66 / 78
Ⅷ章.龍王城で直接対決
03.闇に沈む龍王城
しおりを挟む
「海藤君、見てごらん。あれが龍王城だ」
いつしか龍の都の中心部にある龍王城に到着したらしい。
アクアの体内で海老沼さんの説明を聞きながらぼんやりしていたルオは、はっとしてパネルに映し出された外の様子に目をやった。眼下に都に着いた時に見た暗い廃墟の街が見える。町の先に、雄大な敷地とひと際大きな建物があった。ひどく立派で厳めしいが、全体的に暗く闇に沈んでいる。ケツァルコアトルスがいた雲の居城とは対照的で、暗くどんよりしていて何もかもが黒く見える。テレビで紹介されていた外国にあるドラキュラ城を彷彿とさせた。
「あの城の中に、地上ではまだ実現できていない素晴らしい科学技術の結晶が詰まっている」
海老沼さんは暗い龍王城を眩しそうに見つめた。
「そんなにすごいんですか」
そりゃあルオだって、科学技術の進歩が人間の暮らしを大きく便利に進化させたことは知っている。ルオの学校は授業でタブレットを使っているが、昔は全て本で調べなくてはならなかったらしい。スマートフォンもなくて、待ち合わせ場所を探してさまよい歩いたり、相手と連絡が取れなくてすれ違ったりすることもあったという。
「いいかね、海藤君。技術の進歩こそが人間の生きた証なのだ。我々が他の生物と違うのはそこなのだよ」
海老沼さんは熱っぽく語ったが、ルオは皮肉な気持ちで考えた。
確かに。他の生物は核爆弾を作って思想の違いで大量殺戮を行ったりしない。
闇に浮かぶ龍王城を眺めながら、ルオの気持ちはますます暗くなっていった。
アクアたちは吸い込まれるように龍王城に入っていく。ルオたちを乗せたアクアスーツのアクアも同じように難なく城に入る。城の中は薄暗く、どんより霞がかっていて、大勢のアクアたちが動く様子は影がうごめいているかのようで不気味さを増加させていた。アクア王は他のアクアたちとは離れて奥まった部屋に移動した。
「あそこにメインコンピュータがある。奴は【結界】を張っているが、龍神である海藤君なら入れるだろう。このチップにその情報を全てコピーしてきて欲しい。なに、簡単なことさ。石化した状態でアクア王が使っている暗証番号を読み取り、チップを差し込んでエンターキーを押すだけだ。小学生でもできる」
くくく、と海老沼さんが笑う。
海老沼さんはずっと楽しそうだ。
「そのチップをどうするつもりなんですか」
「もちろん、地上に持ち帰って開発に活かす。日本が、世界が私を崇め、私の元にひざまずくだろう。偉大なる科学者は神だ。科学は全てを凌駕する。私は全てを手に入れるのだ」
高らかに笑う海老沼さんが、一瞬アクア王に見えた。
『共生などただの理想。実際は奪うか奪われるか。支配するかされるか。意思ある限り争いは続く』
泥のようにひんやりと取り付く島もない声を思い出す。人の話に耳を貸さないところが似ている。
「データをコピーしたら、アクア王のメインコンピュータはどうなるんですか」
「もちろん、破壊される。このチップにはウイルスが仕込まれているからね」
何でもないことのように言ってのける海老沼さんに、ルオはぞっとした。
「そんなことをしたら、アクア王の恨みは消えません。また怨念のままに深海を彷徨うことになっちゃうっ!」
スィンの涙が映し取ったアクア王の怨念を思い出す。
≪ユルサナイ。ユルサナイ、……――――――ギャクテンスル。チカラヲテニイレテ、ニンゲンヲホロボス、…――――≫
焦って叫ぶルオに、海老沼さんは冷徹な目を向けた。
「それがどうしたというんだ。そもそもクラゲに意思などない。君が何を見せられたのかは知らんが、それはただのまやかし。幻影にすぎん」
「そんな、……」
ルオは絶句した。あの暗く悲しい叫び声が幻影だって、……?
「いずれにせよ、我々が地上に帰るにはあのアクア王なる化け物を消滅させるほかない。君だってそのために龍剣を完成させようとしているのだろう?」
そうだけど、……
海老沼さんはおじいの骨董屋に盗聴器を仕掛けていたので、ドランが話した龍宮の事情やルオの素性について知っている。
アクア王よりも早く龍剣を完成させて、奪われたドランの龍剣を取り戻そうと思っていた。でも、……
ルオは納得いかない思いで海老沼さんが示すアクア王のコンピュータ室とやらの方を眺めた。
本当に、一緒に暮らすのは無理なのかな。
いつしか龍の都の中心部にある龍王城に到着したらしい。
アクアの体内で海老沼さんの説明を聞きながらぼんやりしていたルオは、はっとしてパネルに映し出された外の様子に目をやった。眼下に都に着いた時に見た暗い廃墟の街が見える。町の先に、雄大な敷地とひと際大きな建物があった。ひどく立派で厳めしいが、全体的に暗く闇に沈んでいる。ケツァルコアトルスがいた雲の居城とは対照的で、暗くどんよりしていて何もかもが黒く見える。テレビで紹介されていた外国にあるドラキュラ城を彷彿とさせた。
「あの城の中に、地上ではまだ実現できていない素晴らしい科学技術の結晶が詰まっている」
海老沼さんは暗い龍王城を眩しそうに見つめた。
「そんなにすごいんですか」
そりゃあルオだって、科学技術の進歩が人間の暮らしを大きく便利に進化させたことは知っている。ルオの学校は授業でタブレットを使っているが、昔は全て本で調べなくてはならなかったらしい。スマートフォンもなくて、待ち合わせ場所を探してさまよい歩いたり、相手と連絡が取れなくてすれ違ったりすることもあったという。
「いいかね、海藤君。技術の進歩こそが人間の生きた証なのだ。我々が他の生物と違うのはそこなのだよ」
海老沼さんは熱っぽく語ったが、ルオは皮肉な気持ちで考えた。
確かに。他の生物は核爆弾を作って思想の違いで大量殺戮を行ったりしない。
闇に浮かぶ龍王城を眺めながら、ルオの気持ちはますます暗くなっていった。
アクアたちは吸い込まれるように龍王城に入っていく。ルオたちを乗せたアクアスーツのアクアも同じように難なく城に入る。城の中は薄暗く、どんより霞がかっていて、大勢のアクアたちが動く様子は影がうごめいているかのようで不気味さを増加させていた。アクア王は他のアクアたちとは離れて奥まった部屋に移動した。
「あそこにメインコンピュータがある。奴は【結界】を張っているが、龍神である海藤君なら入れるだろう。このチップにその情報を全てコピーしてきて欲しい。なに、簡単なことさ。石化した状態でアクア王が使っている暗証番号を読み取り、チップを差し込んでエンターキーを押すだけだ。小学生でもできる」
くくく、と海老沼さんが笑う。
海老沼さんはずっと楽しそうだ。
「そのチップをどうするつもりなんですか」
「もちろん、地上に持ち帰って開発に活かす。日本が、世界が私を崇め、私の元にひざまずくだろう。偉大なる科学者は神だ。科学は全てを凌駕する。私は全てを手に入れるのだ」
高らかに笑う海老沼さんが、一瞬アクア王に見えた。
『共生などただの理想。実際は奪うか奪われるか。支配するかされるか。意思ある限り争いは続く』
泥のようにひんやりと取り付く島もない声を思い出す。人の話に耳を貸さないところが似ている。
「データをコピーしたら、アクア王のメインコンピュータはどうなるんですか」
「もちろん、破壊される。このチップにはウイルスが仕込まれているからね」
何でもないことのように言ってのける海老沼さんに、ルオはぞっとした。
「そんなことをしたら、アクア王の恨みは消えません。また怨念のままに深海を彷徨うことになっちゃうっ!」
スィンの涙が映し取ったアクア王の怨念を思い出す。
≪ユルサナイ。ユルサナイ、……――――――ギャクテンスル。チカラヲテニイレテ、ニンゲンヲホロボス、…――――≫
焦って叫ぶルオに、海老沼さんは冷徹な目を向けた。
「それがどうしたというんだ。そもそもクラゲに意思などない。君が何を見せられたのかは知らんが、それはただのまやかし。幻影にすぎん」
「そんな、……」
ルオは絶句した。あの暗く悲しい叫び声が幻影だって、……?
「いずれにせよ、我々が地上に帰るにはあのアクア王なる化け物を消滅させるほかない。君だってそのために龍剣を完成させようとしているのだろう?」
そうだけど、……
海老沼さんはおじいの骨董屋に盗聴器を仕掛けていたので、ドランが話した龍宮の事情やルオの素性について知っている。
アクア王よりも早く龍剣を完成させて、奪われたドランの龍剣を取り戻そうと思っていた。でも、……
ルオは納得いかない思いで海老沼さんが示すアクア王のコンピュータ室とやらの方を眺めた。
本当に、一緒に暮らすのは無理なのかな。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる