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Ⅵ章.赤色のスキル【攻撃】
12.土の精霊チイ
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水は水蒸気になる時、何を思い浮かべているのだろう。
軽くなった感触? 空を飛ぶ感じ? 自由? 広い世界?
気化するために心を集中させたが、どんなに頑張ってみても、結果的には砂の渦の中で回り続ける液体のままだった。
う、苦しい。
なんで? 龍剣を抜けないから? 水の力だけでは気化は出来ないの?
苦しくて、パニックに陥る。
「おや。気化できぬのかい。ほほほほ、とんだお助けヒーローよ。だったらこのまま砂と一体化するがよい」
緑の妖精はルオの現状を読み取って高らかな笑い声をあげた。
砂の粒とルオの身体が撹拌されて、ルオなのか砂なのか分からなくなる。緑の精霊に言われたとおり、砂にまみれたまま永遠にここから出られないかもしれない。
どうしよう。どうすれば、……
苦しくて思考することもままならないルオの耳に、突如凛とした声が響いた。
「お姉さま、お止めください。土の中での勝手なふるまいは許しませんよ」
「なに!?」
声とともに、緑の精霊の攻撃が止んだ。砂と混ぜ合わされてバラバラのままになっていたルオは、その隙に液化した身体をじわじわと集め合わせた。
チューリッピ、龍剣、琥珀のペンダント。みんな無事?
「チ、……」
かすかなチューリッピの声。慌てて引き寄せて抱きしめる。といってもどっちも液体のままなのだが。何とかひとまとまりの液体に戻れたようだ。散り散りにならずに済んで良かった。
「これはこれは臆病者のチイではないの。弱っちいのチイ」
「ビュウお姉さま。わたくしたちはお互いの領域を侵害しないと約束したはず」
凛とした声は蔑むような緑の精霊にのせられることなく、きっぱりと主張した。
「お前が地中深くに隠れ、姿を見せないから我が代わりに土を動かしてやったまで。侵害などしておらぬわ」
「龍神の双子を攻撃するのはおやめください」
どうやらルオに攻撃をしてきたのは風の精霊ビュウに間違いないようだ。二人の会話から、攻撃を止めてくれたのが土の精霊チイだと思われる。砂嵐が止んだようなのでルオがそっと目を開くと、緑の精霊に対峙する黄金の煌めきが見えた。
「ほほほ。お主まだそのような世迷い事を信じておるのか。こやつはお助けヒーローなどではない。アクア様が成し遂げようとしている平和な統一世界を邪魔立てするもの」
「アクア様など、……お姉さまは騙されておられるのではないですか」
「そなたこそ、ぼんくら龍神のドランに良いように使われているだけ。ルオはアクア様の統一世界を壊そうとドランが連れてきた厄介者に過ぎぬ」
「お姉さま。なぜそのようなお考えを、……」
「ピッピねえ様をお助けするため馳せ参じて分かったのだ。この世界を乱していたのはアクア様ではなく龍神の方だと。なにしろ、龍神は禁忌である双子を人間界へ逃がし、人間の愚かな開発に手を貸した挙句、アクア様に苦悩と怨念をもたらしたのじゃから」
「なんですって、……?」
ビュウはアクア王に連れ去られた後、アクア王の信念に賛同し、地中深くに潜ってしまったチイが姿を見せないのをいいことにルオを地中に埋めてしまおうと考えたらしい。ルオはアクア王の世界を壊す反逆者だから。
「ちょっと待ってください。オレは龍宮がアクアに乗っ取られ、生き物みんなが奴隷にされちゃったから元に戻すために来たんです。ドランの龍剣と対になる剣は、オレしか持っていないから」
姉妹たちの言い合いを黙って聞いていたルオもビュウの言い分に混乱が生じ、思わず口をはさんでしまった。
確かにオレは禁忌だからって龍宮から逃がされた。
でも、都が危機に瀕しているから呼び戻されたんじゃないのか。
「ほほほ。誰も彼も思い違いをしておる。アクア様は奴隷になどしておらぬ。苦しみや悲しみ、傲慢、理不尽な上下関係、裏切り、…そういった負の感情から皆を解放しているまでよ」
ビュウの笑い声が響き渡り、ルオはますます混乱した。ビュウの言い分に納得できる部分もあったからだ。
軽くなった感触? 空を飛ぶ感じ? 自由? 広い世界?
気化するために心を集中させたが、どんなに頑張ってみても、結果的には砂の渦の中で回り続ける液体のままだった。
う、苦しい。
なんで? 龍剣を抜けないから? 水の力だけでは気化は出来ないの?
苦しくて、パニックに陥る。
「おや。気化できぬのかい。ほほほほ、とんだお助けヒーローよ。だったらこのまま砂と一体化するがよい」
緑の妖精はルオの現状を読み取って高らかな笑い声をあげた。
砂の粒とルオの身体が撹拌されて、ルオなのか砂なのか分からなくなる。緑の精霊に言われたとおり、砂にまみれたまま永遠にここから出られないかもしれない。
どうしよう。どうすれば、……
苦しくて思考することもままならないルオの耳に、突如凛とした声が響いた。
「お姉さま、お止めください。土の中での勝手なふるまいは許しませんよ」
「なに!?」
声とともに、緑の精霊の攻撃が止んだ。砂と混ぜ合わされてバラバラのままになっていたルオは、その隙に液化した身体をじわじわと集め合わせた。
チューリッピ、龍剣、琥珀のペンダント。みんな無事?
「チ、……」
かすかなチューリッピの声。慌てて引き寄せて抱きしめる。といってもどっちも液体のままなのだが。何とかひとまとまりの液体に戻れたようだ。散り散りにならずに済んで良かった。
「これはこれは臆病者のチイではないの。弱っちいのチイ」
「ビュウお姉さま。わたくしたちはお互いの領域を侵害しないと約束したはず」
凛とした声は蔑むような緑の精霊にのせられることなく、きっぱりと主張した。
「お前が地中深くに隠れ、姿を見せないから我が代わりに土を動かしてやったまで。侵害などしておらぬわ」
「龍神の双子を攻撃するのはおやめください」
どうやらルオに攻撃をしてきたのは風の精霊ビュウに間違いないようだ。二人の会話から、攻撃を止めてくれたのが土の精霊チイだと思われる。砂嵐が止んだようなのでルオがそっと目を開くと、緑の精霊に対峙する黄金の煌めきが見えた。
「ほほほ。お主まだそのような世迷い事を信じておるのか。こやつはお助けヒーローなどではない。アクア様が成し遂げようとしている平和な統一世界を邪魔立てするもの」
「アクア様など、……お姉さまは騙されておられるのではないですか」
「そなたこそ、ぼんくら龍神のドランに良いように使われているだけ。ルオはアクア様の統一世界を壊そうとドランが連れてきた厄介者に過ぎぬ」
「お姉さま。なぜそのようなお考えを、……」
「ピッピねえ様をお助けするため馳せ参じて分かったのだ。この世界を乱していたのはアクア様ではなく龍神の方だと。なにしろ、龍神は禁忌である双子を人間界へ逃がし、人間の愚かな開発に手を貸した挙句、アクア様に苦悩と怨念をもたらしたのじゃから」
「なんですって、……?」
ビュウはアクア王に連れ去られた後、アクア王の信念に賛同し、地中深くに潜ってしまったチイが姿を見せないのをいいことにルオを地中に埋めてしまおうと考えたらしい。ルオはアクア王の世界を壊す反逆者だから。
「ちょっと待ってください。オレは龍宮がアクアに乗っ取られ、生き物みんなが奴隷にされちゃったから元に戻すために来たんです。ドランの龍剣と対になる剣は、オレしか持っていないから」
姉妹たちの言い合いを黙って聞いていたルオもビュウの言い分に混乱が生じ、思わず口をはさんでしまった。
確かにオレは禁忌だからって龍宮から逃がされた。
でも、都が危機に瀕しているから呼び戻されたんじゃないのか。
「ほほほ。誰も彼も思い違いをしておる。アクア様は奴隷になどしておらぬ。苦しみや悲しみ、傲慢、理不尽な上下関係、裏切り、…そういった負の感情から皆を解放しているまでよ」
ビュウの笑い声が響き渡り、ルオはますます混乱した。ビュウの言い分に納得できる部分もあったからだ。
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