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番外編②【星雨】
01.
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洞窟の居城の果てには、白き人狼しかたどり着けないと言われている地下迷宮がある。地下水が湧き出す迷宮の湖に、青く透明な鉱石が出来る。かの昔、空から落ちた星が湖の底に溜まり、鉱石となったと言われている。
ロウはここ数日その地下迷路に籠り、鉱石を掘って過ごしている。
…多分。
「え、ボスがいなくなる?」
「ユイを置いて? そりゃ一つしか考えられないな」
ロウは公務や視察で留守にする時以外、ほぼ四六時中ユイとくっついている。寝ても覚めても。食事もお風呂も。そのロウが、ここ数日姿を消すことがある。大抵真夜中。散々陸み合ってユイが眠りに落ちている間。そして明け方、何事もなかったかのように戻ってくると、柔らかくて心地よい純白の毛でユイを包む。
「ロウ、…どこ、…?」
「うん。ここにいる。まだ寝ていろ」
どこにいるか問いかけても、大抵甘い舌に翻弄されてうやむやになる。戻ってきたロウからは、澄んだ星屑のような匂いがする。
「地下迷宮だろうな。代々白き人狼は、時が来ると迷宮に籠ると言われている」
「婚姻の儀式の一貫らしいぞ」
ロウの不在について、側近であるヴィルとシュンに尋ねると、そんな答えが返ってきた。彼らはいついかなる時でもボスと共にあることを信条としているので、ロウの挙動については誰よりも詳しい。
「婚姻の儀式、…?」
「お前のことをボス唯一の番にしただろ」
「それを内外に示す必要があるんだよ」
…なるほど。
灰色人狼のボスには課せられた使命が多い。
ロウは群れの最高責任者で、人狼にとって唯一無二の特別な存在である。人間のユイには計り知れないが、白き人狼として生まれた時から多くの責務を背負っている。
ロウの任務について、口出ししようとは思わない。ただ、ユイにもできることがあるといいなとは思う。そして、このところ気になっていることがある。
真夜中に戻ってきた時のロウは、神経を張り詰めさせているような気がする。ユイを求める手や舌が性急で、いつもより激しく、あらゆる個所を甘噛みされる。
「ユイ、…――――」
耳たぶ。うなじ。胸の頂き。足指、太もも、敏感な芯。
勿論全く痛くはなく、むしろ甘く官能的な刺激に満たされる。
人狼の牙や爪は人間に対して催淫効果がある。彼らは人間を襲うが、凌辱の瞬間、人間はただひたすらに極上のエクスタシーを感じている。白き人狼たるロウの牙や爪は特に強力な媚薬となる。特有の鎮静浄化作用もあるため、一切の苦痛を感じずに狂おしいほどの快楽だけを注ぎ込まれる。
何かロウに切羽詰まった事情でもあるのだろうか。
ロウはいつも一人で解決してしまうが、出来ることならユイも役に立ちたい。
明け方の営みの後、ロウは人狼が黒狼と揉めていると言う辺境の地へ赴いた。心地よい気だるさに包まれたまま目覚めたユイは、湯あみし、着替えて、髪を結わえる。ロウの噛み痕はほとんど残っていない。ロウの唾液が人間の細胞を回復させるから。それでも五感に優れた人狼たちにはユイに刻まれたロウの跡がどんなに色濃く残っているかよく分かるらしい。
「よろしいですわね、ユイ様は」
「ロウ様の寵愛を一身に受けて」
今やユイのお世話係となったカルナとナツナが朝食を運んできた。番候補としての任を果たせなかったという侘しさ。人間かつ妹でありながらロウに選ばれたユイに対する嫉妬心。彼女たちの胸中は複雑だろうが、ユイを凍湖に沈めてしまったことを深く反省し、今では誠意を持ってユイに接してくれる。
ロウはここ数日その地下迷路に籠り、鉱石を掘って過ごしている。
…多分。
「え、ボスがいなくなる?」
「ユイを置いて? そりゃ一つしか考えられないな」
ロウは公務や視察で留守にする時以外、ほぼ四六時中ユイとくっついている。寝ても覚めても。食事もお風呂も。そのロウが、ここ数日姿を消すことがある。大抵真夜中。散々陸み合ってユイが眠りに落ちている間。そして明け方、何事もなかったかのように戻ってくると、柔らかくて心地よい純白の毛でユイを包む。
「ロウ、…どこ、…?」
「うん。ここにいる。まだ寝ていろ」
どこにいるか問いかけても、大抵甘い舌に翻弄されてうやむやになる。戻ってきたロウからは、澄んだ星屑のような匂いがする。
「地下迷宮だろうな。代々白き人狼は、時が来ると迷宮に籠ると言われている」
「婚姻の儀式の一貫らしいぞ」
ロウの不在について、側近であるヴィルとシュンに尋ねると、そんな答えが返ってきた。彼らはいついかなる時でもボスと共にあることを信条としているので、ロウの挙動については誰よりも詳しい。
「婚姻の儀式、…?」
「お前のことをボス唯一の番にしただろ」
「それを内外に示す必要があるんだよ」
…なるほど。
灰色人狼のボスには課せられた使命が多い。
ロウは群れの最高責任者で、人狼にとって唯一無二の特別な存在である。人間のユイには計り知れないが、白き人狼として生まれた時から多くの責務を背負っている。
ロウの任務について、口出ししようとは思わない。ただ、ユイにもできることがあるといいなとは思う。そして、このところ気になっていることがある。
真夜中に戻ってきた時のロウは、神経を張り詰めさせているような気がする。ユイを求める手や舌が性急で、いつもより激しく、あらゆる個所を甘噛みされる。
「ユイ、…――――」
耳たぶ。うなじ。胸の頂き。足指、太もも、敏感な芯。
勿論全く痛くはなく、むしろ甘く官能的な刺激に満たされる。
人狼の牙や爪は人間に対して催淫効果がある。彼らは人間を襲うが、凌辱の瞬間、人間はただひたすらに極上のエクスタシーを感じている。白き人狼たるロウの牙や爪は特に強力な媚薬となる。特有の鎮静浄化作用もあるため、一切の苦痛を感じずに狂おしいほどの快楽だけを注ぎ込まれる。
何かロウに切羽詰まった事情でもあるのだろうか。
ロウはいつも一人で解決してしまうが、出来ることならユイも役に立ちたい。
明け方の営みの後、ロウは人狼が黒狼と揉めていると言う辺境の地へ赴いた。心地よい気だるさに包まれたまま目覚めたユイは、湯あみし、着替えて、髪を結わえる。ロウの噛み痕はほとんど残っていない。ロウの唾液が人間の細胞を回復させるから。それでも五感に優れた人狼たちにはユイに刻まれたロウの跡がどんなに色濃く残っているかよく分かるらしい。
「よろしいですわね、ユイ様は」
「ロウ様の寵愛を一身に受けて」
今やユイのお世話係となったカルナとナツナが朝食を運んできた。番候補としての任を果たせなかったという侘しさ。人間かつ妹でありながらロウに選ばれたユイに対する嫉妬心。彼女たちの胸中は複雑だろうが、ユイを凍湖に沈めてしまったことを深く反省し、今では誠意を持ってユイに接してくれる。
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