上 下
74 / 78
Ⅸ章.龍宮再建

02.虹を撒く

しおりを挟む
「あの、ケロンさんとダイさんは虚無化されたって聞いたんですけど、もう大丈夫なんですか」

【叡智】の番人に会いに行った青目ルオが言っていた。
アーケロンもダイオウイカもアクア王に力を奪われ、虚無化された、と。虚無化とは、空洞になり、意思も感情もなくなることだ。生物たちが意思をなくして奴隷になっているというアクア化も、虚無化と同じ状態だと思われた。

「もちろん。ルオ様がアクアの闇を晴らして、ドラン様の龍剣を取り戻してくれましたから」
「お二人の龍剣を合わせれば二度とアクア王のような悲しい存在を生まない強靭な都になりましょう」

叡智の番人と停止の番人は朗らかに笑う。
その優しい目は、ルオの胸元でチューリッピと張り付いている小さなクラゲに向けられていた。

「私たちは、虚無化されている間、魂がアクア王と共に在ったのです。その絶望を肌で感じました」
「この経験を、そしてこれからお二人が再建される龍の都の軌跡を、決して風化させず後世に伝えていこうと決めています」

そうか。
アクアの身に起こったことはとても悲しいことだった。龍の都も荒廃してみんな虚無化されたりして大変だった。だけど、そこから学んでやり直すことが出来るんだ。【叡智】と【停止】の力を復興に使うことが出来るんだ。

ルオは暗闇で見つけた小さな明かりが他人の手に渡って広がっていくような、じんとした温かさを感じた。

「ルオ、龍剣を抜いて。俺の龍剣と合わせて。虹を撒くよ」

ドランから声をかけられた。

にじをまく?
それってどういうことだろう?

ルオはよく分からないながらも背中に持っている龍剣を抜いた。これまでに集めた黄色、緑、橙、青の宝玉が誇らし気に収まっている。しかし、全ての宝玉を集めることは出来なかった。

「切っ先を俺の龍剣と合わせるんだ」

ドランが手にした龍剣を肩越しにルオの方に向けた。ルオは訳も分からないままドランの肩までよじ登り、高く掲げられた切っ先を合わせた。

「チューリッピ!」「クー」

両手で剣を持つルオの腕を伝って、ハツカネズミのチューリッピとクラゲのアクアも参戦する。対となるドランの龍剣とルオの龍剣が尖った先の一点でぴたりと交差した。

瞬間、虹が生まれた。

ルオの龍剣から放たれた黄色、緑、橙、青の四色、ドランの龍剣から放たれた桃、紫の二色。そしてそれぞれ半分ずつしか手に入れられなかった攻撃の赤い光が、交差した龍剣の切っ先から湧き出して七色の虹を作った。

虹はアクア王の心臓が覆いつくした黒く暗い闇を晴らしていく。闇に覆われた龍の都が晴れ渡っていく。
七色の光が広がって美しいシンフォニーを描き出す。虹色の光が雨のように降り注ぎ、黒く荒廃した龍の都を温かく照らした。アクア化されていた生物たちがそれぞれの姿に戻り、悪い夢から覚めたかのようにゆっくりと起き上がる。

「虹だ」「虹が出てる」

崩れ落ちた建物の陰で、ひび割れた大地の上で、冷たくなった海の中で、目覚めた生物たちは空に虹を認めて笑顔を見せた。

「すごい。本当に虹を撒いてる、……」

晴れた空の上で、ルオが目の前の光景に感動していると、空に厳かに浮かぶ青き龍神ドランが、ルオを振り仰いだ。

「ルオが来てくれたからだよ。俺の力だけじゃ虹は作れなかった。ルオが一緒に来てくれたから、七色の虹が出来たんだ」

ルオは七つの宝玉をすべて集めることが出来なかった。でもドランの剣と合わせたら七色になる。

「ルオがいてくれて本当に良かった」

ルオとドランは双子の龍神だが、双子は争いの元になるからと後に生まれたほうを消す決まりになっていた。それでルオは人間界に捨てられた。統治者は二人もいらないからだ。でも、……

「うん。オレも、ドランが呼びに来てくれて良かった」

一人ではできないことも二人ならできる。争うだけでなく、力を合わせることもできる。
荒廃した大地に降り注いだ虹色の光は、地中深くまでゆっくりゆっくり染み込んで、再び芽を出す時を待っているようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

処理中です...