上 下
38 / 78
Ⅴ章.橙色のスキル【複製】

06.三人のドラン②泣き虫ドラン 後編

しおりを挟む
どうして。結界が効かない?
そういえば先ほど時代系ドランと垂直の壁で出会ったアクアたちにも結界が効いていないようだった。
どういうことだろう。このアクアたちは何なんだ?

考えても分からず、ルオに防御の術はない。

「ル、ルオ、……っ」
「チュチュ、……っ」

泣き虫ドランとチューリッピを片腕に抱え、片手には龍剣を構えるが、四方八方から浴びせられるアクア光線にもはや為す術はなく、……

「うわああああ―――――――んっ! 怖いよ、ルオおおおおオ――――――んっ!!」

もう駄目だとあきらめかけたルオの耳元で、泣き虫ドランの大声が炸裂した。

うるさ、……!?

思わず耳をふさごうとしたルオの目の前で、「あああ」「おおお」というドランの泣き声が実体となって飛んでいき、アクアたちに次々とぶつかっていった。

「すご、……」

予想外の反撃にアクアたちがひるむ。
ルオも泣き虫ドランの思いがけない攻撃力に度肝を抜かれた。

ただの甘ったれた泣き虫だと思っていたのに、こんな能力を持っているなんて。すごい。すごいよ、ドラン。

「うわああああ―――――――んっ! ぎゃおおおおオ――――――んっ!!」

ドランの泣き声攻撃に、アクアたちが散り散りになっている。

よし。今だ!

アクア光線を恐れてアクアから逃げることしか考えていなかったルオだが、ドランの反撃を見て立ち向かうことに決めた。

「やってみよう!」

ルオは龍剣を構え、見よう見まねでアクアの中に突っ込み、切り付け、刺し貫いた。

「えいっ」「チュチュ」
「やあっ」「チュチュ」
「とうっ」「チューっ」

恐らく一緒に戦っているつもりのチューリッピが、ルオの胸元で両手の拳を振り回す。地味に当たって痛いような気もするが、気にしている余裕はない。

ルオは懸命にアクアたちに向かっていったが、どれだけ剣を振り回してもまるで手ごたえがなく、アクアはふわふわと漂うばかりだった。

どういうこと? まだオレの能力が低いから、アクアを倒せないの?

焦るルオに、体勢を立て直し、幾重にも連なってルオたちを取り囲んだアクアが、一斉に光線を発射した。

「うわあ――――、……っ」
「ルオぉぉぉ――――、……」

目がくらむようなアクア光線を諸に受けたルオは、衝撃に弾き飛ばされ、暗い坂道を頭からゴロゴロ転がり落ちるようにして、どこまでもどこまでも落ちていった。

「ヨー、おかえりヨー」

ようやく転がり終わった。未だぐるぐる回っている感がぬぐえない頭を振り、重い瞼を開けてみると、相変わらず陽気なテンションのパリピドランがルオを見ていた。

再び大広間に戻ってきたらしい。

「うわぁーん、怖かったね、ルオ―――っ」

ルオたちはアクア光線を受けたがアクアに変えられていない。元の人間、ハツカネズミ、泣き虫トカゲの姿のまま。アクアたちには結界も攻撃も利かないが、逆にアクア光線の効力もない。

もしかしたら、……

「あれは本物のアクアじゃなくて【複製コピー】なんじゃ、……」
「ご名答~。じゃ、行きますか、ルオ。パーティの始まりだゼ、イエー」

踊るようにルオの腕によじ登ってきたパリピドランが、歌いながらステップを踏む。
そういうことか。この雲の居城に現れるアクアたちは全て【複製コピー】なのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だから開けるなと言ったでしょう

平井敦史
児童書・童話
浦島太郎に玉手箱を持たせて地上に送り返した乙姫の胸の内は。 ※「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

ぼくの家族は…内緒だよ!!

まりぃべる
児童書・童話
うちの家族は、ふつうとちょっと違うんだって。ぼくには良く分からないけど、友だちや知らない人がいるところでは力を隠さなきゃならないんだ。本気で走ってはダメとか、ジャンプも手を抜け、とかいろいろ守らないといけない約束がある。面倒だけど、約束破ったら引っ越さないといけないって言われてるから面倒だけど仕方なく守ってる。 それでね、十二月なんて一年で一番忙しくなるからぼく、いやなんだけど。 そんなぼくの話、聞いてくれる? ☆まりぃべるの世界観です。楽しんでもらえたら嬉しいです。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

だるまさんがころんだ(SS・現代ファンタジー)

源公子
児童書・童話
一色彼方は子供の頃、絵の中の動くウサギと「ダルマさをがころんだ」をして遊んだ。 その絵を描いた作者「村上兎角」との出会いと死別。 彼方は「村上兎角」のような画家を目指し、美大に入る。 学園祭で発表した彼方の「兎角の模写」の絵を見て、兎角の遠縁の資産家が、「絵の修復」のアルバイトをしないかと、声をかけてきた。あの絵と再開し、喜ぶ彼方。しかし火事が起きて、ウサギ達の住む壁は焼け落ちてしまう。彼方はウサギ達を守れるのか?

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

処理中です...