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Ⅶ章.青色のスキル【信念】
03.青目ルオと行くマグマの中の真実
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「青目ルオ、どうしてここに? 【叡智】の番人アーケロンに会いに行くって言ってなかった?」
久しぶりに旧友に合えたような嬉しさと懐かしさに、青目ルオの手を取ってぶんぶん振り回したい衝動に駆られたが、本体ルオは現在青目ルオの中にいるのであった。
「なんか複雑な状況、……」
「本体ルオはマグマに耐性がないから仕方ないですよ。私は【複製】として優秀なので、自分が受けた衝撃を本体に移すことはありません。火の中水の中自由自在。本体ルオもそこに居れば安全です」
ルオはシスト状なうえ、コピーの青目ルオに守られている状態ということになる。なんだかみんな、過保護である。
「【叡智】の番人は、虚無化されていました」
青目ルオがごうごうと噴出するマグマをその冷静な目に映す。
「虚無化? って、何?」
初めて聞く言葉である。
「力をアクア王に奪われて空洞になることですよ。アーケロンはもう何も持っていなかった。知識だけじゃなく、意思も、感情も。何もない、空っぽだ」
「アクア王に力を奪われた!?」
衝撃に身がすくむ。
アクア王は赤目ルオと炎の精霊ピッピを連れて、【叡智】の力を手に入れに行ったのか。ルオが攻撃力を途中までしかマスターしていない状態で、氷や土の中を彷徨っている間に。
「そう。アクア王は【停止】の力も持っていますよね。【停止】の番人ダイオウイカにも会いに行きましたが、やはり虚無化されていました。表情も動きも虚ろで、ただ流されるがまま。考えることを放棄し、イエスマンに成り下がっています」
「イエスマンって、なに?」
「何でもはいはい言って従う、他人の言いなりになる人のことです。まあ、他人に付き従っていれば楽とも言えますけどね」
青目ルオは少し遠い目をした。
ルオは土の中で聞いた風の精霊ビュウの話を思い出した。
アクア王は龍宮の生物たちを奴隷にしているのではなく、苦しみや悲しみと言った負の感情からみんなを解放していると言っていた。
考えることを放棄し、流されるままイエスマンに成り下がる。
番人たちが陥ったという虚無化は、まさにアクア化そのものではないか。
「楽ってことはさ、いいことなんじゃないの? 風の精霊が言ってたんだ。誰も困ってないって。みんなアクア王のもとで幸せに暮らしてるって」
ルオが疑問を口にすると、青目ルオは少し寂しそうな目をして頷いた。
「幸せ、ね。確かに、楽でいいことはたくさんあります。本体ルオは割り算のひっ算が苦手ですね。こんなの覚えて何の意味があるんだって思ってる。電卓を使えば簡単だし、今やコンピュータが早く正確に答えを導き出してくれますからね」
「いやだってさ。延々やってると訳分かんなくなってくるし。どうせ途中で間違えるし」
ひっ算が苦手だってどうしてばれているんだろうと考え、自分のコピーなんだから当たり前か、と納得した。
「じゃあ何のためにひっ算なんて覚えるんでしょうか。先生に聞いてみたことはありますか?」
「ないけど。そりゃあ、学校は勉強するところだからさ。まじめにやらないとバカになっちゃうし」
「ふふ、一理ありますね。バカにならないため。つまり、自分の頭で考える練習をしてるってことじゃないでしょうか?」
「考える練習かあ、……」
そうなのか? 学校ってそういうところだったのか?
「そう。そうやって何のために勉強をするのか考えてみるのが大切なんじゃないでしょうか」
ううーんとうなったルオを見て、青目ルオが微笑ましそうな顔をした。
「思考を放棄すると楽なんです。判断に責任を取らなくてもいいですし。何でも、難しい決定は頭のいい偉い人に任せればいい。なんなら、AI(人工知能)に任せる。彼らは決して間違えません。人間を幸せにしてくれます。さて、本当にそうなんでしょうか?」
「ううーん、……」
青目ルオに問いかけられて、ルオは再びうなってしまった。考えるって難しい。
久しぶりに旧友に合えたような嬉しさと懐かしさに、青目ルオの手を取ってぶんぶん振り回したい衝動に駆られたが、本体ルオは現在青目ルオの中にいるのであった。
「なんか複雑な状況、……」
「本体ルオはマグマに耐性がないから仕方ないですよ。私は【複製】として優秀なので、自分が受けた衝撃を本体に移すことはありません。火の中水の中自由自在。本体ルオもそこに居れば安全です」
ルオはシスト状なうえ、コピーの青目ルオに守られている状態ということになる。なんだかみんな、過保護である。
「【叡智】の番人は、虚無化されていました」
青目ルオがごうごうと噴出するマグマをその冷静な目に映す。
「虚無化? って、何?」
初めて聞く言葉である。
「力をアクア王に奪われて空洞になることですよ。アーケロンはもう何も持っていなかった。知識だけじゃなく、意思も、感情も。何もない、空っぽだ」
「アクア王に力を奪われた!?」
衝撃に身がすくむ。
アクア王は赤目ルオと炎の精霊ピッピを連れて、【叡智】の力を手に入れに行ったのか。ルオが攻撃力を途中までしかマスターしていない状態で、氷や土の中を彷徨っている間に。
「そう。アクア王は【停止】の力も持っていますよね。【停止】の番人ダイオウイカにも会いに行きましたが、やはり虚無化されていました。表情も動きも虚ろで、ただ流されるがまま。考えることを放棄し、イエスマンに成り下がっています」
「イエスマンって、なに?」
「何でもはいはい言って従う、他人の言いなりになる人のことです。まあ、他人に付き従っていれば楽とも言えますけどね」
青目ルオは少し遠い目をした。
ルオは土の中で聞いた風の精霊ビュウの話を思い出した。
アクア王は龍宮の生物たちを奴隷にしているのではなく、苦しみや悲しみと言った負の感情からみんなを解放していると言っていた。
考えることを放棄し、流されるままイエスマンに成り下がる。
番人たちが陥ったという虚無化は、まさにアクア化そのものではないか。
「楽ってことはさ、いいことなんじゃないの? 風の精霊が言ってたんだ。誰も困ってないって。みんなアクア王のもとで幸せに暮らしてるって」
ルオが疑問を口にすると、青目ルオは少し寂しそうな目をして頷いた。
「幸せ、ね。確かに、楽でいいことはたくさんあります。本体ルオは割り算のひっ算が苦手ですね。こんなの覚えて何の意味があるんだって思ってる。電卓を使えば簡単だし、今やコンピュータが早く正確に答えを導き出してくれますからね」
「いやだってさ。延々やってると訳分かんなくなってくるし。どうせ途中で間違えるし」
ひっ算が苦手だってどうしてばれているんだろうと考え、自分のコピーなんだから当たり前か、と納得した。
「じゃあ何のためにひっ算なんて覚えるんでしょうか。先生に聞いてみたことはありますか?」
「ないけど。そりゃあ、学校は勉強するところだからさ。まじめにやらないとバカになっちゃうし」
「ふふ、一理ありますね。バカにならないため。つまり、自分の頭で考える練習をしてるってことじゃないでしょうか?」
「考える練習かあ、……」
そうなのか? 学校ってそういうところだったのか?
「そう。そうやって何のために勉強をするのか考えてみるのが大切なんじゃないでしょうか」
ううーんとうなったルオを見て、青目ルオが微笑ましそうな顔をした。
「思考を放棄すると楽なんです。判断に責任を取らなくてもいいですし。何でも、難しい決定は頭のいい偉い人に任せればいい。なんなら、AI(人工知能)に任せる。彼らは決して間違えません。人間を幸せにしてくれます。さて、本当にそうなんでしょうか?」
「ううーん、……」
青目ルオに問いかけられて、ルオは再びうなってしまった。考えるって難しい。
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