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Ⅱ章.龍宮
05.脱出
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「お、やったじゃん」
ドランの声が聞こえて、ルオは自分が硬く目を閉じていたことに気づく。恐る恐る目を開けてみると、龍剣を握りしめたまま大海原に浮かんでいた。
いつの間に海、…っ!?
見渡す限りの大海原を眺めながら、いや、違う。これは湯船だ。ということを徐々に理解した。湯船が果てしなく大きく感じるのは、ルオが小さくなったからだ。
「いいぞ、ルオ。変化術に成功して、剣に器が出来た。この七つの器に宝玉を入れれば、お前も龍神の力を手に入れることが出来る」
もはや巨大にも見える青いオタマジャクシ姿のドランがスイ~っと滑らかな泳ぎで近づいてきた。
「器?」
言われて、ルオは龍剣を眺める。龍剣はルオと一緒に小さくなり、静かに手の中に納まっている。よく見ると、龍の紋章が刻まれた部分に七つの穴があいていることに気づいた。どうやらこの穴が器らしい。ここに然るべき宝玉が収まるということか。
「でもさ、宝玉なんてどこに、……」
言いかけたルオの言葉は慌ただしく部屋に押し入ってきた人たちの声にさえぎられた。
「いないぞ!?」
「まさか、……っ」
「逃げたのか? 探せっ、隅々まで! あいつらは普通の人間じゃない。取り逃がしたら我々最大の汚点だぞ」
「承知いたしました」
バタバタと室内を捜索する音が聞こえる。
「ルオ、急ごう。見つかる前に水道管に逃げ込もうぜ」
いつの間にかドランが湯船の脇にある蛇口に張り付いていた。
「もうちょっと小さくならないと入れないかな。うん、よし、こんなもんか」
ぶつぶつ言いながらドランがゴマ粒ほどの大きさになり、蛇口の中に吸い込まれていった。
え――、次々と、そんな無茶な。
と思うが、やるしかない。
水は力の源だとドランが言っていたが、確かに水の中では驚くほど速いスピードで動ける。湯船の淵まで行くのは簡単だった。しかし湯船の淵から蛇口まで行くのが大変だ。えらく巨大な岸壁に登り、丸くつるつるした管の上を水平に歩かなければならないのだ。
「ルオ、早くっ」
ゴマ粒から声援が飛ぶが、もはやドランがどこにいるのか気にする余裕がない(小さすぎて見えないともいう)。ルオは無我夢中でよじ登り、必死で走った。背中に収まる龍剣が力をくれる(ような気もする)。
ガチャ。
浴室のドアが外から開けられた瞬間、ルオは蛇口の中に飛び込んだ。
「こっち!」
ゴマ粒、じゃなくてドランから差し出された手を握る。
「うわああ~~~~~」「やっほ―――――い」
双子の龍は手を取り合って、急流に飲み込まれていった。
「この部屋から出られるはずはありませんが、もし出られたとしても、リオキドシンの効力で後をつけられるはず」
焦って探し回る海老沼たちの声が双子の優れた聴覚に届いたが、その意味するところを考える余裕はなかった。
ドランの声が聞こえて、ルオは自分が硬く目を閉じていたことに気づく。恐る恐る目を開けてみると、龍剣を握りしめたまま大海原に浮かんでいた。
いつの間に海、…っ!?
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もはや巨大にも見える青いオタマジャクシ姿のドランがスイ~っと滑らかな泳ぎで近づいてきた。
「器?」
言われて、ルオは龍剣を眺める。龍剣はルオと一緒に小さくなり、静かに手の中に納まっている。よく見ると、龍の紋章が刻まれた部分に七つの穴があいていることに気づいた。どうやらこの穴が器らしい。ここに然るべき宝玉が収まるということか。
「でもさ、宝玉なんてどこに、……」
言いかけたルオの言葉は慌ただしく部屋に押し入ってきた人たちの声にさえぎられた。
「いないぞ!?」
「まさか、……っ」
「逃げたのか? 探せっ、隅々まで! あいつらは普通の人間じゃない。取り逃がしたら我々最大の汚点だぞ」
「承知いたしました」
バタバタと室内を捜索する音が聞こえる。
「ルオ、急ごう。見つかる前に水道管に逃げ込もうぜ」
いつの間にかドランが湯船の脇にある蛇口に張り付いていた。
「もうちょっと小さくならないと入れないかな。うん、よし、こんなもんか」
ぶつぶつ言いながらドランがゴマ粒ほどの大きさになり、蛇口の中に吸い込まれていった。
え――、次々と、そんな無茶な。
と思うが、やるしかない。
水は力の源だとドランが言っていたが、確かに水の中では驚くほど速いスピードで動ける。湯船の淵まで行くのは簡単だった。しかし湯船の淵から蛇口まで行くのが大変だ。えらく巨大な岸壁に登り、丸くつるつるした管の上を水平に歩かなければならないのだ。
「ルオ、早くっ」
ゴマ粒から声援が飛ぶが、もはやドランがどこにいるのか気にする余裕がない(小さすぎて見えないともいう)。ルオは無我夢中でよじ登り、必死で走った。背中に収まる龍剣が力をくれる(ような気もする)。
ガチャ。
浴室のドアが外から開けられた瞬間、ルオは蛇口の中に飛び込んだ。
「こっち!」
ゴマ粒、じゃなくてドランから差し出された手を握る。
「うわああ~~~~~」「やっほ―――――い」
双子の龍は手を取り合って、急流に飲み込まれていった。
「この部屋から出られるはずはありませんが、もし出られたとしても、リオキドシンの効力で後をつけられるはず」
焦って探し回る海老沼たちの声が双子の優れた聴覚に届いたが、その意味するところを考える余裕はなかった。
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