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Ⅵ章.赤色のスキル【攻撃】
03.炎の精霊ピッピ
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炎の精霊ピッピの導きで、赤目ルオは荒野に並ぶ寂れた町の果て、巨大なかまどが鎮座する共用施設のような住居に来ていた。
「ここはかまどの間。炎を体得するのに最適な場所ピッピ」
「いよっし! この石窯に火を起こせばいいんだろ。任せな。火の修業に耐えられたオレなら簡単簡単」
炎を龍剣に収めることに成功した赤目ルオは得意満面で、早速龍剣を抜くとかまどに向かい、
「出でよ、炎!」
なんかカッコつけたポーズで切っ先を振った。
…が。
ぷしゅう、という白けた音がして、お情け程度の煙が漂っただけだった。
「はい、ダメピッピ。礼儀が足りないピッピ」
「礼儀ぃ~~~?」
ピッピにダメ出しされた赤目ルオはきょとんとしている。状況を見守っていた本体ルオも意外な気持ちだった。果敢に炎に挑んで炎を従わせたのだから、出力は容易だと思ったのに。
「火に対する畏敬の念を持つピッピ。すべてを焼き尽くし灰にしてしまう炎は恐れられることも多いピピけど、すべてを浄化して無に帰すという水のような清めの意味合いもあるピッピ。精霊や魂を送迎する指標でもあるピピ。いいピッピ? 炎は勢いだけでなく、鎮めることも重要。ルオは直情型で何も考えずに突っ走るピピが、それをコントロールする力を身に着けるピッピ」
「ええ~? なんか難しいこと言い出した…」
赤目ルオが掲げた龍剣がへなんと垂れ下がる。
直情型赤目ルオは論理が苦手らしい。
本体ルオも難しい話は苦手だが、精霊ピッピの言わんとすることはなんとなくわかるような気がする。お葬式で亡くなった人を火葬して、魂を天に帰す。火は浄化して無に帰す重要な役割を担っている。強く激しく誇り高い。
「赤目、心を落ち着けて、自分が炎に包まれたときのことを思い出すんだ。恐怖や嫌悪じゃなくて、火に対する尊敬の気持ちを持つんだ」
本体ルオは自身の龍剣を抜いて、火に対する畏敬の念を思い浮かべてみた。
なんとなく、全身がすっと鎮まり、低体温と静寂が訪れた、……ような気がしたところで、
「そんなん言ってもさ~? 火は火じゃんな? 燃え盛るからいいんじゃんか」
未だ納得できないらしい赤目ルオがぶつぶつ言った。
ええ―――、オレのくせに物分かり悪いな。
「赤目、焚火だよ、焚火。キャンプファイヤーとかさ、バーベキューとか。燃えてる火を見ていると心が安らぐじゃん」
「キャンプファイヤーしたことねえし」
「そこは想像で補えよ!」
本体ルオは赤目ルオが思うように進んでくれないことに若干の苛立ちを感じていた。
なんか。自分でさえ思うようには動かせない。誰かにやってもらうって自分でやるより大変なんだな。
「だからさ。とにかくちょっと落ち着いて。興奮したら大火事になっちゃうからさ」
しかし腹を立てても仕方がないので、自分も心を鎮め、再び火に対する畏敬の念に集中することにした。
「オレ良く落ち着いてるって言われんだけどな」
絶対嘘じゃん!
ぶつぶつ言いながらも赤目ルオが龍剣をかまどにかざしたので、本体ルオは自分が感じた低体温と静寂を赤目ルオに送信することを試みた。【複製】ってオレ自身なんだからテレパシーみたいなので通じ合ってもいいよな?
火。業火。恐れ。恐怖。そして鎮静。浄化。無。帰る、……
ルオと赤目ルオが揃って火に対する礼儀を重んじ、心を集中させていると、低下した体温が上昇するのを感じた。身体の中を巡った炎が勢いよく湧き出す。左手にある龍の紋章がチリチリ焼けるような気がした。
「やったピッピ! いい火だピピ!」
どのくらい経ったのか。集中するあまり時間が経つのを忘れていたルオは、精霊ピッピの声で我に返る。
「やっほー! さすがオレ!」
見ると、ガッツポーズを決めている赤目ルオの先にあるかまどに温かな火が灯っていた。
よし、火の試練クリアだ!
やきもきしていた本体ルオもほっと息を吐いた。
「な、この火でバーベキューしようぜ。せっかくかまどなんだからナンとか焼いてみたり、……」
赤目ルオが元気よくピッピに言いかけた、その時。龍剣の周りをひらひら飛び回っていた精霊ピッピと、赤目ルオが動きを止めた。
え? おい?
開きかけた口もそのままに、振り上げた手もそのままに。赤目ルオが完全に停止している。
よく見ると、かまどに灯ったばかりの炎さえ、止まっている。
な、…なんだ、これ。どういう、……
「炎と、…【攻撃】はもらっていく。防御だけでは俺は倒せん」
動揺するルオの目の前に不気味な触手が現れ、静止した赤目ルオと妖精ピッピをひと巻きにした。
触手? まさか、……
ルオの前に巨大なクラゲが舞い降り、おびただしい数の触手を広げて、温かなかまどの一室を急激に黒く塗りつぶした。あきらめ、虚しさ、どうでもいい、……ルオは突如、言いようのないおぞましさと虚無感を感じた。
「アクア王、……」
「龍神の双子よ。お前は遅すぎる。龍剣の力は私のものだ」
クラゲなのかイカなのか。半透明の触手をなびかせて目の前をよぎるアクア王は、得体のしれない不気味な姿で、すえたごみのような匂いがした。
「ここはかまどの間。炎を体得するのに最適な場所ピッピ」
「いよっし! この石窯に火を起こせばいいんだろ。任せな。火の修業に耐えられたオレなら簡単簡単」
炎を龍剣に収めることに成功した赤目ルオは得意満面で、早速龍剣を抜くとかまどに向かい、
「出でよ、炎!」
なんかカッコつけたポーズで切っ先を振った。
…が。
ぷしゅう、という白けた音がして、お情け程度の煙が漂っただけだった。
「はい、ダメピッピ。礼儀が足りないピッピ」
「礼儀ぃ~~~?」
ピッピにダメ出しされた赤目ルオはきょとんとしている。状況を見守っていた本体ルオも意外な気持ちだった。果敢に炎に挑んで炎を従わせたのだから、出力は容易だと思ったのに。
「火に対する畏敬の念を持つピッピ。すべてを焼き尽くし灰にしてしまう炎は恐れられることも多いピピけど、すべてを浄化して無に帰すという水のような清めの意味合いもあるピッピ。精霊や魂を送迎する指標でもあるピピ。いいピッピ? 炎は勢いだけでなく、鎮めることも重要。ルオは直情型で何も考えずに突っ走るピピが、それをコントロールする力を身に着けるピッピ」
「ええ~? なんか難しいこと言い出した…」
赤目ルオが掲げた龍剣がへなんと垂れ下がる。
直情型赤目ルオは論理が苦手らしい。
本体ルオも難しい話は苦手だが、精霊ピッピの言わんとすることはなんとなくわかるような気がする。お葬式で亡くなった人を火葬して、魂を天に帰す。火は浄化して無に帰す重要な役割を担っている。強く激しく誇り高い。
「赤目、心を落ち着けて、自分が炎に包まれたときのことを思い出すんだ。恐怖や嫌悪じゃなくて、火に対する尊敬の気持ちを持つんだ」
本体ルオは自身の龍剣を抜いて、火に対する畏敬の念を思い浮かべてみた。
なんとなく、全身がすっと鎮まり、低体温と静寂が訪れた、……ような気がしたところで、
「そんなん言ってもさ~? 火は火じゃんな? 燃え盛るからいいんじゃんか」
未だ納得できないらしい赤目ルオがぶつぶつ言った。
ええ―――、オレのくせに物分かり悪いな。
「赤目、焚火だよ、焚火。キャンプファイヤーとかさ、バーベキューとか。燃えてる火を見ていると心が安らぐじゃん」
「キャンプファイヤーしたことねえし」
「そこは想像で補えよ!」
本体ルオは赤目ルオが思うように進んでくれないことに若干の苛立ちを感じていた。
なんか。自分でさえ思うようには動かせない。誰かにやってもらうって自分でやるより大変なんだな。
「だからさ。とにかくちょっと落ち着いて。興奮したら大火事になっちゃうからさ」
しかし腹を立てても仕方がないので、自分も心を鎮め、再び火に対する畏敬の念に集中することにした。
「オレ良く落ち着いてるって言われんだけどな」
絶対嘘じゃん!
ぶつぶつ言いながらも赤目ルオが龍剣をかまどにかざしたので、本体ルオは自分が感じた低体温と静寂を赤目ルオに送信することを試みた。【複製】ってオレ自身なんだからテレパシーみたいなので通じ合ってもいいよな?
火。業火。恐れ。恐怖。そして鎮静。浄化。無。帰る、……
ルオと赤目ルオが揃って火に対する礼儀を重んじ、心を集中させていると、低下した体温が上昇するのを感じた。身体の中を巡った炎が勢いよく湧き出す。左手にある龍の紋章がチリチリ焼けるような気がした。
「やったピッピ! いい火だピピ!」
どのくらい経ったのか。集中するあまり時間が経つのを忘れていたルオは、精霊ピッピの声で我に返る。
「やっほー! さすがオレ!」
見ると、ガッツポーズを決めている赤目ルオの先にあるかまどに温かな火が灯っていた。
よし、火の試練クリアだ!
やきもきしていた本体ルオもほっと息を吐いた。
「な、この火でバーベキューしようぜ。せっかくかまどなんだからナンとか焼いてみたり、……」
赤目ルオが元気よくピッピに言いかけた、その時。龍剣の周りをひらひら飛び回っていた精霊ピッピと、赤目ルオが動きを止めた。
え? おい?
開きかけた口もそのままに、振り上げた手もそのままに。赤目ルオが完全に停止している。
よく見ると、かまどに灯ったばかりの炎さえ、止まっている。
な、…なんだ、これ。どういう、……
「炎と、…【攻撃】はもらっていく。防御だけでは俺は倒せん」
動揺するルオの目の前に不気味な触手が現れ、静止した赤目ルオと妖精ピッピをひと巻きにした。
触手? まさか、……
ルオの前に巨大なクラゲが舞い降り、おびただしい数の触手を広げて、温かなかまどの一室を急激に黒く塗りつぶした。あきらめ、虚しさ、どうでもいい、……ルオは突如、言いようのないおぞましさと虚無感を感じた。
「アクア王、……」
「龍神の双子よ。お前は遅すぎる。龍剣の力は私のものだ」
クラゲなのかイカなのか。半透明の触手をなびかせて目の前をよぎるアクア王は、得体のしれない不気味な姿で、すえたごみのような匂いがした。
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