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Ⅱ章.龍宮
02.堕落
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「行けっ、やれっ、そこだ、そこっ! ……あああ、惜しい」
ちんちくりんなトカゲがどでかいゴーグルをかけて両腕をぶんぶん振り回している。
「あのさー、ドラン。オレたち、こんなことしてていいんだっけ?」
「まあ待て、ルオ。こいつ倒したら聞くから」
ゴーグルの中の世界に浸ったまま、片手をひらひらさせるドランに、ルオは何か釈然としない。
「なんかさー、…ドラン、太ったんじゃない?」
そういうルオも自分の身体が重くなったように感じる。
海洋研究所の潜水艇に捕らわれて早三日。
二人は大型クルーズ船に身柄を移されていた。
クルーズ船内は夢のようにゴージャスだった。
食べ放題の牛フィレステーキ、ローストビーフにハンバーグ。唐揚げにポテトフライにエビフライ。生クリームたっぷりの甘いケーキ。色とりどりのソーダ水。頭がキーンとなる冷たいアイスに、滝のように流れるチョコレートフォンデュまで、食べても食べてもたくさん出てくる。
食べる前に手を洗わなくても、箸の使い方がおかしくても、寝転がって食べても怒られない。ふわふわの雲のような巨大わたあめに包まれて眠っても、お風呂に入らなくても、歯磨きをしなくても、誰も文句を言わない。もちろん、宿題なんて言い出す面倒くさい人はどこにもいない。
美味しいものを好きなだけ、たらふく食べ飽きたら、ゴーグルをかければ、魅力的な仮想現実世界に切り替わる。目の前に広がる新しい世界。凶悪なモンスターを倒すヒーローになれるし、可愛いモフモフ小動物とお友達にもなれる。
最初は蛇のような海老沼を警戒していたルオも、好きなことを好きなだけさせてくれる生活の「楽」さにじわじわとはまっていった。
別に。
龍の都がクラゲの化け物に占拠されていてもそれは別世界の話なわけで。
正直、オレにはあんまり関係ないわけで、……
「お―――っと、わりい」
頭もお腹もおがくずだらけ。面倒くさいことは何も考えたくない。
思考力をなくしてぼんやりしていたら、ドランの右手がルオの脳天にクリーンヒットした。
「痛って―――」
頭のてっぺんがジンジンする。
「なにするんだよ」
「あー、わりいわりい」
軽く謝ってゲームを続けるドラン。
しかしルオは、痛みのおかげで正気に戻った。
関係ないなんて。そんなわけないじゃん!
深海の環境が乱れて雨が降らなくなったら、おじいの畑の作物だって育たなくなっちゃう。
関係あるから急いで龍の都に行くとこだったのに!
「ドラン、いつまで遊んでるつもりだよ。早く行かないと、お前一生トカゲのままだぞ」
「え、トカゲ~? 俺トカゲだっけ~? 龍じゃな~い?」
とぼけた調子のドランから無理やりゴーグルを剝ぎ取った。
「いいか、ドラン。このままじゃ龍の都は取り戻せない。ごちそうをたらふく食べたら、ヘンデルとグレーテルみたいに魔女に食べられる。オレたち、エビヌマたちの思うままだぞ」
どう見ても海に潜った三日前より一回り横に膨れているドランをつかんで揺さぶる。揺さぶりながら、ルオは自分のお腹の肉も一緒に揺れるのを感じた。
やばい。もっと早く脱出するべきだった!
ちんちくりんなトカゲがどでかいゴーグルをかけて両腕をぶんぶん振り回している。
「あのさー、ドラン。オレたち、こんなことしてていいんだっけ?」
「まあ待て、ルオ。こいつ倒したら聞くから」
ゴーグルの中の世界に浸ったまま、片手をひらひらさせるドランに、ルオは何か釈然としない。
「なんかさー、…ドラン、太ったんじゃない?」
そういうルオも自分の身体が重くなったように感じる。
海洋研究所の潜水艇に捕らわれて早三日。
二人は大型クルーズ船に身柄を移されていた。
クルーズ船内は夢のようにゴージャスだった。
食べ放題の牛フィレステーキ、ローストビーフにハンバーグ。唐揚げにポテトフライにエビフライ。生クリームたっぷりの甘いケーキ。色とりどりのソーダ水。頭がキーンとなる冷たいアイスに、滝のように流れるチョコレートフォンデュまで、食べても食べてもたくさん出てくる。
食べる前に手を洗わなくても、箸の使い方がおかしくても、寝転がって食べても怒られない。ふわふわの雲のような巨大わたあめに包まれて眠っても、お風呂に入らなくても、歯磨きをしなくても、誰も文句を言わない。もちろん、宿題なんて言い出す面倒くさい人はどこにもいない。
美味しいものを好きなだけ、たらふく食べ飽きたら、ゴーグルをかければ、魅力的な仮想現実世界に切り替わる。目の前に広がる新しい世界。凶悪なモンスターを倒すヒーローになれるし、可愛いモフモフ小動物とお友達にもなれる。
最初は蛇のような海老沼を警戒していたルオも、好きなことを好きなだけさせてくれる生活の「楽」さにじわじわとはまっていった。
別に。
龍の都がクラゲの化け物に占拠されていてもそれは別世界の話なわけで。
正直、オレにはあんまり関係ないわけで、……
「お―――っと、わりい」
頭もお腹もおがくずだらけ。面倒くさいことは何も考えたくない。
思考力をなくしてぼんやりしていたら、ドランの右手がルオの脳天にクリーンヒットした。
「痛って―――」
頭のてっぺんがジンジンする。
「なにするんだよ」
「あー、わりいわりい」
軽く謝ってゲームを続けるドラン。
しかしルオは、痛みのおかげで正気に戻った。
関係ないなんて。そんなわけないじゃん!
深海の環境が乱れて雨が降らなくなったら、おじいの畑の作物だって育たなくなっちゃう。
関係あるから急いで龍の都に行くとこだったのに!
「ドラン、いつまで遊んでるつもりだよ。早く行かないと、お前一生トカゲのままだぞ」
「え、トカゲ~? 俺トカゲだっけ~? 龍じゃな~い?」
とぼけた調子のドランから無理やりゴーグルを剝ぎ取った。
「いいか、ドラン。このままじゃ龍の都は取り戻せない。ごちそうをたらふく食べたら、ヘンデルとグレーテルみたいに魔女に食べられる。オレたち、エビヌマたちの思うままだぞ」
どう見ても海に潜った三日前より一回り横に膨れているドランをつかんで揺さぶる。揺さぶりながら、ルオは自分のお腹の肉も一緒に揺れるのを感じた。
やばい。もっと早く脱出するべきだった!
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