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Ⅸ章.龍宮再建
02.虹を撒く
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「あの、ケロンさんとダイさんは虚無化されたって聞いたんですけど、もう大丈夫なんですか」
【叡智】の番人に会いに行った青目ルオが言っていた。
アーケロンもダイオウイカもアクア王に力を奪われ、虚無化された、と。虚無化とは、空洞になり、意思も感情もなくなることだ。生物たちが意思をなくして奴隷になっているというアクア化も、虚無化と同じ状態だと思われた。
「もちろん。ルオ様がアクアの闇を晴らして、ドラン様の龍剣を取り戻してくれましたから」
「お二人の龍剣を合わせれば二度とアクア王のような悲しい存在を生まない強靭な都になりましょう」
叡智の番人と停止の番人は朗らかに笑う。
その優しい目は、ルオの胸元でチューリッピと張り付いている小さなクラゲに向けられていた。
「私たちは、虚無化されている間、魂がアクア王と共に在ったのです。その絶望を肌で感じました」
「この経験を、そしてこれからお二人が再建される龍の都の軌跡を、決して風化させず後世に伝えていこうと決めています」
そうか。
アクアの身に起こったことはとても悲しいことだった。龍の都も荒廃してみんな虚無化されたりして大変だった。だけど、そこから学んでやり直すことが出来るんだ。【叡智】と【停止】の力を復興に使うことが出来るんだ。
ルオは暗闇で見つけた小さな明かりが他人の手に渡って広がっていくような、じんとした温かさを感じた。
「ルオ、龍剣を抜いて。俺の龍剣と合わせて。虹を撒くよ」
ドランから声をかけられた。
にじをまく?
それってどういうことだろう?
ルオはよく分からないながらも背中に持っている龍剣を抜いた。これまでに集めた黄色、緑、橙、青の宝玉が誇らし気に収まっている。しかし、全ての宝玉を集めることは出来なかった。
「切っ先を俺の龍剣と合わせるんだ」
ドランが手にした龍剣を肩越しにルオの方に向けた。ルオは訳も分からないままドランの肩までよじ登り、高く掲げられた切っ先を合わせた。
「チューリッピ!」「クー」
両手で剣を持つルオの腕を伝って、ハツカネズミのチューリッピとクラゲのアクアも参戦する。対となるドランの龍剣とルオの龍剣が尖った先の一点でぴたりと交差した。
瞬間、虹が生まれた。
ルオの龍剣から放たれた黄色、緑、橙、青の四色、ドランの龍剣から放たれた桃、紫の二色。そしてそれぞれ半分ずつしか手に入れられなかった攻撃の赤い光が、交差した龍剣の切っ先から湧き出して七色の虹を作った。
虹はアクア王の心臓が覆いつくした黒く暗い闇を晴らしていく。闇に覆われた龍の都が晴れ渡っていく。
七色の光が広がって美しいシンフォニーを描き出す。虹色の光が雨のように降り注ぎ、黒く荒廃した龍の都を温かく照らした。アクア化されていた生物たちがそれぞれの姿に戻り、悪い夢から覚めたかのようにゆっくりと起き上がる。
「虹だ」「虹が出てる」
崩れ落ちた建物の陰で、ひび割れた大地の上で、冷たくなった海の中で、目覚めた生物たちは空に虹を認めて笑顔を見せた。
「すごい。本当に虹を撒いてる、……」
晴れた空の上で、ルオが目の前の光景に感動していると、空に厳かに浮かぶ青き龍神ドランが、ルオを振り仰いだ。
「ルオが来てくれたからだよ。俺の力だけじゃ虹は作れなかった。ルオが一緒に来てくれたから、七色の虹が出来たんだ」
ルオは七つの宝玉をすべて集めることが出来なかった。でもドランの剣と合わせたら七色になる。
「ルオがいてくれて本当に良かった」
ルオとドランは双子の龍神だが、双子は争いの元になるからと後に生まれたほうを消す決まりになっていた。それでルオは人間界に捨てられた。統治者は二人もいらないからだ。でも、……
「うん。オレも、ドランが呼びに来てくれて良かった」
一人ではできないことも二人ならできる。争うだけでなく、力を合わせることもできる。
荒廃した大地に降り注いだ虹色の光は、地中深くまでゆっくりゆっくり染み込んで、再び芽を出す時を待っているようだった。
【叡智】の番人に会いに行った青目ルオが言っていた。
アーケロンもダイオウイカもアクア王に力を奪われ、虚無化された、と。虚無化とは、空洞になり、意思も感情もなくなることだ。生物たちが意思をなくして奴隷になっているというアクア化も、虚無化と同じ状態だと思われた。
「もちろん。ルオ様がアクアの闇を晴らして、ドラン様の龍剣を取り戻してくれましたから」
「お二人の龍剣を合わせれば二度とアクア王のような悲しい存在を生まない強靭な都になりましょう」
叡智の番人と停止の番人は朗らかに笑う。
その優しい目は、ルオの胸元でチューリッピと張り付いている小さなクラゲに向けられていた。
「私たちは、虚無化されている間、魂がアクア王と共に在ったのです。その絶望を肌で感じました」
「この経験を、そしてこれからお二人が再建される龍の都の軌跡を、決して風化させず後世に伝えていこうと決めています」
そうか。
アクアの身に起こったことはとても悲しいことだった。龍の都も荒廃してみんな虚無化されたりして大変だった。だけど、そこから学んでやり直すことが出来るんだ。【叡智】と【停止】の力を復興に使うことが出来るんだ。
ルオは暗闇で見つけた小さな明かりが他人の手に渡って広がっていくような、じんとした温かさを感じた。
「ルオ、龍剣を抜いて。俺の龍剣と合わせて。虹を撒くよ」
ドランから声をかけられた。
にじをまく?
それってどういうことだろう?
ルオはよく分からないながらも背中に持っている龍剣を抜いた。これまでに集めた黄色、緑、橙、青の宝玉が誇らし気に収まっている。しかし、全ての宝玉を集めることは出来なかった。
「切っ先を俺の龍剣と合わせるんだ」
ドランが手にした龍剣を肩越しにルオの方に向けた。ルオは訳も分からないままドランの肩までよじ登り、高く掲げられた切っ先を合わせた。
「チューリッピ!」「クー」
両手で剣を持つルオの腕を伝って、ハツカネズミのチューリッピとクラゲのアクアも参戦する。対となるドランの龍剣とルオの龍剣が尖った先の一点でぴたりと交差した。
瞬間、虹が生まれた。
ルオの龍剣から放たれた黄色、緑、橙、青の四色、ドランの龍剣から放たれた桃、紫の二色。そしてそれぞれ半分ずつしか手に入れられなかった攻撃の赤い光が、交差した龍剣の切っ先から湧き出して七色の虹を作った。
虹はアクア王の心臓が覆いつくした黒く暗い闇を晴らしていく。闇に覆われた龍の都が晴れ渡っていく。
七色の光が広がって美しいシンフォニーを描き出す。虹色の光が雨のように降り注ぎ、黒く荒廃した龍の都を温かく照らした。アクア化されていた生物たちがそれぞれの姿に戻り、悪い夢から覚めたかのようにゆっくりと起き上がる。
「虹だ」「虹が出てる」
崩れ落ちた建物の陰で、ひび割れた大地の上で、冷たくなった海の中で、目覚めた生物たちは空に虹を認めて笑顔を見せた。
「すごい。本当に虹を撒いてる、……」
晴れた空の上で、ルオが目の前の光景に感動していると、空に厳かに浮かぶ青き龍神ドランが、ルオを振り仰いだ。
「ルオが来てくれたからだよ。俺の力だけじゃ虹は作れなかった。ルオが一緒に来てくれたから、七色の虹が出来たんだ」
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「うん。オレも、ドランが呼びに来てくれて良かった」
一人ではできないことも二人ならできる。争うだけでなく、力を合わせることもできる。
荒廃した大地に降り注いだ虹色の光は、地中深くまでゆっくりゆっくり染み込んで、再び芽を出す時を待っているようだった。
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