上 下
46 / 78
Ⅵ章.赤色のスキル【攻撃】

03.炎の精霊ピッピ

しおりを挟む
炎の精霊ピッピの導きで、赤目ルオは荒野に並ぶ寂れた町の果て、巨大なかまどが鎮座する共用施設のような住居に来ていた。

「ここはかまどの間。炎を体得するのに最適な場所ピッピ」
「いよっし! この石窯に火を起こせばいいんだろ。任せな。火の修業に耐えられたオレなら簡単簡単」

炎を龍剣に収めることに成功した赤目ルオは得意満面で、早速龍剣を抜くとかまどに向かい、

「出でよ、炎!」

なんかカッコつけたポーズで切っ先を振った。

…が。
ぷしゅう、という白けた音がして、お情け程度の煙が漂っただけだった。

「はい、ダメピッピ。礼儀が足りないピッピ」
「礼儀ぃ~~~?」

ピッピにダメ出しされた赤目ルオはきょとんとしている。状況を見守っていた本体ルオも意外な気持ちだった。果敢に炎に挑んで炎を従わせたのだから、出力は容易だと思ったのに。

「火に対する畏敬の念を持つピッピ。すべてを焼き尽くし灰にしてしまう炎は恐れられることも多いピピけど、すべてを浄化して無に帰すという水のような清めの意味合いもあるピッピ。精霊や魂を送迎する指標でもあるピピ。いいピッピ? 炎は勢いだけでなく、鎮めることも重要。ルオは直情型で何も考えずに突っ走るピピが、それをコントロールする力を身に着けるピッピ」

「ええ~? なんか難しいこと言い出した…」

赤目ルオが掲げた龍剣がへなんと垂れ下がる。
直情型赤目ルオは論理が苦手らしい。

本体ルオも難しい話は苦手だが、精霊ピッピの言わんとすることはなんとなくわかるような気がする。お葬式で亡くなった人を火葬して、魂を天に帰す。火は浄化して無に帰す重要な役割を担っている。強く激しく誇り高い。

「赤目、心を落ち着けて、自分が炎に包まれたときのことを思い出すんだ。恐怖や嫌悪じゃなくて、火に対する尊敬の気持ちを持つんだ」

本体ルオは自身の龍剣を抜いて、火に対する畏敬の念を思い浮かべてみた。
なんとなく、全身がすっと鎮まり、低体温と静寂が訪れた、……ような気がしたところで、

「そんなん言ってもさ~? 火は火じゃんな? 燃え盛るからいいんじゃんか」

未だ納得できないらしい赤目ルオがぶつぶつ言った。
ええ―――、オレのくせに物分かり悪いな。

「赤目、焚火だよ、焚火。キャンプファイヤーとかさ、バーベキューとか。燃えてる火を見ていると心が安らぐじゃん」
「キャンプファイヤーしたことねえし」
「そこは想像で補えよ!」

本体ルオは赤目ルオが思うように進んでくれないことに若干の苛立ちを感じていた。
なんか。自分でさえ思うようには動かせない。誰かにやってもらうって自分でやるより大変なんだな。

「だからさ。とにかくちょっと落ち着いて。興奮したら大火事になっちゃうからさ」

しかし腹を立てても仕方がないので、自分も心を鎮め、再び火に対する畏敬の念に集中することにした。

「オレ良く落ち着いてるって言われんだけどな」

絶対嘘じゃん!

ぶつぶつ言いながらも赤目ルオが龍剣をかまどにかざしたので、本体ルオは自分が感じた低体温と静寂を赤目ルオに送信することを試みた。【複製】ってオレ自身なんだからテレパシーみたいなので通じ合ってもいいよな?

火。業火。恐れ。恐怖。そして鎮静。浄化。無。帰る、……

ルオと赤目ルオが揃って火に対する礼儀を重んじ、心を集中させていると、低下した体温が上昇するのを感じた。身体の中を巡った炎が勢いよく湧き出す。左手にある龍の紋章がチリチリ焼けるような気がした。

「やったピッピ! いい火だピピ!」

どのくらい経ったのか。集中するあまり時間が経つのを忘れていたルオは、精霊ピッピの声で我に返る。

「やっほー! さすがオレ!」

見ると、ガッツポーズを決めている赤目ルオの先にあるかまどに温かな火が灯っていた。
よし、火の試練クリアだ!

やきもきしていた本体ルオもほっと息を吐いた。

「な、この火でバーベキューしようぜ。せっかくかまどなんだからナンとか焼いてみたり、……」

赤目ルオが元気よくピッピに言いかけた、その時。龍剣の周りをひらひら飛び回っていた精霊ピッピと、赤目ルオが動きを止めた。

え? おい?

開きかけた口もそのままに、振り上げた手もそのままに。赤目ルオが完全に停止している。
よく見ると、かまどに灯ったばかりの炎さえ、止まっている。

な、…なんだ、これ。どういう、……

「炎と、…【攻撃】はもらっていく。防御だけでは俺は倒せん」

動揺するルオの目の前に不気味な触手が現れ、静止した赤目ルオと妖精ピッピをひと巻きにした。

触手? まさか、……

ルオの前に巨大なクラゲが舞い降り、おびただしい数の触手を広げて、温かなかまどの一室を急激に黒く塗りつぶした。あきらめ、虚しさ、どうでもいい、……ルオは突如、言いようのないおぞましさと虚無感を感じた。

「アクア王、……」

「龍神の双子よ。お前は遅すぎる。龍剣の力は私のものだ」

クラゲなのかイカなのか。半透明の触手をなびかせて目の前をよぎるアクア王は、得体のしれない不気味な姿で、すえたごみのような匂いがした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誤字脱字作文

天才けんぽん
児童書・童話
まつがい文章です。創造しながら呼んでください

【小説版】怪獣の人~かいじゅうのひと~

TEKKON
児童書・童話
「朝、起きたら男は怪獣になっていた…!」 男は一体どうなってしまうのか?お気軽にお楽しみください。 ※ こちらは同タイトルのノベルゲームで   一番評判の良いシナリオを多少修正して   小説版にしております。    興味持たれた人はノベルゲームコレクションへ! 「怪獣の人」 https://novelgame.jp/games/show/4948 総選択肢:5、エンディング数:5 総文字数:約13000字 最長シナリオ:約8500字 最短シナリオ:約3000字

妖精の約束

鹿野 秋乃
児童書・童話
 冬の夜。眠れない少年に母が語り聞かせた物語は、妖精の郷を救った王子の冒険だった。昔どこかで誰かに聞いたかもしれないおとぎ話。図書館の隅で読んだかも知れない童話。大人になって、ふと思い出す。そんな懐かしい、お菓子のようなお話。

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

少年王と時空の扉

みっち~6画
児童書・童話
エジプト展を訪れた帰り道。エレベーターを抜けると、そこは砂の海。不思議なメダルをめぐる隼斗の冒険は、小学5年のかけがえのない夏の日に。

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

魔法少女は世界を救わない

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 混沌とした太古の昔、いわゆる神話の時代、人々は突然現れた魔竜と呼ばれる強大な存在を恐れ暮らしてきた。しかし、長い間苦しめられてきた魔竜を討伐するため神官たちは神へ祈り、その力を凝縮するための祭壇とも言える巨大な施設を産み出した。  神の力が満ち溢れる場所から人を超えた力と共に産みおとされた三人の勇者、そして同じ場所で作られた神具と呼ばれる強大な力を秘めた武具を用いて魔竜は倒され世界には平和が訪れた。  それから四千年が経ち人々の記憶もあいまいになっていた頃、世界に再び混乱の影が忍び寄る。時を同じくして一人の少女が神具を手にし、世の混乱に立ち向かおうとしていた。

参上! 怪盗イタッチ

ピラフドリア
児童書・童話
参上! 怪盗イタッチ  イタチの怪盗イタッチが、あらゆるお宝を狙って大冒険!? 折り紙を使った怪盗テクニックで、どんなお宝も盗み出す!! ⭐︎詳細⭐︎ 以下のサイトでも投稿してます。 ・小説家になろう ・エブリスタ ・カクヨム ・ハーメルン ・pixiv ・ノベルアップ+ ・アルファポリス ・note ・ノベリズム ・魔法ランド ・ノベルピア ・YouTube

処理中です...