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Ⅵ章.赤色のスキル【攻撃】
04.本体ルオ緊急出動
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「アクア王っ、……! 赤目とピッピを返せ!!」
本体ルオは慌てて手を伸ばしアクア王をつかもうとしたが、手は空を切るばかりで、何にも触れない。ルオの声すらアクア王には届いていないようだ。
それもそのはず。ルオは赤目ルオを通して【攻撃】の荒野を見ているだけで、実際には別の空間にいるのだ。まさに手も足も出せない状況で、
「赤目っ、赤目――っ、しっかりしろ――――っ」
赤目ルオに念力を送っても効果がない。
恐らく彼らはアクア王が奪ったという【停止】の力で静止させられているのだ。【攻撃】の荒野では今、あらゆるものの時間が止められている、…
そんな中を悠長に動いているのはアクアたちだけ。アクア王は赤目ルオとピッピを触手で縛り付けて連れていく。その周りを大勢のアクアたちがゆらゆらと浮遊しながら遠ざかっていった。
「クッソ! どうすれば、……」
途方に暮れるルオはアクア王に従うアクアたちの中に二人、見覚えのある顔を見つけた。
アクア化された人は、そのときの表情が外面に張り付いたように浮かび上がっているのだ。
「え、……」
あれは、…えーと。砂糖と塩。そう、シオタさんとサトウさん!
海洋研究所の職員で、ルオとドランを豪華客船に閉じ込め、脱出したら追いかけてきて、海老沼さんもろとも龍の都にやってきちゃった人たち。そんで、都に着くなりアクア化されちゃったんだっけ。
彼女たちも助けてあげなくちゃなんだよな、と思っていると、
「……、―――。」
二人がさりげなくルオの方を振り向き、かすかに口のように見えるもの(アクアの姿では口がどこだかイマイチ分からない)を動かした。
え? なに?
口の動きだけではよく分からないけれど。
「…スーツ」と言ったように見えた。
スーツ? スーツって、…スーツ、…?
そういえば。初めて彼らにあったのは、おじいの骨董屋『うみのがらくた』だった。
エビヌマさんは最初から偉そうで、紺色のスーツを着ていた。スーツってあのスーツ? いや、……
『博士がいなければ、アクアスーツの完成はあり得ませんでした。博士ほど生態学に造詣が深い方はいません。今一度、研究所に戻っていただきたい。返事はすぐにとは言いません。また伺います』
あの時、エビヌマがおじいと話していた会話の内容が蘇る。
アクアスーツ、……あの時確かに、アクアスーツって言ったような。
海老沼さんたちは海洋研究所で、実験を行う部署にいるっておじいが言っていた。たしか、人間が水中で生活できるように研究実験を行っているって。
アクア、…アクアスーツ、…実験。
もしかして、海底の時空の歪みの先にある龍宮にアクアが現れたことと、海老沼さんたちの開発実験には関係があるのか。もしかして、もしかしたら、おじいとも、……?
俯いて考えていると、おじいがくれた琥珀のペンダントが目に入った。
『お前が何者であっても、英雄でもそうじゃなくても、わしはずっとお前の味方だ。何があっても、お前はわしの大切な孫だ。どうか忘れないでくれ』
出かける時におじいがくれたおじいの宝物のペンダント。
おじい、どうしよう。
なんかオレ、アクア王に勝てる気しないんだけど、……
【攻撃】の力を習得する前に赤目とカッカを奪われてしまった。アクア王は【停止】の力を持っているから、ルオが何をしても停止させられたら太刀打ちできない。
せっかく【結界】【回復】【複製】の三つの力を手に入れたのに。
どうすればよいか分からず、おじいのペンダントを握りしめていると、
「チュ――――っ!!」
「ええっ!?」
突然琥珀のペンダントが光り出し、中からなんとハツカネズミのチューリッピが出てきた。
「チューリッピ! 良かった! 無事だったんだね。会いたかったよ!」
チューリッピの滑らかな白い毛を優しく撫でる。
それにしても。チューリッピ、今ペンダントから出てきたよね?
ルオはつぶらな瞳でこちらを見つめる白いハツカネズミと琥珀のペンダントを見比べた。もしかしたら、チューリッピもピッピみたいに石の精霊なんじゃないのかな。ピッピはこの世のあらゆるものに精霊が宿ってるって言ってたし。どっちも名前にピが付くし。
「チュ―――?」
そんなことを考えながらチューリッピをじっと見ていると、急にチューリッピが変顔をしてきた。
「いや、にらめっこじゃないって」
「チューリッピ!」
どうやら勝ったと言っているらしい。
何はともあれ。チューリッピがやってきてくれ、ルオは気持ちが落ち着いた。
チューリッピはおじいの琥珀ペンダントから生まれた守り神かもしれない。大丈夫、チューリッピもおじいもついている。諦めるのはまだ早い。
ルオがペンダントを握りしめて決意を新たにすると、そこにチューリッピが小さな手を乗せ、
「チューチューチュリッピ!」
何やら唱える。琥珀のペンダントから再び光があふれ、ルオが瞬きするとふいに視界が開けた。
見渡す限りの氷の世界。がちがちに凍った太い氷柱が深々と突き刺さって周囲の視界を遮る。凍てつく寒さに身体が震える。
どうやらルオは赤目ルオに変わって【攻撃】の次の試練、四元素【水】を獲得するため、氷の監獄にやってきたらしい。
本体ルオは慌てて手を伸ばしアクア王をつかもうとしたが、手は空を切るばかりで、何にも触れない。ルオの声すらアクア王には届いていないようだ。
それもそのはず。ルオは赤目ルオを通して【攻撃】の荒野を見ているだけで、実際には別の空間にいるのだ。まさに手も足も出せない状況で、
「赤目っ、赤目――っ、しっかりしろ――――っ」
赤目ルオに念力を送っても効果がない。
恐らく彼らはアクア王が奪ったという【停止】の力で静止させられているのだ。【攻撃】の荒野では今、あらゆるものの時間が止められている、…
そんな中を悠長に動いているのはアクアたちだけ。アクア王は赤目ルオとピッピを触手で縛り付けて連れていく。その周りを大勢のアクアたちがゆらゆらと浮遊しながら遠ざかっていった。
「クッソ! どうすれば、……」
途方に暮れるルオはアクア王に従うアクアたちの中に二人、見覚えのある顔を見つけた。
アクア化された人は、そのときの表情が外面に張り付いたように浮かび上がっているのだ。
「え、……」
あれは、…えーと。砂糖と塩。そう、シオタさんとサトウさん!
海洋研究所の職員で、ルオとドランを豪華客船に閉じ込め、脱出したら追いかけてきて、海老沼さんもろとも龍の都にやってきちゃった人たち。そんで、都に着くなりアクア化されちゃったんだっけ。
彼女たちも助けてあげなくちゃなんだよな、と思っていると、
「……、―――。」
二人がさりげなくルオの方を振り向き、かすかに口のように見えるもの(アクアの姿では口がどこだかイマイチ分からない)を動かした。
え? なに?
口の動きだけではよく分からないけれど。
「…スーツ」と言ったように見えた。
スーツ? スーツって、…スーツ、…?
そういえば。初めて彼らにあったのは、おじいの骨董屋『うみのがらくた』だった。
エビヌマさんは最初から偉そうで、紺色のスーツを着ていた。スーツってあのスーツ? いや、……
『博士がいなければ、アクアスーツの完成はあり得ませんでした。博士ほど生態学に造詣が深い方はいません。今一度、研究所に戻っていただきたい。返事はすぐにとは言いません。また伺います』
あの時、エビヌマがおじいと話していた会話の内容が蘇る。
アクアスーツ、……あの時確かに、アクアスーツって言ったような。
海老沼さんたちは海洋研究所で、実験を行う部署にいるっておじいが言っていた。たしか、人間が水中で生活できるように研究実験を行っているって。
アクア、…アクアスーツ、…実験。
もしかして、海底の時空の歪みの先にある龍宮にアクアが現れたことと、海老沼さんたちの開発実験には関係があるのか。もしかして、もしかしたら、おじいとも、……?
俯いて考えていると、おじいがくれた琥珀のペンダントが目に入った。
『お前が何者であっても、英雄でもそうじゃなくても、わしはずっとお前の味方だ。何があっても、お前はわしの大切な孫だ。どうか忘れないでくれ』
出かける時におじいがくれたおじいの宝物のペンダント。
おじい、どうしよう。
なんかオレ、アクア王に勝てる気しないんだけど、……
【攻撃】の力を習得する前に赤目とカッカを奪われてしまった。アクア王は【停止】の力を持っているから、ルオが何をしても停止させられたら太刀打ちできない。
せっかく【結界】【回復】【複製】の三つの力を手に入れたのに。
どうすればよいか分からず、おじいのペンダントを握りしめていると、
「チュ――――っ!!」
「ええっ!?」
突然琥珀のペンダントが光り出し、中からなんとハツカネズミのチューリッピが出てきた。
「チューリッピ! 良かった! 無事だったんだね。会いたかったよ!」
チューリッピの滑らかな白い毛を優しく撫でる。
それにしても。チューリッピ、今ペンダントから出てきたよね?
ルオはつぶらな瞳でこちらを見つめる白いハツカネズミと琥珀のペンダントを見比べた。もしかしたら、チューリッピもピッピみたいに石の精霊なんじゃないのかな。ピッピはこの世のあらゆるものに精霊が宿ってるって言ってたし。どっちも名前にピが付くし。
「チュ―――?」
そんなことを考えながらチューリッピをじっと見ていると、急にチューリッピが変顔をしてきた。
「いや、にらめっこじゃないって」
「チューリッピ!」
どうやら勝ったと言っているらしい。
何はともあれ。チューリッピがやってきてくれ、ルオは気持ちが落ち着いた。
チューリッピはおじいの琥珀ペンダントから生まれた守り神かもしれない。大丈夫、チューリッピもおじいもついている。諦めるのはまだ早い。
ルオがペンダントを握りしめて決意を新たにすると、そこにチューリッピが小さな手を乗せ、
「チューチューチュリッピ!」
何やら唱える。琥珀のペンダントから再び光があふれ、ルオが瞬きするとふいに視界が開けた。
見渡す限りの氷の世界。がちがちに凍った太い氷柱が深々と突き刺さって周囲の視界を遮る。凍てつく寒さに身体が震える。
どうやらルオは赤目ルオに変わって【攻撃】の次の試練、四元素【水】を獲得するため、氷の監獄にやってきたらしい。
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