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Ⅷ章.龍王城で直接対決

07.コピー集結【停止】VS【回復】

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「チューリッピ!」

アクア王が放った紫の停止に飲み込まれる直前、胸元に乗ったチューリッピが叫んだ。

うん。やってみる。
ルオは心を決めると、全神経を身体の中心と左手、龍剣につながる力の源に集中させた。
気持ちを強く。大丈夫。受け止める。諦めない。

「奥義【回】」

ルオの龍剣が緑の輝きを放ち、水の結界を侵食する紫の咆哮を受け止めた。時間を止め、循環を停止させ、鼓動を止めたルオを緑の光が包み込む。その光は少しずつ輝きを増し、紫の停止を押しのけていく。

「何!?」

アクア王が信じられないものを目にしたように一瞬ひるむが、

「奥義【停止】」

再び強力な紫の【停止】を放った。【停止】はあらゆる動きをすべて停止させる。光も熱も時間も思考も。アクア王から放たれた紫の咆哮は、傍らにいる精霊ビュウの動きを止め、崩れ落ちる龍王城の瓦礫を止め、ルオを守る水の結界の動きを止める。緑に輝く龍剣を飲み込み、ルオの心まで止めた。

「…そうだ。【停止】を【回復】させるなど、出来るはずがない、……」

あらゆるものが動きを止めた不気味な静寂の中で、アクア王が自らに言い聞かせるようにつぶやいた。
しかし次の瞬間、その目が驚愕に見開かれた。

「なんだ、……?」

静止しているはずの風、空気の中で透明な何かが煌めいた。一つ。また一つ。
透明な輝きは次第に増えていく。あっちでもこっちでも。無数にも思えるほど。煌めきが増えていく。

「まさか、……」

何の色も持たないちっぽけな球状の欠片が無数に輝き、暗く焼け爛れた龍王城を優しく照らし出した。
その輝きの中に赤と青の光が混ざる。いつの間に再生したのか、地下牢獄に閉じ込めておいたはずの赤目ルオと青目ルオに違いなかった。

「奴の【複製コピー】が、……? 奴はコピーを【回復】させたというのか?」

困惑のまま立ち尽くすアクア王の前で、無数の煌めきは動きを止めたルオを囲んで巡り回る。そして、それぞれにより一層強く輝きながら、ルオの身体に次々と吸い込まれていった。暗い夜空に瞬く希望の流れ星のように。

ルオ。ルオ。帰ってきたよ。
大丈夫。オレたちは一人じゃない。みんないるよ。
一人じゃできなくても、みんなならできる。
みんなが幸せに暮らすことは難しいけど。でもきっと、必ず。
みんなならできる。

ルオの龍剣がほのかに光る。黄金に。緑に。橙に。赤く、そして青く。
龍剣を握るルオの手がピクリと動き、ルオの瞳が瞬いて光を取り戻した。

「…アクア王。お前はさっき防御だけじゃ倒せないって言ったけど、違うんだ。オレ、あんたを倒しに来たわけじゃない」

ルオは握りしめた龍剣を真っすぐにアクア王に向けた。何色にも煌めく光の中から青い輝きがひと際強く放たれ、戦慄に立ちすくむアクア王を貫く。

「誘いに来たんだ」

ルオの中にいる沢山のルオ。琥珀のペンダントに込められた思いの結晶であるチューリッピ。ルオの中から湧き上がる譲れない思いが一つになって龍剣から放たれた。

「一緒にやろうって」

ともに生きる。

濃い墨で塗りつぶされたように真っ暗で救いが見えない絶望の色をしたアクア王の心臓を、ルオの信念が一筋の光となって貫いた。アクア王の黒々とした心臓は破裂して、飛び散る。黒く、黒く、辺り一面を真っ暗に染めていく。ヘドロのように。臭く、醜く、誰にも顧みられることなく埋もれ、捨てられたゴミのように。

ルオはアクア王の心臓に飲み込まれ、一面真っ黒な世界に立っていた。
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