上 下
54 / 78
Ⅵ章.赤色のスキル【攻撃】

11.風の精霊ビュウ

しおりを挟む
ルオとチューリッピが慌ててトンネルを抜けようと走り始めると、前方に小さな緑がかった影が現れた。誰だろう。

「ほほほ。愚かな。逃げられるものか、これは砂嵐ぞ」

高らかに笑い声をあげ、腕を振り、羽ばたく。
すさまじい勢いで風が巻き起こり、砂が吹き付ける。まともに目が開けられず、相手の姿が良く見えない。四元素の精霊の一人だと思うが、ここにいると思われた土の妖精チイだろうか。先ほどの映像に照らし合わせると、緑は風の精霊ビュウということになりそうだが。

「土に埋もれて日の目を見ることもなく、生涯暗い世界に隠れたまま過ごすがよい」

緑色の精霊がそう叫ぶと、大量の砂嵐が吹き付けた。とても目は開けられず、顔や腕などにバシバシ当たる。土の礫は肌を切り裂き、ひどく痛い。血飛沫が舞う。

「う、うわあ、…っ」

痛いだけでなく、すさまじい砂嵐の勢いに立っているのも辛い。足元をすくわれ、ぐるぐると宙を回転する。すっかり目が回り、砂にまみれ、身体はバラバラにちぎれそうだ。

「さあ、埋もれておしまい」

緑の精霊の一声で、トンネルが一気に雪崩れ落ち、ルオとチューリッピはなす術もなく、大量の砂に埋まり込んでしまう。

やばい。暗い。苦しい。息が出来ない。声も出ない。
水の中なら平気なのに、土砂に埋もれるとこんなに苦しいなんて、……

土砂に押しつぶされてどうにもできずにいるルオに

「チチュ、…チイ、…チューリ、……」

同じく土砂の衝撃をまともに受けたチューリッピのか細い声が聞こえた。

それは先ほど、この地中深くに降りてきた時にチューリッピが気に入っていた言い回しだ。
チチュー、チイ、チューリッピ。
地中に降りてきた時、……そう、液体になっていた時。それだ! ルオの頭に閃きが駆け抜ける。

「変化【液】」

液体になれば、土砂に押しつぶされても大丈夫なはず。
ルオは身動きできず、背中の龍剣を抜けなかったが、液体になった時の感覚を思い出し、必死で精神を集中させた。
水の精霊スィンの涙の感触。温かく冷たく身体に染み込んだ、美しい水の感覚。

ポタタタタ、……

気が付くと液体への変化に成功したらしく、息苦しさがなくなった。一緒につかまっていたからチューリッピと龍剣も液体になっているようだ。ルオはほっと息をついた。

「ほお。既に水のねえ様を籠絡したか。しかし、そこまでよ。液体のままでは地上に出ることは出来ぬ。上昇するには気化せねばならぬ」

暗闇でも目が効くようで、緑色の精霊は液体のルオをせせら笑った。

あ。なるほど。確かにそうだ。
精霊の言葉にルオは思わず納得する。

気体になって土の中から出たらいいんだ。

「気体は我の領域。付け焼き刃で力を得たそなたなど、簡単に滅ぼしてやるわ」

ゴオオオ、…ーーーー

液化したルオを含んだ土砂が地中で渦を巻く。自分が砂嵐の一部になって、凄まじく回る。液体の身体がちぎれてバラバラになる。

く、苦しい、…

このまま土砂の渦に振り回されているのは危険だ。バラバラになった身体が元に戻らなくなるかもしれない。一刻も早く、ここから脱出しないと。

そのためには、精霊の言うとおり、気化するしかない。
水の力を得たのだから気化も出来そうなものだけど、正直自信がない。しかし迷っている猶予はない。やるしかないのだ。

「変化【気】」

ルオは見様見真似で気体を思い浮かべ、ふわりとした空気の感覚に心を集中させた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...