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Ⅵ章.赤色のスキル【攻撃】
11.風の精霊ビュウ
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ルオとチューリッピが慌ててトンネルを抜けようと走り始めると、前方に小さな緑がかった影が現れた。誰だろう。
「ほほほ。愚かな。逃げられるものか、これは砂嵐ぞ」
高らかに笑い声をあげ、腕を振り、羽ばたく。
すさまじい勢いで風が巻き起こり、砂が吹き付ける。まともに目が開けられず、相手の姿が良く見えない。四元素の精霊の一人だと思うが、ここにいると思われた土の妖精チイだろうか。先ほどの映像に照らし合わせると、緑は風の精霊ビュウということになりそうだが。
「土に埋もれて日の目を見ることもなく、生涯暗い世界に隠れたまま過ごすがよい」
緑色の精霊がそう叫ぶと、大量の砂嵐が吹き付けた。とても目は開けられず、顔や腕などにバシバシ当たる。土の礫は肌を切り裂き、ひどく痛い。血飛沫が舞う。
「う、うわあ、…っ」
痛いだけでなく、すさまじい砂嵐の勢いに立っているのも辛い。足元をすくわれ、ぐるぐると宙を回転する。すっかり目が回り、砂にまみれ、身体はバラバラにちぎれそうだ。
「さあ、埋もれておしまい」
緑の精霊の一声で、トンネルが一気に雪崩れ落ち、ルオとチューリッピはなす術もなく、大量の砂に埋まり込んでしまう。
やばい。暗い。苦しい。息が出来ない。声も出ない。
水の中なら平気なのに、土砂に埋もれるとこんなに苦しいなんて、……
土砂に押しつぶされてどうにもできずにいるルオに
「チチュ、…チイ、…チューリ、……」
同じく土砂の衝撃をまともに受けたチューリッピのか細い声が聞こえた。
それは先ほど、この地中深くに降りてきた時にチューリッピが気に入っていた言い回しだ。
チチュー、チイ、チューリッピ。
地中に降りてきた時、……そう、液体になっていた時。それだ! ルオの頭に閃きが駆け抜ける。
「変化【液】」
液体になれば、土砂に押しつぶされても大丈夫なはず。
ルオは身動きできず、背中の龍剣を抜けなかったが、液体になった時の感覚を思い出し、必死で精神を集中させた。
水の精霊スィンの涙の感触。温かく冷たく身体に染み込んだ、美しい水の感覚。
ポタタタタ、……
気が付くと液体への変化に成功したらしく、息苦しさがなくなった。一緒につかまっていたからチューリッピと龍剣も液体になっているようだ。ルオはほっと息をついた。
「ほお。既に水のねえ様を籠絡したか。しかし、そこまでよ。液体のままでは地上に出ることは出来ぬ。上昇するには気化せねばならぬ」
暗闇でも目が効くようで、緑色の精霊は液体のルオをせせら笑った。
あ。なるほど。確かにそうだ。
精霊の言葉にルオは思わず納得する。
気体になって土の中から出たらいいんだ。
「気体は我の領域。付け焼き刃で力を得たそなたなど、簡単に滅ぼしてやるわ」
ゴオオオ、…ーーーー
液化したルオを含んだ土砂が地中で渦を巻く。自分が砂嵐の一部になって、凄まじく回る。液体の身体がちぎれてバラバラになる。
く、苦しい、…
このまま土砂の渦に振り回されているのは危険だ。バラバラになった身体が元に戻らなくなるかもしれない。一刻も早く、ここから脱出しないと。
そのためには、精霊の言うとおり、気化するしかない。
水の力を得たのだから気化も出来そうなものだけど、正直自信がない。しかし迷っている猶予はない。やるしかないのだ。
「変化【気】」
ルオは見様見真似で気体を思い浮かべ、ふわりとした空気の感覚に心を集中させた。
「ほほほ。愚かな。逃げられるものか、これは砂嵐ぞ」
高らかに笑い声をあげ、腕を振り、羽ばたく。
すさまじい勢いで風が巻き起こり、砂が吹き付ける。まともに目が開けられず、相手の姿が良く見えない。四元素の精霊の一人だと思うが、ここにいると思われた土の妖精チイだろうか。先ほどの映像に照らし合わせると、緑は風の精霊ビュウということになりそうだが。
「土に埋もれて日の目を見ることもなく、生涯暗い世界に隠れたまま過ごすがよい」
緑色の精霊がそう叫ぶと、大量の砂嵐が吹き付けた。とても目は開けられず、顔や腕などにバシバシ当たる。土の礫は肌を切り裂き、ひどく痛い。血飛沫が舞う。
「う、うわあ、…っ」
痛いだけでなく、すさまじい砂嵐の勢いに立っているのも辛い。足元をすくわれ、ぐるぐると宙を回転する。すっかり目が回り、砂にまみれ、身体はバラバラにちぎれそうだ。
「さあ、埋もれておしまい」
緑の精霊の一声で、トンネルが一気に雪崩れ落ち、ルオとチューリッピはなす術もなく、大量の砂に埋まり込んでしまう。
やばい。暗い。苦しい。息が出来ない。声も出ない。
水の中なら平気なのに、土砂に埋もれるとこんなに苦しいなんて、……
土砂に押しつぶされてどうにもできずにいるルオに
「チチュ、…チイ、…チューリ、……」
同じく土砂の衝撃をまともに受けたチューリッピのか細い声が聞こえた。
それは先ほど、この地中深くに降りてきた時にチューリッピが気に入っていた言い回しだ。
チチュー、チイ、チューリッピ。
地中に降りてきた時、……そう、液体になっていた時。それだ! ルオの頭に閃きが駆け抜ける。
「変化【液】」
液体になれば、土砂に押しつぶされても大丈夫なはず。
ルオは身動きできず、背中の龍剣を抜けなかったが、液体になった時の感覚を思い出し、必死で精神を集中させた。
水の精霊スィンの涙の感触。温かく冷たく身体に染み込んだ、美しい水の感覚。
ポタタタタ、……
気が付くと液体への変化に成功したらしく、息苦しさがなくなった。一緒につかまっていたからチューリッピと龍剣も液体になっているようだ。ルオはほっと息をついた。
「ほお。既に水のねえ様を籠絡したか。しかし、そこまでよ。液体のままでは地上に出ることは出来ぬ。上昇するには気化せねばならぬ」
暗闇でも目が効くようで、緑色の精霊は液体のルオをせせら笑った。
あ。なるほど。確かにそうだ。
精霊の言葉にルオは思わず納得する。
気体になって土の中から出たらいいんだ。
「気体は我の領域。付け焼き刃で力を得たそなたなど、簡単に滅ぼしてやるわ」
ゴオオオ、…ーーーー
液化したルオを含んだ土砂が地中で渦を巻く。自分が砂嵐の一部になって、凄まじく回る。液体の身体がちぎれてバラバラになる。
く、苦しい、…
このまま土砂の渦に振り回されているのは危険だ。バラバラになった身体が元に戻らなくなるかもしれない。一刻も早く、ここから脱出しないと。
そのためには、精霊の言うとおり、気化するしかない。
水の力を得たのだから気化も出来そうなものだけど、正直自信がない。しかし迷っている猶予はない。やるしかないのだ。
「変化【気】」
ルオは見様見真似で気体を思い浮かべ、ふわりとした空気の感覚に心を集中させた。
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