【完結】双き狼の相愛 人狼シリーズ③

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Ⅵロウの章【相愛】

06.

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「ユイ様っ、…ご無事で。ほん、…本当に、生きておられたのですね、…っ」

人狼の森の麓にたたずんでいた京月院スミカは、ユイの姿を見ると、感極まって涙を流した。

てらてらした着物は薄汚れ、心なしか頬もこけている。
帝都の人間である彼は、ロウと別れたこの場所で人狼の恐怖に怯えながら、ひたすらにユイに会えるのを待っていたのだ。

「遅くなってすまなかった」

凍湖にある時の狭間に落ちたり、ユイと想いを確認し合ったりして忙しかったわけだが、すっかり忘れていたとは言いづらい。

「あーあ、白き人狼たるボスが人間に謝るなど」
「また元老院たちにぐちぐち文句言われますよ」

…ほっとけ。

いつでも飛び出せるようロウの背後に控えているヴィルとシュンの嘆き声が聞こえる。ロウの耳は鋭い。恐らく人間たちには聞こえていないだろう。彼らの姿も見えてはいないかもしれない。

「いえ、いえ、滅相もございません。お会いできずともご無事をお祈りできれば良かったのです」

スミカは疲れた顔に朗らかな笑みを浮かべた。
スミカ。やっぱ、いいやつ。

「スミカ様、ご心配をおかけしました」

ロウの腕から降りて、ユイがスミカに駆け寄る。
スミカはいいやつだが、ユイに人間の男を近づけるのは気が進まない。てらてらのお揃いを着て、手を繋いでくるくる回ったりして、人間同士にしか分からないコミュニケーションをとるからだ。

ユイはロウに離さないで欲しいと言ったし離すつもりなど毛頭ないが、ロウのそばにいると言うことは人狼社会に身を置くと言うことだ。人間であるユイは異質で、本当にユイの全てを理解してやれるのか分からない。

「いいえ。ユイ様をあのような目に遭わせてしまって、本当は合わせる顔がないのですが、でも、どうしても、ご供養をと、……」

スミカは目の前に立つユイを眩しく見つめた。
外見上傷は見当たらず、不自由なく自分で立ち、可憐に微笑む。

信じられない。

凶弾に倒れ、状況は絶望的だと思われた。瀕死の重傷だった。
だからこそ、供養を終えたら後を追おうと決意してこの森に来たのに。
それら全てが悪い夢だったかのように、目に映る美少女は健やかに美しい。

「本当に、ご無事でよかった……」

類まれなる美少女は、人間ではないのかもしれない。
羽菱アキコは彼女を人狼だと言った。全く信じていなかったが、白き人狼に抱かれてやってきたところを見ると、あながち嘘でもないのかもしれない。

「お加減はいかがですか。お傷が痛まれるなどと言うことは?」

それでもいい。
彼女が何者でもいいと言った過去の自分に二言はない。
ユイが人狼でも、幽霊でも、健やかに幸せであってくれたらいい。
そう思える相手に出会えただけで、自分は果報者だと思う。

「もう、全然大丈夫です。おかげさまで、……」

言って、ユイは一瞬だけ白き人狼に恥じらうような視線を投げた。

あ。なんか、人狼様嬉しそう。

まばゆい純白の毛並みで、勇ましくて厳めしい。人狼の表情の変化などよく分からないが、ほんの一瞬見交わした二人の視線からは幸福感が滲み出ていた。

そういうことか。
京月院スミカはその一瞬ですべてを理解した。
ユイ様がお慕いしていたのはこの白き人狼様で、想いを遂げられたのだ。

「ユイ様。よろしかったですね。あれほどに思われていた方の元にお戻りになられて」

スミカが囁きかけるとユイはいつかのようにその瞳を驚きに瞬かせた。
どうして分かったのか、と瞳が問うている。

「恋とはかように聡明で崇高なもの。そしてひどく残酷なものです」

スミカはわずかに皮肉な笑みを浮かべたが、すぐに心からの笑顔を見せた。

「末永くお幸せに」

ユイの手を取ると、生まれて初めて出会えた最愛の相手の手の甲に、祝福のキスをした。
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