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Ⅲ章.黄色のスキル【結界】
02.【結界】修行①全然うまくいかない
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「それでは、行ってらっしゃいませ。お気を付けて」
学校に行く朝、家を出る時のおじいのように柔らかな微笑みを浮かべたアンモに廃墟の結界から送り出された。
結界から出るって無防備で敵の中に飛び込むようなものなんだけど…、アンモさん余裕過ぎない?
アンモの元で結界の修業を始めてから数日が経っている。
本日の使命は、この荒廃した都市の中から水を探し出してくることである。
「がんばれ、ルオ。応援してる」
能天気なドランは廃墟にあったひとつだけの毛布にくるまってまだ寝ている。
どういうこっちゃ。お前が龍剣取られたからこんなことになってるんじゃないんかい。
と、胸の片隅で不満がくすぶるのは、ここ数日の結界修行が散々な結果に終わっているからだ。
ルオは自分で結界を作り出してアクアから身を隠しながら、荒廃した都市の中から水や食料を探し出さなければならないわけだが、まるで全く結界を作り出すことが出来ないのである。
アンモの結界から出た途端アクアに見つかって急いで引き返したり、よく分からない路地裏の隅っこでごみ箱の中に隠れてアクアをやり過ごしたり、よじ登った屋根の煙突から転がり落ちて煤まみれ泥まみれになったり。
無駄に恐怖と苦労を重ねる割には一向に結界を作り出すことが出来ず、未だ自力で食料も探し出せずにいる。
オレって才能ないのかも。
背負った龍剣がやたらと重い。
同じクラスのハヤトくんは五十メートルを七秒で走れるし、ミサキさんは英検三級に合格している。
ルオは長時間水に潜っていられるという特技はあるものの、勉強も運動も人並以下。
いつになったら【結界】を作れるようになるんだろうと思うと、気持ちも足取りも重くなる。
「結界とは、邪念を捨てること。自分の中の真理を見つめること」
アンモはそう教えてくれたが、具体的にどうすればいいのか分からない。
ルオは龍剣を引き抜いて両手に構えてみた。
刀身の紋章と左手の龍のあざに意識を集中させる。あの熱い衝動が沸き起こるのを待つ。
結界、けっかい、ケッカイ、……
呼吸を整え、頭の中で透明な壁をイメージする。何物をも寄せ付けない鉄のバリア。大切なものを守るための砦。
スィースィー、…――――――
結界を作り出そうと苦心するルオの耳に、嫌な音が聞こえてきた。来た。遠く彼方にアクアの姿が見える。
まだルオに気づいてはいないようだが、襲撃されるのは時間の問題だろう。またしても結界を張ることが出来ないまま、アクアと恐怖の鬼ごっこをする羽目になる。
くそーっ、大体、この乾いた都市のどこに水があるんだしっ
ルオはアクアから身を隠しながらやけくそに街中を走り回った。
住人の姿などどこにも見えない廃墟だらけの街に、水はどこにも見当たらない。蛇口をひねれば水が出てくるのが普通の暮らし慣れたルオには、どこに水源があるのか分からない。当てもなく街を彷徨い歩くしかない。
「疲れた、……」
アクアに捕まらないよう警戒しながら闇雲に歩きまわると、猛烈に喉が渇いてきた。空しい徒労感にも襲われる。
オレ、本当に出来るようになるのかな。
とぼとぼ歩くルオの目に見たことのある物体が目に入った。
学校に行く朝、家を出る時のおじいのように柔らかな微笑みを浮かべたアンモに廃墟の結界から送り出された。
結界から出るって無防備で敵の中に飛び込むようなものなんだけど…、アンモさん余裕過ぎない?
アンモの元で結界の修業を始めてから数日が経っている。
本日の使命は、この荒廃した都市の中から水を探し出してくることである。
「がんばれ、ルオ。応援してる」
能天気なドランは廃墟にあったひとつだけの毛布にくるまってまだ寝ている。
どういうこっちゃ。お前が龍剣取られたからこんなことになってるんじゃないんかい。
と、胸の片隅で不満がくすぶるのは、ここ数日の結界修行が散々な結果に終わっているからだ。
ルオは自分で結界を作り出してアクアから身を隠しながら、荒廃した都市の中から水や食料を探し出さなければならないわけだが、まるで全く結界を作り出すことが出来ないのである。
アンモの結界から出た途端アクアに見つかって急いで引き返したり、よく分からない路地裏の隅っこでごみ箱の中に隠れてアクアをやり過ごしたり、よじ登った屋根の煙突から転がり落ちて煤まみれ泥まみれになったり。
無駄に恐怖と苦労を重ねる割には一向に結界を作り出すことが出来ず、未だ自力で食料も探し出せずにいる。
オレって才能ないのかも。
背負った龍剣がやたらと重い。
同じクラスのハヤトくんは五十メートルを七秒で走れるし、ミサキさんは英検三級に合格している。
ルオは長時間水に潜っていられるという特技はあるものの、勉強も運動も人並以下。
いつになったら【結界】を作れるようになるんだろうと思うと、気持ちも足取りも重くなる。
「結界とは、邪念を捨てること。自分の中の真理を見つめること」
アンモはそう教えてくれたが、具体的にどうすればいいのか分からない。
ルオは龍剣を引き抜いて両手に構えてみた。
刀身の紋章と左手の龍のあざに意識を集中させる。あの熱い衝動が沸き起こるのを待つ。
結界、けっかい、ケッカイ、……
呼吸を整え、頭の中で透明な壁をイメージする。何物をも寄せ付けない鉄のバリア。大切なものを守るための砦。
スィースィー、…――――――
結界を作り出そうと苦心するルオの耳に、嫌な音が聞こえてきた。来た。遠く彼方にアクアの姿が見える。
まだルオに気づいてはいないようだが、襲撃されるのは時間の問題だろう。またしても結界を張ることが出来ないまま、アクアと恐怖の鬼ごっこをする羽目になる。
くそーっ、大体、この乾いた都市のどこに水があるんだしっ
ルオはアクアから身を隠しながらやけくそに街中を走り回った。
住人の姿などどこにも見えない廃墟だらけの街に、水はどこにも見当たらない。蛇口をひねれば水が出てくるのが普通の暮らし慣れたルオには、どこに水源があるのか分からない。当てもなく街を彷徨い歩くしかない。
「疲れた、……」
アクアに捕まらないよう警戒しながら闇雲に歩きまわると、猛烈に喉が渇いてきた。空しい徒労感にも襲われる。
オレ、本当に出来るようになるのかな。
とぼとぼ歩くルオの目に見たことのある物体が目に入った。
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