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Ⅸ章.龍宮再建

05.ただいま

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海藤ミツルは孫のルオが消えていった夕暮れの海を眺めていた。

骨董屋を営むミツルはほぼ毎日海に来て、海のがらくたを拾い集め、再生できそうなものを選り分ける。しかし、この頃その作業に身が入らない。畑の野菜も採れ過ぎてしまって近所に配って回った。家の中が静かすぎて落ち着かないず、夜中に外で猫が鳴いても目覚めてしまう。心はずっと海の果てに行ってしまったルオを追っているのだ。

無事についただろうか。元気でいるだろうか。困っていないか。泣いていないか。

海からやってきた不思議な子どもを育てている気になっていたが、自分の方がよっぽど育てられていた。ルオがいないと心に空いた穴に隙間風が吹き抜けて、どうにも落ち着かない。

胸元に手をやって何もないことに気づき、苦笑する。お守りとしてルオに琥珀のペンダントを持たせた。長い時の結晶でいつも身に着けていた。自分の代わりにルオを守ってくれていると良いが。

ぼんやりと空と海の境界線を眺めていると、不意に大きな影が落ちた。

雲? 嵐が来るのか?

大きな影はぐんぐん近づいてくる。ものすごい速さだ。雷雲か。ゲリラ雷雨か。

青い海の上を豪快に横切る大きな影は、…

「龍?」「龍だ」「竜巻?」「でも青い」「青い龍だ」

浜辺に残っていた人たちが、一斉に顔を上げ、高速で近づいてくる大きな影に釘付けになった。それは龍の形をしていた。雷雲のように灰色ではなく、海と空と同じどこまでも澄んだ美しい青色をしている。

「こっちにくるぞ」「避難っ」「みんな逃げろっ」

人々は大慌てで海辺から逃げ出した。でもミツルは動かなかった。
青い龍の正体が分かったからだ。

まっすぐにミツルに向かって飛んでくる青く美しい龍に向かって両手を広げた。

「ルオっ」

ルオだ。ルオが帰ってきた!

「おじい――――っ」

大きな青い龍は一直線に舞い降りてきた。ミツルの胸に飛び込んでくる、……いや待て。物理的に不可能じゃないか。龍になったルオは大きすぎてどう考えてもミツルには受け止めきれない。ペッちゃんこに潰される、……っ

目前に迫った巨大な龍にミツルが焦ると、

「あ、玉手箱」

龍は何やら手元をごぞごぞし、盛大な白い煙をあたりにまき散らした。白い靄に包まれて一瞬目の前が真っ白になり何も見えなくなる。

「うわあ、なんだ」「霧?」「竜巻?」

逃げ惑う人たちの動揺する声が聞こえる。

「おじい、ただいまっ。帰ってきたよ」

霧の向こうに人影が見えた。と思ったら、普通に小学生サイズのルオが飛びついてきた。
ルオ。ルオだ。元気そうだ。明るい顔をして、帰ってきてくれた。

「おかえり、ルオ」

ミツルは温かくて優しいかけがえのない宝物をぎゅっと抱きしめた。

「クーネ、オジイニアイタカッタノネ」

おや、なんだか変なクラゲがくっついている。ルオの胸元を見ると、琥珀のペンダントがハツカネズミのような顔をして見つめ返してきた。親指を立てて万事OKと言っているように見える。そうか、良かった。無事に元気に帰ってきてくれて本当に嬉しい。ルオのお土産話を聞くのが楽しみだ。

「おじい、オレ、海鮮焼きそばが食べたい」
「よし、じゃあ、今夜は焼きそばにしよう」
「やった!」
「そういえばお前、明日から二学期が始まるが、…・」
「えええ!? はああ!? オレ、宿題いっこもやってないんだけどぉ!?」
「……どんまい」

白い霧が晴れた海は、夕日を映して赤くオレンジに青くピンクに、七色の煌めきを放っている。

「なんだったんだろ、気象が不安定なのかな」「蜃気楼かな、……?」

居合わせた人々は首を傾げながら、肩を並べて虹色の海岸沿いを歩く老人と少年を微笑ましく見守っていた。
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