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Ⅱ章.龍宮

09.アクア化された人間たち

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「わりーわりー。ちょっと魔女と遊んだりして遅くなっちった」

てへ、とドランが軽く謝るが、巨大な巻貝の顔つきは厳ついままである。

「そうやって! ドラン様は誘惑に弱いんですからっ」

口うるさい爺やとお坊ちゃまみたいな図でもある。

「まあまあアンモ。そんなことより水くれない? 俺もルオも喉カラカラ」

龍の都は深海から繋がっているはずなのだが、地上にいた時と同じように呼吸もできれば喉も乾く。水の中というより、時空の歪みの先に存在する世界だからなのかもしれない。

「まったく、ドラン様ってば能天気なんですから。さっ、こちらにいらしてください。今この建物に赤の結界を張っていますから」

元は誰かの住宅だったのだろうか。荒廃した建物の中にぷりぷりしながら巻貝が入っていくのに、ルオとドランも続いた。

「あ、…っ」

建物に入る前に、辺りを伺うと、見えない壁に阻まれたアクアたちはその辺をうろうろ彷徨っていたが、やがてあきらめたように方向を変えて戻り始めた。その向こうに見たことのある潜水艇が不時着している。

「あれ、エビヌマさんの、……」

ネットランチャーでルオとドランを捕らえた海洋研究所の潜水艇が、荒廃した街に船首部分をめり込ませて停まっていた。

「あちゃー、やっぱりついてきちゃったか」

不時着した潜水艇の周りを沢山のアクアたちが取り囲んでいた。
見ていると、潜水艇のハッチが開いて、中からアクアに囲まれた数名のアクアが出てきた。そのアクアたちは、ぎこちない動きのアクアは、透けた身体の中、顔があるらしい部分に写真に撮ったかのような固まった表情が映し出されていた。恐怖に凍り付いたようなエビヌマさんの顔、……

「アクア化されちゃったんだな。まあ、魔女とはいえ、外界の生物がここで生きていくのは難しい。アクア化されたら呼吸も水圧にも耐えられるから生き延びられる可能性は広がるけど、……」

ドランがぶつぶつ呟く。
エビヌマさん、サトウさん、シオタさん、他二名の海洋研究所職員と思われる人たちが、アクアになってアクアの群れの中に埋もれ、連れられていく。

「…アクア化されたらどうなるの」
「ここの住人たちと同じだよ。意思をはく奪されてアクア王の奴隷になる」

「助けてあげなきゃ。それで地上に帰してあげなくちゃ」
「まあ、…でも、魔力で何とかするかもよ?」

違うんだよ、ドラン。人間は魔女じゃない。
高度な知能で優れた技術や文明を築き上げてきたけれど、自然の力の前には無力なんだ。

ルオはアクアの群れの中に紛れて遠ざかっていく研究所職員の後姿に向かって心の中で呼びかけた。

待ってて。きっと。一緒に地上に帰ろう。
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