上 下
47 / 78
Ⅵ章.赤色のスキル【攻撃】

04.本体ルオ緊急出動

しおりを挟む
「アクア王っ、……! 赤目とピッピを返せ!!」

本体ルオは慌てて手を伸ばしアクア王をつかもうとしたが、手は空を切るばかりで、何にも触れない。ルオの声すらアクア王には届いていないようだ。

それもそのはず。ルオは赤目ルオを通して【攻撃】の荒野を見ているだけで、実際には別の空間にいるのだ。まさに手も足も出せない状況で、

「赤目っ、赤目――っ、しっかりしろ――――っ」

赤目ルオに念力を送っても効果がない。
恐らく彼らはアクア王が奪ったという【停止】の力で静止させられているのだ。【攻撃】の荒野では今、あらゆるものの時間が止められている、…

そんな中を悠長に動いているのはアクアたちだけ。アクア王は赤目ルオとピッピを触手で縛り付けて連れていく。その周りを大勢のアクアたちがゆらゆらと浮遊しながら遠ざかっていった。

「クッソ! どうすれば、……」

途方に暮れるルオはアクア王に従うアクアたちの中に二人、見覚えのある顔を見つけた。
アクア化された人は、そのときの表情が外面に張り付いたように浮かび上がっているのだ。

「え、……」

あれは、…えーと。砂糖と塩。そう、シオタさんとサトウさん!
海洋研究所の職員で、ルオとドランを豪華客船に閉じ込め、脱出したら追いかけてきて、海老沼さんもろとも龍の都にやってきちゃった人たち。そんで、都に着くなりアクア化されちゃったんだっけ。

彼女たちも助けてあげなくちゃなんだよな、と思っていると、

「……、―――。」

二人がさりげなくルオの方を振り向き、かすかに口のように見えるもの(アクアの姿では口がどこだかイマイチ分からない)を動かした。

え? なに?

口の動きだけではよく分からないけれど。
「…スーツ」と言ったように見えた。

スーツ? スーツって、…スーツ、…?

そういえば。初めて彼らにあったのは、おじいの骨董屋『うみのがらくた』だった。
エビヌマさんは最初から偉そうで、紺色のスーツを着ていた。スーツってあのスーツ? いや、……

『博士がいなければ、アクアスーツの完成はあり得ませんでした。博士ほど生態学に造詣が深い方はいません。今一度、研究所に戻っていただきたい。返事はすぐにとは言いません。また伺います』

あの時、エビヌマがおじいと話していた会話の内容が蘇る。

アクアスーツ、……あの時確かに、アクアスーツって言ったような。

海老沼さんたちは海洋研究所で、実験を行う部署にいるっておじいが言っていた。たしか、人間が水中で生活できるように研究実験を行っているって。

アクア、…アクアスーツ、…実験。
もしかして、海底の時空の歪みの先にある龍宮にアクアが現れたことと、海老沼さんたちの開発実験には関係があるのか。もしかして、もしかしたら、おじいとも、……?

俯いて考えていると、おじいがくれた琥珀のペンダントが目に入った。

『お前が何者であっても、英雄でもそうじゃなくても、わしはずっとお前の味方だ。何があっても、お前はわしの大切な孫だ。どうか忘れないでくれ』

出かける時におじいがくれたおじいの宝物のペンダント。

おじい、どうしよう。
なんかオレ、アクア王に勝てる気しないんだけど、……

【攻撃】の力を習得する前に赤目とカッカを奪われてしまった。アクア王は【停止】の力を持っているから、ルオが何をしても停止させられたら太刀打ちできない。

せっかく【結界】【回復】【複製】の三つの力を手に入れたのに。

どうすればよいか分からず、おじいのペンダントを握りしめていると、

「チュ――――っ!!」

「ええっ!?」

突然琥珀のペンダントが光り出し、中からなんとハツカネズミのチューリッピが出てきた。

「チューリッピ! 良かった! 無事だったんだね。会いたかったよ!」

チューリッピの滑らかな白い毛を優しく撫でる。
それにしても。チューリッピ、今ペンダントから出てきたよね?

ルオはつぶらな瞳でこちらを見つめる白いハツカネズミと琥珀のペンダントを見比べた。もしかしたら、チューリッピもピッピみたいに石の精霊なんじゃないのかな。ピッピはこの世のあらゆるものに精霊が宿ってるって言ってたし。どっちも名前にピが付くし。

「チュ―――?」

そんなことを考えながらチューリッピをじっと見ていると、急にチューリッピが変顔をしてきた。

「いや、にらめっこじゃないって」
「チューリッピ!」

どうやら勝ったと言っているらしい。

何はともあれ。チューリッピがやってきてくれ、ルオは気持ちが落ち着いた。
チューリッピはおじいの琥珀ペンダントから生まれた守り神かもしれない。大丈夫、チューリッピもおじいもついている。諦めるのはまだ早い。

ルオがペンダントを握りしめて決意を新たにすると、そこにチューリッピが小さな手を乗せ、

「チューチューチュリッピ!」

何やら唱える。琥珀のペンダントから再び光があふれ、ルオが瞬きするとふいに視界が開けた。

見渡す限りの氷の世界。がちがちに凍った太い氷柱が深々と突き刺さって周囲の視界を遮る。凍てつく寒さに身体が震える。
どうやらルオは赤目ルオに変わって【攻撃】の次の試練、四元素【水】を獲得するため、氷の監獄にやってきたらしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大好きなのにゼッタイ付き合えない

花梨
児童書・童話
中1の波奈は、隣の家に住む社会人の悠真に片思いしていた。でも、悠真には婚約者が!失恋してしまったけれど、友達に「年上の彼氏に会わせてあげる」なんて見栄を張ってしまった。そこで、悠真の弟の中3の楓真に「彼氏のフリをして」とお願いしてしまう。 作戦は無事成功したのだけど……ウソのデートをしたことで、波奈は楓真のことを好きになってしまう。 でも、ウソの彼氏として扱ったことで「本当の彼氏になって」と言えなくなってしまい……『ゼッタイ付き合えない』状況に。 楓真に恋する先輩や友達にウソをつき続けていいの? 波奈は、揺れる恋心と、自分の性格に向き合うことができるのか。

転校生はおんみょうじ!

咲間 咲良
児童書・童話
森崎花菜(もりさきはな)は、ちょっぴり人見知りで怖がりな小学五年生。 ある日、親友の友美とともに向かった公園で木の根に食べられそうになってしまう。助けてくれたのは見知らぬ少年、黒住アキト。 花菜のクラスの転校生だったアキトは赤茶色の猫・赤ニャンを従える「おんみょうじ」だという。 なりゆきでアキトとともに「鬼退治」をすることになる花菜だったが──。

チョココロネなせかい

もちっぱち
児童書・童話
お子さん向けのお話です。 これを読んだらきっと チョココロネを食べたくなるかも⭐︎ 不思議な世界にようこそ。 読み聞かせにぜひご覧ください^_^ 表紙絵… 茶冬水 様 文… もちっぱち

現実でぼっちなぼくは、異世界で勇者になれるのか?

シュウ
児童書・童話
つばさは人付き合いが苦手な男の子。 家でも学校でもうまくいっているとは言い難かった。 そんなある日、つばさは家族旅行の最中に、白いフクロウに導かれて不思議な世界『ヤマのクニ』に迷い込む。 本来平和なこの国は、霧の向こうからやってきた『異形』によって平穏が脅かされていた。 なんの力もない無力な小学生であるつばさだが、都合よく異能力なんてものをもったりも当然していない。 この世界で助けられた少女・サギとともにヤマのクニを旅する。 果たしてつばさは元の世界に帰ることができるのか。

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

迷宮さんを育てよう! ~ほんわかぷにぷにダンジョン、始まります~

霜月零
児童書・童話
 ありえないぐらい方向音痴のわたしは、道に迷ってしまって……気がついたら、異世界の迷宮に転生(?)しちゃってましたっ。  意思を持った迷宮そのものに生まれ変わってしまったわたしは、迷宮妖精小人のコビットさんや、スライムさん、そしてゴーレムさんに内緒の仲間たちと一緒に迷宮でほのぼの過ごしちゃいますよー! ※他サイト様にも掲載中です

どんなうどん?

天仕事屋(てしごとや)
絵本
今街で人気のうどん屋さんのお話です。

心晴と手乗り陰陽師

乙原ゆん
児童書・童話
小学五年生の藤崎心晴(ふじさきこはる)は、父親の転勤で福岡へ転校してきたばかり。 引っ越し荷物の中から母親のハムスターの人形を見つけたところ、その人形が動き出し、安倍晴明と言い出した。しかも、心晴のご先祖様だという。 ご先祖様は、自分は偉大な陰陽師だったと言うものの、陰陽師って何? 現世のお菓子が大好きなハムスター(ハムアキラと命名)と共に、楽しい学校生活が始まる。

処理中です...