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Ⅵ章.赤色のスキル【攻撃】
05.四元素【水】氷の監獄から抜け出せ
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「さ、寒い、……」
「チ、チュー、……」
一面の氷に閉ざされた場所にいると、一瞬で手足がかじかみ、身体の芯まで冷え切ってくる。ルオは勝手にブルブル震えるのを止められなくなり、上着の中にかくまったチューリッピもガタガタ震えている。
「こ、こんなところにじっとしてたらオレも氷柱の一部になっちゃう。とにかく先に進もう」
「チューリッピ!」
ルオは行き先も分からないまま、とにかく足を動かした。動いてればあったかくなるし。と思ったが、猛烈な勢いで吹き付ける吹雪に視界は遮られ、氷に覆われた地面は歩きにくく、感覚を失った手足は徐々に動かなくなっていく。
「チュチュチュ、チューリッピ、どどど、どうしよう。ななな、なんかオレ、すすす、進めなく、なってきたんだだだ、……」
凍えすぎて歯の根が合わない。
「チチチ、チュチュチュ、チチチ、リリリッピ、……」
ルオの服にくるまったチューリッピもまるで寒さをしのげてはいないようで、ガタガタしながら鳴き声も噛み合わない。
やばいな。どうしよう。このままじゃ凍死する。
せっかく本体ルオが出動したのに、開始五分で凍結とか、勘弁してほしい。
何か回避策がないかと無駄にきょろきょろしていると、周りを取り囲んでいる巨大な氷柱の中に何かが入っていることに気づいた。
「え、……」
巨大な氷の柱の中に氷漬けになっている、これまた恐ろしく大きな巨体は、……
「メガロドンのメガさん!?」
全身が把握できないほど身体も氷柱も大きいが、柱の中でカッチンコッチンに凍っているのは、【攻撃】の番人メガロドンのメガのように見えた。
「だだだ、大丈、ぶぶぶ、……」
すぐに氷を溶かして中から出してあげたいが、歯ががちがち鳴って、手足も震えて、動くこともままならない。
ん? 溶かす?
オレって一応、龍剣から炎を出せるんじゃなかったっけ?
火に畏敬の念を持つことを学んだ。その時体温を上げたり下げたりも出来たような。まあ、厳密にいうと習得したのは赤目ルオだけど、オレも一応火の試練をクリアしたってことでいいような??
ルオはガッチガチに固まった身体を何とか動かし、ぎくしゃくしながら背中の龍剣を抜くと氷漬けになっているメガロドンに向かって構えた。
「出でよ、炎」
赤目ルオのセリフを再現してみる。
心を落ち着けて。火の本質に迫る。火は全てを焼き尽くし灰にするが、また、凍える心を温めてもくれる。揺れ動き舞い上がる炎は、心に温かさと安らぎをもたらす。
冷え切った身体の奥に温かな熱が灯る。身体の中を熱が巡り、左手にある龍の紋章が熱くうずく。火と一体化する。
ゴオオオオ、…――――
龍剣から噴き出した炎が、巨大な氷柱に向かい、大きな火柱が上がる。火となり、氷を溶かすルオは、身体中が熱くなり気持ちが高まっていくのを感じた。
「む、……むむ、……」
溶けた氷が水となり、盛大な水しぶきを上げて、メガロドンが氷上に躍り出た。
「【攻撃】の番人、メガロドンのメガ、ここに参上! …さっむ! ぶえっくしょん!」
まあそれなりに元気そうである。
「メガさん。大丈夫ですか」
「おう。おめえは龍神の双子、ルオ坊。こんなとこで会うたあ奇遇だな」
奇遇、…なのか?
若干の疑問を感じないでもないが、相変わらずのべらんめえ調にルオはどこか安心した。
「おめえはアクア王にとっ捕まったんじゃなかったのか」
「あ。それは赤目ルオです。オレの【複製】で、……」
赤目ルオのことを思うと胸が痛む。アクア化はされていなかったようだが今頃どうしているだろう。
「なるほど。おめえは【複製】が使えるんだな。今ここにいるのは本体ってわけだ」
「はい、そうです。ところでメガさんはどうして氷の中にいたんですか」
「そりゃあおめえ、アクア王が来たからな。奴の目をくらませるよう氷の中に隠れてたのさ。しかし、火の精霊ピッピと風の精霊ビュウも連れていかれちまった。おれの攻撃力も半減だ。水の精霊スィンは心を閉ざして氷の監獄を作っちまうし、土の精霊チイは地中深くに潜って出てこなくなっちまうしよー、……」
メガが深々とため息をつくと、息が白く見えた。続いて鼻水をすすると、その前にもう凍り付いていた。
極寒の地をなめてはいけない。
「メガさん。体温調節!」
ルオは火の能力を使い、身体を適温に保つことに成功していた。ルオにくっついているチューリッピにも体温が分け与えられているようで、もう震えていない。火の修業が烈火にも氷塊にも有効なんてすごい。
「おう、そうだったそうだった」
メガが大きな鼻息と共に口から炎を吐き出した。
「冷凍保存技術はすごいな。ルオ坊はコールドスリープについて聞いたことがあるか。氷漬けになって未来で蘇生させてもらう。そうやって時を超える技術だ。アクア王もおれが凍っていたから素通りさ。ま、氷漬けになったはいいが、自分で出られないのが難点なんだけどな。溶かしてくれて助かったよ、ルオ坊」
「はあ、……」
ルオ坊と呼ばれると、なんだか調子が狂う。
しかしなるほど。水の能力を手に入れると、冷凍保存なる技術を使えるわけか。もしかしたらその力は、アクア王の【停止】能力に対抗できるかもしれない。
いや、待てよ。
水の中で生活できる技術がアクアスーツだとしたら、その機能に冷凍保存が含まれている可能性もあるかも。
「おめえも火の試練を潜り抜けたようだな。次なる水の技術を習得するには、閉ざされた精霊スィンの心を溶かさなきゃならん。まずはこの氷の監獄から脱出するこったな」
メガに言われて改めてあたりを見回すが、分厚い氷に閉ざされ、吹雪が荒れ狂う中をどうやって脱出すればよいのだろう。
「チ、チュー、……」
一面の氷に閉ざされた場所にいると、一瞬で手足がかじかみ、身体の芯まで冷え切ってくる。ルオは勝手にブルブル震えるのを止められなくなり、上着の中にかくまったチューリッピもガタガタ震えている。
「こ、こんなところにじっとしてたらオレも氷柱の一部になっちゃう。とにかく先に進もう」
「チューリッピ!」
ルオは行き先も分からないまま、とにかく足を動かした。動いてればあったかくなるし。と思ったが、猛烈な勢いで吹き付ける吹雪に視界は遮られ、氷に覆われた地面は歩きにくく、感覚を失った手足は徐々に動かなくなっていく。
「チュチュチュ、チューリッピ、どどど、どうしよう。ななな、なんかオレ、すすす、進めなく、なってきたんだだだ、……」
凍えすぎて歯の根が合わない。
「チチチ、チュチュチュ、チチチ、リリリッピ、……」
ルオの服にくるまったチューリッピもまるで寒さをしのげてはいないようで、ガタガタしながら鳴き声も噛み合わない。
やばいな。どうしよう。このままじゃ凍死する。
せっかく本体ルオが出動したのに、開始五分で凍結とか、勘弁してほしい。
何か回避策がないかと無駄にきょろきょろしていると、周りを取り囲んでいる巨大な氷柱の中に何かが入っていることに気づいた。
「え、……」
巨大な氷の柱の中に氷漬けになっている、これまた恐ろしく大きな巨体は、……
「メガロドンのメガさん!?」
全身が把握できないほど身体も氷柱も大きいが、柱の中でカッチンコッチンに凍っているのは、【攻撃】の番人メガロドンのメガのように見えた。
「だだだ、大丈、ぶぶぶ、……」
すぐに氷を溶かして中から出してあげたいが、歯ががちがち鳴って、手足も震えて、動くこともままならない。
ん? 溶かす?
オレって一応、龍剣から炎を出せるんじゃなかったっけ?
火に畏敬の念を持つことを学んだ。その時体温を上げたり下げたりも出来たような。まあ、厳密にいうと習得したのは赤目ルオだけど、オレも一応火の試練をクリアしたってことでいいような??
ルオはガッチガチに固まった身体を何とか動かし、ぎくしゃくしながら背中の龍剣を抜くと氷漬けになっているメガロドンに向かって構えた。
「出でよ、炎」
赤目ルオのセリフを再現してみる。
心を落ち着けて。火の本質に迫る。火は全てを焼き尽くし灰にするが、また、凍える心を温めてもくれる。揺れ動き舞い上がる炎は、心に温かさと安らぎをもたらす。
冷え切った身体の奥に温かな熱が灯る。身体の中を熱が巡り、左手にある龍の紋章が熱くうずく。火と一体化する。
ゴオオオオ、…――――
龍剣から噴き出した炎が、巨大な氷柱に向かい、大きな火柱が上がる。火となり、氷を溶かすルオは、身体中が熱くなり気持ちが高まっていくのを感じた。
「む、……むむ、……」
溶けた氷が水となり、盛大な水しぶきを上げて、メガロドンが氷上に躍り出た。
「【攻撃】の番人、メガロドンのメガ、ここに参上! …さっむ! ぶえっくしょん!」
まあそれなりに元気そうである。
「メガさん。大丈夫ですか」
「おう。おめえは龍神の双子、ルオ坊。こんなとこで会うたあ奇遇だな」
奇遇、…なのか?
若干の疑問を感じないでもないが、相変わらずのべらんめえ調にルオはどこか安心した。
「おめえはアクア王にとっ捕まったんじゃなかったのか」
「あ。それは赤目ルオです。オレの【複製】で、……」
赤目ルオのことを思うと胸が痛む。アクア化はされていなかったようだが今頃どうしているだろう。
「なるほど。おめえは【複製】が使えるんだな。今ここにいるのは本体ってわけだ」
「はい、そうです。ところでメガさんはどうして氷の中にいたんですか」
「そりゃあおめえ、アクア王が来たからな。奴の目をくらませるよう氷の中に隠れてたのさ。しかし、火の精霊ピッピと風の精霊ビュウも連れていかれちまった。おれの攻撃力も半減だ。水の精霊スィンは心を閉ざして氷の監獄を作っちまうし、土の精霊チイは地中深くに潜って出てこなくなっちまうしよー、……」
メガが深々とため息をつくと、息が白く見えた。続いて鼻水をすすると、その前にもう凍り付いていた。
極寒の地をなめてはいけない。
「メガさん。体温調節!」
ルオは火の能力を使い、身体を適温に保つことに成功していた。ルオにくっついているチューリッピにも体温が分け与えられているようで、もう震えていない。火の修業が烈火にも氷塊にも有効なんてすごい。
「おう、そうだったそうだった」
メガが大きな鼻息と共に口から炎を吐き出した。
「冷凍保存技術はすごいな。ルオ坊はコールドスリープについて聞いたことがあるか。氷漬けになって未来で蘇生させてもらう。そうやって時を超える技術だ。アクア王もおれが凍っていたから素通りさ。ま、氷漬けになったはいいが、自分で出られないのが難点なんだけどな。溶かしてくれて助かったよ、ルオ坊」
「はあ、……」
ルオ坊と呼ばれると、なんだか調子が狂う。
しかしなるほど。水の能力を手に入れると、冷凍保存なる技術を使えるわけか。もしかしたらその力は、アクア王の【停止】能力に対抗できるかもしれない。
いや、待てよ。
水の中で生活できる技術がアクアスーツだとしたら、その機能に冷凍保存が含まれている可能性もあるかも。
「おめえも火の試練を潜り抜けたようだな。次なる水の技術を習得するには、閉ざされた精霊スィンの心を溶かさなきゃならん。まずはこの氷の監獄から脱出するこったな」
メガに言われて改めてあたりを見回すが、分厚い氷に閉ざされ、吹雪が荒れ狂う中をどうやって脱出すればよいのだろう。
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