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Ⅵ章.赤色のスキル【攻撃】
06.水の精霊スィン
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「チュー、チューリッピ!」
チューリッピが猛然と主張する。
なるほど。火の能力を使えって。
確かに。せっかく習得したんだし、【水】は【火】によって形を変えることが分かった。使えるような気がする。
「そうだね。火で氷を溶かしながら、精霊スィンを見つけよう」
心を閉ざしてしまった精霊スィンはどこにいるのだろう。
考えるルオの顔に吹雪が吹き付けてきた。
…そうか。
飛んでくる風雪に耐えながら、可能性に思い当たった。スィンがこの氷の監獄を作ったのなら、吹雪もスィンから噴き出しているんじゃないだろうか。だとしたら、吹雪いてくる方向に進めばいいんだ。
「メガさん。水の試練、習得してきます」
「おお、達者でな」
一旦メガロドンのメガと別れると、ルオは龍剣に熱を灯し、行く手を封じる氷の壁を次々と溶かしながら進んでいった。しかし突然上空から氷の塊が落ちてきたり、溶かしたことで氷の壁が崩れ落ちてきたりして、先行きは困難を極めた。散々苦労して進んだつもりだが、同じところをぐるぐるしているだけのような気がする。
この氷柱の壁、メガさんと別れたところじゃないか?
もしかしたら、一歩も進んでいないのではないかと思えてきた。
「ふぅー、氷って厳しいな」
氷の監獄と言われるくらいだ。そう簡単に脱出は出来ないのだろう。
ルオは地面に腰を下ろし、すぐにお尻の辺りが凍り付きそうになるのを感じた。うっかり座ったらここで氷の一部になってしまう。慌てて立ち上がり、頭にひらめいたことがある。
待てよ。水は龍神の力の源だろ。
ある程度氷を溶かして水にすれば、水中変化術を使えるんじゃないか。
我ながら名案のような気がする。
火の能力だって永久に使い続けられるわけじゃない。自分の周りを水に変え、小さくなって通り抜けよう。
「変化【小】」
龍剣で足元の氷を溶かし、水中変化術で身体を小さくして水に潜った。地表は氷に覆われていたが、地下に潜ると水が溜まっている。大きな氷の塊をよけながら、ルオは水中を泳いでいった。どのくらい進んできただろう。疲れを感じ始めた時、目の前に巨大な薄青色の壁が出現した。
分厚い氷に閉ざされた一角で、中が見えない。龍剣を向けて溶解を試みたが、まるで溶ける気配がない。きっと特殊な氷なのだ。
ひょっとして、…
思い当たることがあり、氷の壁を辿って上の方まで上昇してみた。地表を覆う氷を溶かし、頭だけ水面に出してみる。見上げると、薄青色の氷は遥か高くまでそびえ立っており、その頂から吹雪が吹き出しているようだった。
…やっぱり。
ルオは確信した。精霊スィンはこの薄青色の氷の中にいる。
「スィンさん! 水の精霊のスィンさ―――んっ。ちょっとお話したいことがあるんですけど。出てきて下さ―――いっ」
地表の水は溶かしても溶かしてもすぐに凍り付いてしまうので、ルオは再び水中に潜り、薄青色の氷に向かって呼びかけた。
「スィンさんってばぁ。ここにいるんでしょ? 返事して下さ――いっ」
懸命に呼びかけるが、うんともすんとも返事もなければ、目の前にそびえる分厚い氷もピクリとも動かない。無反応である。ルオはだんだん焦ってきた。
『龍神の双子よ。お前は遅すぎる。龍剣の力は私のものだ』
赤目ルオと火の精霊ピッピを連れ去った時、アクア王はそう宣言した。七つの力を手に入れて初めて龍剣を使いこなすことが出来るのだが、ルオは今のところ【結界】【回復】【複製】を習得した。アクア王は【停止】と【結界】を奪ったらしい。数からいったらルオの方が勝っているのだが、アクア王は自信満々だった。【停止】を使えば、他の力は使えなくなるからだろうか。
もう。だから、急がなきゃいけないんだって。
赤目ルオとピッピ。海老沼さんや佐藤さんと塩田さん。みんなを助け出してドランの龍剣も取り戻さなきゃいけないって言うのに。
正直、こんなところで分厚い氷の塊とにらめっこしている場合ではないのだ。
「スィンさ――――んっ。オレ、結構急いでるんです! 早くしないと龍剣の力が完全にアクア王のものになっちゃうんです。申し訳ないんですけど悲しみに暮れるのはちょっと後にしてもらって、オレに水の力を授けてもらえませんか―――っ!?」
ルオが懲りずに何度も呼び掛けていると、突然、薄青色の氷の塊が壁から飛び出し、ルオを遠くまで弾き飛ばした。
「やかましい!」
同時に、なんかヒステリックな女の子の声がする。相当怒っているような気がするが、とりあえず反応があったので一歩前進だ。ルオは氷の塊に乗ったまま、スイスイと薄青色の壁に近づき、再び呼びかけた。
「スィンさん。お返事してくれてありがとうございます。オレ、龍神ドランの双子の弟のルオです。龍剣に宿す七つの力を集めてるんですけど、【攻撃】を手に入れるには四元素の習得が必要らしくって、……」
「やかましいと言うておろうがっ」
再び、氷の塊が飛び出してルオを遠くにドーンと弾き飛ばす。さっきの五倍くらい遠くまで飛ばされた。勢いが強くなっている。
ルオを弾き飛ばすこの氷の塊は、スィンの怒りの象徴なのかもしれない。
多分、スィンはそうっとしておいてほしいのだ。心を閉ざしてじっと一人で悲しみに暮れていたいのだ。ルオの使命など知ったことではないのだろう。そもそも、スィンはどうして心を閉ざしてしまったのだろうか。
ルオは、スィンの状況も顧みず、自分の事情ばかりを押し付けてしまったことを反省した。
オレが力を得るために急いでいることと、スィンさんが悲しみに閉ざされていることは無関係だ。「悲しみに暮れるのはちょっと後にしてもらって」なんて、出来るはずがない。
ルオは深呼吸を繰り返し、心を落ち着けた。
【回復】の番人シロナガスクジラのスーガが言っていたではないか。
回復は、急げば急ぐほど遠ざかる、と。
スィンの悲しみが癒えるには時間が必要なんだ。
チューリッピが猛然と主張する。
なるほど。火の能力を使えって。
確かに。せっかく習得したんだし、【水】は【火】によって形を変えることが分かった。使えるような気がする。
「そうだね。火で氷を溶かしながら、精霊スィンを見つけよう」
心を閉ざしてしまった精霊スィンはどこにいるのだろう。
考えるルオの顔に吹雪が吹き付けてきた。
…そうか。
飛んでくる風雪に耐えながら、可能性に思い当たった。スィンがこの氷の監獄を作ったのなら、吹雪もスィンから噴き出しているんじゃないだろうか。だとしたら、吹雪いてくる方向に進めばいいんだ。
「メガさん。水の試練、習得してきます」
「おお、達者でな」
一旦メガロドンのメガと別れると、ルオは龍剣に熱を灯し、行く手を封じる氷の壁を次々と溶かしながら進んでいった。しかし突然上空から氷の塊が落ちてきたり、溶かしたことで氷の壁が崩れ落ちてきたりして、先行きは困難を極めた。散々苦労して進んだつもりだが、同じところをぐるぐるしているだけのような気がする。
この氷柱の壁、メガさんと別れたところじゃないか?
もしかしたら、一歩も進んでいないのではないかと思えてきた。
「ふぅー、氷って厳しいな」
氷の監獄と言われるくらいだ。そう簡単に脱出は出来ないのだろう。
ルオは地面に腰を下ろし、すぐにお尻の辺りが凍り付きそうになるのを感じた。うっかり座ったらここで氷の一部になってしまう。慌てて立ち上がり、頭にひらめいたことがある。
待てよ。水は龍神の力の源だろ。
ある程度氷を溶かして水にすれば、水中変化術を使えるんじゃないか。
我ながら名案のような気がする。
火の能力だって永久に使い続けられるわけじゃない。自分の周りを水に変え、小さくなって通り抜けよう。
「変化【小】」
龍剣で足元の氷を溶かし、水中変化術で身体を小さくして水に潜った。地表は氷に覆われていたが、地下に潜ると水が溜まっている。大きな氷の塊をよけながら、ルオは水中を泳いでいった。どのくらい進んできただろう。疲れを感じ始めた時、目の前に巨大な薄青色の壁が出現した。
分厚い氷に閉ざされた一角で、中が見えない。龍剣を向けて溶解を試みたが、まるで溶ける気配がない。きっと特殊な氷なのだ。
ひょっとして、…
思い当たることがあり、氷の壁を辿って上の方まで上昇してみた。地表を覆う氷を溶かし、頭だけ水面に出してみる。見上げると、薄青色の氷は遥か高くまでそびえ立っており、その頂から吹雪が吹き出しているようだった。
…やっぱり。
ルオは確信した。精霊スィンはこの薄青色の氷の中にいる。
「スィンさん! 水の精霊のスィンさ―――んっ。ちょっとお話したいことがあるんですけど。出てきて下さ―――いっ」
地表の水は溶かしても溶かしてもすぐに凍り付いてしまうので、ルオは再び水中に潜り、薄青色の氷に向かって呼びかけた。
「スィンさんってばぁ。ここにいるんでしょ? 返事して下さ――いっ」
懸命に呼びかけるが、うんともすんとも返事もなければ、目の前にそびえる分厚い氷もピクリとも動かない。無反応である。ルオはだんだん焦ってきた。
『龍神の双子よ。お前は遅すぎる。龍剣の力は私のものだ』
赤目ルオと火の精霊ピッピを連れ去った時、アクア王はそう宣言した。七つの力を手に入れて初めて龍剣を使いこなすことが出来るのだが、ルオは今のところ【結界】【回復】【複製】を習得した。アクア王は【停止】と【結界】を奪ったらしい。数からいったらルオの方が勝っているのだが、アクア王は自信満々だった。【停止】を使えば、他の力は使えなくなるからだろうか。
もう。だから、急がなきゃいけないんだって。
赤目ルオとピッピ。海老沼さんや佐藤さんと塩田さん。みんなを助け出してドランの龍剣も取り戻さなきゃいけないって言うのに。
正直、こんなところで分厚い氷の塊とにらめっこしている場合ではないのだ。
「スィンさ――――んっ。オレ、結構急いでるんです! 早くしないと龍剣の力が完全にアクア王のものになっちゃうんです。申し訳ないんですけど悲しみに暮れるのはちょっと後にしてもらって、オレに水の力を授けてもらえませんか―――っ!?」
ルオが懲りずに何度も呼び掛けていると、突然、薄青色の氷の塊が壁から飛び出し、ルオを遠くまで弾き飛ばした。
「やかましい!」
同時に、なんかヒステリックな女の子の声がする。相当怒っているような気がするが、とりあえず反応があったので一歩前進だ。ルオは氷の塊に乗ったまま、スイスイと薄青色の壁に近づき、再び呼びかけた。
「スィンさん。お返事してくれてありがとうございます。オレ、龍神ドランの双子の弟のルオです。龍剣に宿す七つの力を集めてるんですけど、【攻撃】を手に入れるには四元素の習得が必要らしくって、……」
「やかましいと言うておろうがっ」
再び、氷の塊が飛び出してルオを遠くにドーンと弾き飛ばす。さっきの五倍くらい遠くまで飛ばされた。勢いが強くなっている。
ルオを弾き飛ばすこの氷の塊は、スィンの怒りの象徴なのかもしれない。
多分、スィンはそうっとしておいてほしいのだ。心を閉ざしてじっと一人で悲しみに暮れていたいのだ。ルオの使命など知ったことではないのだろう。そもそも、スィンはどうして心を閉ざしてしまったのだろうか。
ルオは、スィンの状況も顧みず、自分の事情ばかりを押し付けてしまったことを反省した。
オレが力を得るために急いでいることと、スィンさんが悲しみに閉ざされていることは無関係だ。「悲しみに暮れるのはちょっと後にしてもらって」なんて、出来るはずがない。
ルオは深呼吸を繰り返し、心を落ち着けた。
【回復】の番人シロナガスクジラのスーガが言っていたではないか。
回復は、急げば急ぐほど遠ざかる、と。
スィンの悲しみが癒えるには時間が必要なんだ。
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