか、…人間貴族の社会では教養とされています」
「教養なー」

帝都でユイを匿った京月院スミカは、人狼の森の麓で行われている樹木再生事業に参加するようになった。かつて人間が灰色人狼ハイイロ討伐部隊を結成し、森の麓を焼き払った際、麓一帯の大地が傷ついた。樹木再生事業とは、廃れた大地を癒し自然を再生させるため、先代が始めた事業である。

この事業の妙なところは、人間と人狼の両者が自由参加するところだ。
参加中人狼は人間を襲わず、人間は人狼を攻撃しないと言う暗黙のルールがある。人間である母が人狼の父に嫁いできた時にその約束事が出来たらしい。

現在、この事業は両者が交流を持つ唯一の場であり、帝都に降りては人間を喰らう人狼も、この場では手を出さない。もっとも、麓を離れた後、人狼が人間を襲わないという保証はないので、参加する人間はある程度の覚悟を持っているか、よほどの物好きかのどちらかだ。

そこに、京月院スミカがせっせと通い詰めている。
ユイに会いたいがためらしい。奴は後者に分類される。

しかしまあ、奴のおかげでユイが人間社会で不自由なく過ごせたらしいので、たまにユイを連れて麓に降りる。スミカはユイを見ると大喜びで近づいてくる。奴は基本いいやつなのだが、ユイに焦がれる同士であり、やたらべたべたしたがるところも似ているので、本音を言えばあまりユイに近づけたくはない。

「人間が人狼様と手を繋いでいると若干歩きにくそうですね」

更に、最近人狼に慣れたらしいスミカは、ユイと同じ種族であると言う人間マウントを取ってくる。規格外のサイズで悪かったな。

「ささ、ユイ様、お疲れでしょう。どうぞこちらへ。久我宮のシェフが朝どれコーンのスープをぜひユイ様にと」

スミカはそそくさとユイの手を取って大きな荷物の中から保温ポットを取り出す。コップにとろりとした黄金色のコーンスープを注ぎ、さあさあとユイに勧める。

こいつは一体何をしに来たんだ、と言いたくなるが、

「ありがとうございます、スミカ様」

ユイがせっかく人間と友好関係を築こうとしているので、我慢して見守る。

白き人狼として生まれ、人狼社会の絶対的統率者として生きてきたロウには、人間たちの考えることはよく分からない。何を好み、何に興ずるのか。

帝都に降りる人狼仲間の情報では、てらてらひらひらした服や手を取り合って回るイベントが人間の内で流行っているらしい。ユイを追いかけて帝都に通っていたロウもその様子を見た。スミカは今日は動きやすそうな羽織を着ているが、いつぞやはてらてらしていた。

「おい、スミカ。あのくるくる回るやつは何だ?」

機会があったら聞いてみようと思っていた問いを投げる。
てらてらしたスミカに連れられてユイがくるくる回っているのを見た時から、ロウはずっと気になっていた。ユイが楽しそうに見えたから。

「くるくる、…? ダンス、…舞踏ぶとう会のことですか?」

なるほど。どうやらあのひらひらくるくるは、葡萄の祭りであるようだ。

ユイは葡萄が好きだ。
トウモロコシよりもな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...