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Ⅵ章.赤色のスキル【攻撃】

10.四元素【土】なだれ落ちるタイムトンネル

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地中深くまで潜り込んだルオは、薄暗く続いていくトンネルの中に出た。

ポタン、ポタン、ポタン、…
空間が開けたので液化した身体が合わさり、固体の形、つまり元の姿に戻った。
首や腕をぐるぐる回してみる。胸元のペンダントに乗ったチューリッピも同じように肩を回している。

「液化体験、不思議だったね。チューリッピ」
「チュチュ―」

チューリッピが深く頷く。水の力を得たルオは、液化も気化も出来るということだ。これは水中変化術どころではない。ものすごい変化だ。龍宮に向かう時にドランが水中変化術で大きくなり、ルオを乗せてくれたが、『龍神の力を奪われたと言っても、水は俺の源だからな。このくらい出来る』と言っていた意味が分かった。龍剣を持っていたドランは途方もない力を手にしていたのだ。

「ここはどこだろう。スィンの導きで降りてきたんだから、土の精霊チイがいる地中だろうと思うんだけど」
「チチュー、チイ、チューリッピ」
「どさくさに紛れて自分も混ざってる」
「チチュー、チイ、チューリッピ」

響きが気に入ったらしく、チューリッピが繰り返す。
何はともあれ、チイを見つけなければ。

ルオはトンネルを観察してみた。
トンネルは天井から壁を伝ってサラサラと砂が流れている。よく見ると、砂は一粒一粒色が違い、それぞれが輝きを持っている。

「きれいな砂だな」

ルオが手を伸ばして指先で触れてみると、さらりと乾いた感触と共に脳裏に映像が浮かび上がった。

『お父さん、もう疲れた。帰ろうよー』
『いやいやまだだ。トンネルを完成させてこそ一人前のモグラ』
モグラの親子が土の中を掘り進んでいる映像である。

え、これって、……

ルオは反射的に砂から引いた手をもう一度触れてみた。さらりと乾いた感触。独特の輝き。

『いやあミミズさん精が出ますねえ』
『いえいえムカデさんこそ』
『おやダンゴムシさんどうされました』
『なんかくる。怖い。丸まる』
『ダンゴムシさんの丸まり方はいつ見ても見事ですよねえ』
地中で生活する虫たちが井戸端会議している映像。

そうか、この砂は記憶の結晶なんだ。水が映し取った記憶が地中で結晶化して土の精霊に守られているんだ。この膨大な砂は太古の昔から現代までの様々な記憶たちが積み重なって巡っているんだ。

そういえば、土壌生物は土を分解してまた生命が育つよう豊かにするっておじいが言ってた。おじいは裏の畑に植物の皮とか種とかを埋めてた。新しい作物を育てる肥料になるんだって。
それを「食物連鎖」っていって生物の命の輪が回ってる、とも言ってたっけ。

「チチュー、チイ、チューリッピ」

チューリッピってばまだ言ってる。
チューリッピの白い毛を撫でながらおかしくなったが、ふと気が付いた。
琥珀って樹液の結晶なんじゃなかった?
虫入り琥珀とかいって、遥か昔に生息していた虫とかが結晶になって残っているとか。
もしかしたらチューリッピはおじいの想いの結晶だったり、……

「チチュー、チイ、チューリッピ」

軽快に繰り返すチューリッピをじーっと見つめていると、チューリッピがぺろりと舌を出した。
「あ、いや。咎めたんじゃないよ」
照れたらしいチューリッピに慌てていった。
「チュー?」
「うーん。思いとか記憶とかって降り積もって結晶になって時を巡っていくんだな、って思っただけ」
おじいが化石とか琥珀に魅力を感じていたのが少しわかったような気がする。

サラサラと零れ落ちていく記憶の砂の結晶を感慨深い気持ちで眺めていると、突然地響きがして、トンネルが大きく揺れ出した。
「な、なに!?」
「チュチュ!?」

グラグラと足元が揺れ、頭上から土砂が降ってきて、砂の壁が崩れ落ちていく。

「も、もしかして、土砂崩れ――――っ!?」
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