22 / 78
Ⅲ章.黄色のスキル【結界】
02.【結界】修行①全然うまくいかない
しおりを挟む
「それでは、行ってらっしゃいませ。お気を付けて」
学校に行く朝、家を出る時のおじいのように柔らかな微笑みを浮かべたアンモに廃墟の結界から送り出された。
結界から出るって無防備で敵の中に飛び込むようなものなんだけど…、アンモさん余裕過ぎない?
アンモの元で結界の修業を始めてから数日が経っている。
本日の使命は、この荒廃した都市の中から水を探し出してくることである。
「がんばれ、ルオ。応援してる」
能天気なドランは廃墟にあったひとつだけの毛布にくるまってまだ寝ている。
どういうこっちゃ。お前が龍剣取られたからこんなことになってるんじゃないんかい。
と、胸の片隅で不満がくすぶるのは、ここ数日の結界修行が散々な結果に終わっているからだ。
ルオは自分で結界を作り出してアクアから身を隠しながら、荒廃した都市の中から水や食料を探し出さなければならないわけだが、まるで全く結界を作り出すことが出来ないのである。
アンモの結界から出た途端アクアに見つかって急いで引き返したり、よく分からない路地裏の隅っこでごみ箱の中に隠れてアクアをやり過ごしたり、よじ登った屋根の煙突から転がり落ちて煤まみれ泥まみれになったり。
無駄に恐怖と苦労を重ねる割には一向に結界を作り出すことが出来ず、未だ自力で食料も探し出せずにいる。
オレって才能ないのかも。
背負った龍剣がやたらと重い。
同じクラスのハヤトくんは五十メートルを七秒で走れるし、ミサキさんは英検三級に合格している。
ルオは長時間水に潜っていられるという特技はあるものの、勉強も運動も人並以下。
いつになったら【結界】を作れるようになるんだろうと思うと、気持ちも足取りも重くなる。
「結界とは、邪念を捨てること。自分の中の真理を見つめること」
アンモはそう教えてくれたが、具体的にどうすればいいのか分からない。
ルオは龍剣を引き抜いて両手に構えてみた。
刀身の紋章と左手の龍のあざに意識を集中させる。あの熱い衝動が沸き起こるのを待つ。
結界、けっかい、ケッカイ、……
呼吸を整え、頭の中で透明な壁をイメージする。何物をも寄せ付けない鉄のバリア。大切なものを守るための砦。
スィースィー、…――――――
結界を作り出そうと苦心するルオの耳に、嫌な音が聞こえてきた。来た。遠く彼方にアクアの姿が見える。
まだルオに気づいてはいないようだが、襲撃されるのは時間の問題だろう。またしても結界を張ることが出来ないまま、アクアと恐怖の鬼ごっこをする羽目になる。
くそーっ、大体、この乾いた都市のどこに水があるんだしっ
ルオはアクアから身を隠しながらやけくそに街中を走り回った。
住人の姿などどこにも見えない廃墟だらけの街に、水はどこにも見当たらない。蛇口をひねれば水が出てくるのが普通の暮らし慣れたルオには、どこに水源があるのか分からない。当てもなく街を彷徨い歩くしかない。
「疲れた、……」
アクアに捕まらないよう警戒しながら闇雲に歩きまわると、猛烈に喉が渇いてきた。空しい徒労感にも襲われる。
オレ、本当に出来るようになるのかな。
とぼとぼ歩くルオの目に見たことのある物体が目に入った。
学校に行く朝、家を出る時のおじいのように柔らかな微笑みを浮かべたアンモに廃墟の結界から送り出された。
結界から出るって無防備で敵の中に飛び込むようなものなんだけど…、アンモさん余裕過ぎない?
アンモの元で結界の修業を始めてから数日が経っている。
本日の使命は、この荒廃した都市の中から水を探し出してくることである。
「がんばれ、ルオ。応援してる」
能天気なドランは廃墟にあったひとつだけの毛布にくるまってまだ寝ている。
どういうこっちゃ。お前が龍剣取られたからこんなことになってるんじゃないんかい。
と、胸の片隅で不満がくすぶるのは、ここ数日の結界修行が散々な結果に終わっているからだ。
ルオは自分で結界を作り出してアクアから身を隠しながら、荒廃した都市の中から水や食料を探し出さなければならないわけだが、まるで全く結界を作り出すことが出来ないのである。
アンモの結界から出た途端アクアに見つかって急いで引き返したり、よく分からない路地裏の隅っこでごみ箱の中に隠れてアクアをやり過ごしたり、よじ登った屋根の煙突から転がり落ちて煤まみれ泥まみれになったり。
無駄に恐怖と苦労を重ねる割には一向に結界を作り出すことが出来ず、未だ自力で食料も探し出せずにいる。
オレって才能ないのかも。
背負った龍剣がやたらと重い。
同じクラスのハヤトくんは五十メートルを七秒で走れるし、ミサキさんは英検三級に合格している。
ルオは長時間水に潜っていられるという特技はあるものの、勉強も運動も人並以下。
いつになったら【結界】を作れるようになるんだろうと思うと、気持ちも足取りも重くなる。
「結界とは、邪念を捨てること。自分の中の真理を見つめること」
アンモはそう教えてくれたが、具体的にどうすればいいのか分からない。
ルオは龍剣を引き抜いて両手に構えてみた。
刀身の紋章と左手の龍のあざに意識を集中させる。あの熱い衝動が沸き起こるのを待つ。
結界、けっかい、ケッカイ、……
呼吸を整え、頭の中で透明な壁をイメージする。何物をも寄せ付けない鉄のバリア。大切なものを守るための砦。
スィースィー、…――――――
結界を作り出そうと苦心するルオの耳に、嫌な音が聞こえてきた。来た。遠く彼方にアクアの姿が見える。
まだルオに気づいてはいないようだが、襲撃されるのは時間の問題だろう。またしても結界を張ることが出来ないまま、アクアと恐怖の鬼ごっこをする羽目になる。
くそーっ、大体、この乾いた都市のどこに水があるんだしっ
ルオはアクアから身を隠しながらやけくそに街中を走り回った。
住人の姿などどこにも見えない廃墟だらけの街に、水はどこにも見当たらない。蛇口をひねれば水が出てくるのが普通の暮らし慣れたルオには、どこに水源があるのか分からない。当てもなく街を彷徨い歩くしかない。
「疲れた、……」
アクアに捕まらないよう警戒しながら闇雲に歩きまわると、猛烈に喉が渇いてきた。空しい徒労感にも襲われる。
オレ、本当に出来るようになるのかな。
とぼとぼ歩くルオの目に見たことのある物体が目に入った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

空の話をしよう
源燕め
児童書・童話
「空の話をしよう」
そう言って、美しい白い羽を持つ羽人(はねひと)は、自分を助けた男の子に、空の話をした。
人は、空を飛ぶために、飛空艇を作り上げた。
生まれながらに羽を持つ羽人と人間の物語がはじまる。
鎌倉西小学校ミステリー倶楽部
澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】
https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230
【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】
市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。
学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)
異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!
克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】
「……襲われてる! 助けなきゃ!」
錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。
人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。
「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」
少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。
「……この手紙、私宛てなの?」
少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。
――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。
新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。
「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。
《この小説の見どころ》
①可愛いらしい登場人物
見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎
②ほのぼのほんわか世界観
可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。
③時々スパイスきいてます!
ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。
④魅力ある錬成アイテム
錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。
◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。
◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。
◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる