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Ⅱ章.龍宮
07.時空の歪み ブラックトンネル
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「うわああ~~~~~、ドラン、ドラン、…――――――っ」
かろうじて剣は抜いたが、お腹に力を入れることも龍の都を思い浮かべることもできない。半泣きでドランを呼んでも、自分の声さえ得体のしれないどこかに吸い込まれて聞こえない。やがてルオはあきらめて口をつぐんだ。
ルオはおじいと一緒に行った遊園地で、フリーフォールと呼ばれるアトラクションに乗った時のことを思い出した。高速で垂直に落下する乗り物なのだが、自分が浮かんでいるのか落ちているのか、頭と身体がばらばらになりそうな衝撃で、何がどうなっているのかさっぱり分からなかった。あの時の感覚に似ている。
真っ暗なブラックホールの中でそんな考えが浮かんだ。
ただし、あの感覚の百倍は身体がびりびりするし、何も見えない何も聞こえないという状況の恐怖はすさまじい。
左手の甲にある龍の紋章が、わずかに熱を持っているような気がする。
水中変化の術を成功させた時と同じような感覚が訪れた。手のあざと龍剣の紋章が呼応している。恐怖と混乱に飲み込まれたルオに一筋の静寂が訪れた。ルオを導く光のような。
大丈夫。たどり着ける。
ルオは呼吸を整え、静かに目を閉じ、龍剣を握る手に力を込めた。
頭の中に龍の都のイメージが広がる。
浦島太郎が見たと言う竜宮城は、絵にも描けない美しさだと言う。乙姫様がいて、素晴らしいごちそうが出て、タイやヒラメが舞い踊るらしい。それはルオには海老沼の豪華客船でのひと時を連想させた。確かに魅力的だった。でも、…
ルオが思う龍の都は、水が澄んでいて、自然の色がきれいで、海の動物たちが自由に暮らしている。太陽と大地の恵みを受けて育ったおじいの畑のような作物が豊かに実り、争いや意地悪のない世界。そんな世界はこの世の中のどこにも存在しないかもしれない。それでもどこかに。時空を超えたその先に。夢のような理想郷が存在していると信じたっていいじゃないか。
混乱が鎮まる。何もない暗闇に温かな光が満ち始めた。
気が付けば、バラバラになりそうだった身体は一つに繋がっている。ルオは自分の頭と手足が確かにそこにあるのを感じた。
「ん、……」
風の匂いがする。水の音がする。寄せては返す潮騒。湖面を照らす明るい光。
懐かしい匂い。おじいの畑の野菜の匂い。良く冷えて身体に元気を与える命の水。
ルオがゆっくり目を開けると、心配そうに見つめるドランの青い瞳が間近にあった。
「ドラン、……」
「大丈夫か、ルオ。都についたぞ。だが、のんびりしている暇はない。アクアに気づかれた」
「えっ、……!?」
ドランに言われて慌てて身体を起こす。
気づけば、懐かしい匂いも明るい光も消えていた。
代わりに目の前に広がっているのは荒廃した灰色の工業都市だった。
かろうじて剣は抜いたが、お腹に力を入れることも龍の都を思い浮かべることもできない。半泣きでドランを呼んでも、自分の声さえ得体のしれないどこかに吸い込まれて聞こえない。やがてルオはあきらめて口をつぐんだ。
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ただし、あの感覚の百倍は身体がびりびりするし、何も見えない何も聞こえないという状況の恐怖はすさまじい。
左手の甲にある龍の紋章が、わずかに熱を持っているような気がする。
水中変化の術を成功させた時と同じような感覚が訪れた。手のあざと龍剣の紋章が呼応している。恐怖と混乱に飲み込まれたルオに一筋の静寂が訪れた。ルオを導く光のような。
大丈夫。たどり着ける。
ルオは呼吸を整え、静かに目を閉じ、龍剣を握る手に力を込めた。
頭の中に龍の都のイメージが広がる。
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混乱が鎮まる。何もない暗闇に温かな光が満ち始めた。
気が付けば、バラバラになりそうだった身体は一つに繋がっている。ルオは自分の頭と手足が確かにそこにあるのを感じた。
「ん、……」
風の匂いがする。水の音がする。寄せては返す潮騒。湖面を照らす明るい光。
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「ドラン、……」
「大丈夫か、ルオ。都についたぞ。だが、のんびりしている暇はない。アクアに気づかれた」
「えっ、……!?」
ドランに言われて慌てて身体を起こす。
気づけば、懐かしい匂いも明るい光も消えていた。
代わりに目の前に広がっているのは荒廃した灰色の工業都市だった。
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