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Ⅱ章.龍宮
01.拘束
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太陽の光が届かない深い海の中は真っ暗だと言われるが、ルオは水の色ものっそり泳ぐ大型の魚の色もあちこちで揺れる海藻の色も分かった。深海は低温で高水圧だと言われるが、地上にいる時と同じように違和感を感じない。やはり、自分は龍神の子どもなのだと実感した。
『うわ、キモ。なにそれ、火傷?』
『…分からない。生まれた時からあるんだって』
左手の甲にあるあざは、周囲のきれいな子どもたちから珍しがられたり疎まれたりした。
『龍の形をしているな。きっとお前には龍神のご加護があるんだよ』
おじいはそう言って、ルオを慰めてくれた。
周りの子どもが、親に甘えたり叱られたりするのを見て、自分の父や母はどんな人だったんだろうと想像することはあったが、おじいのおかげで寂しくはなかった。
おじいはルオが何者であっても変わらないと言ってくれた。
きっと、平和な海を取り戻して帰ってくるからね、おじい。
耳を澄ませば、クジラの鳴き声や地響き、船舶のスクリュー音などが混ざり合って聞こえてくる。ドランは耳がいいと言っていたが、水の中ではルオもなかなか耳が利くようだ、……
ん? スクリュー音?
ルオは、暗い海の中で迫ってくる潜水艇の気配を感じた。
「ドラン、船がこっちに向かってくる」
「俺も今そう思ってたとこ、……っ」
ドランと顔を見合わせた直後、深海を進む二人を目指して発射されたネットランチャーが見えない蜘蛛の巣のように身体に絡みついた。瞬く間に透明な糸が二人の身体を締め付ける。
「なんだ、これ。離れないぞ」
もがけばもがくほど強力に絡まり合って、身動きできなくなる。底引き網漁で捕まった魚介類そのものだ。
「なんか、捕まったみたい、……」
ルオとドランは網にかかった魚のようにやがて現れた黒く巨大な潜水艇に引き上げられた。
「やあ。また会えて嬉しいよ」
マグロのように潜水艇の床に転がされたルオとドランの前に、見覚えのある人物が現れた。
「ヘビ、じゃなくて、エビ、……っ」
「海洋研究所主任研究員の海老沼です、海藤ルオくん。海藤博士がなかなか良い返事をくれないので、君に直接お願いしようと思ってね。君はこの最新潜水艇を所有する豪華客船で自由気ままに過ごしてくれていい。好きなものを食べ放題、飲み放題。最先端バーチャルリアリティーゲームで遊んでくれてもいい」
海老沼はじめ、海洋研究所の職員と思われる大人がルオとドランを囲む。海老沼はふんわりとした肌触りの良いバスタオルをルオに差し出し、笑顔を見せた。
いやいや、エビヌマさん、目が笑ってないから。
「……食べ放題」
いつの間にか、青いトカゲに戻ってルオに張り付いているドランが隣でごくりと喉を鳴らす。水から引き揚げられたからか元の大きさに戻ってしまったらしい。
「まあ、二三日ならお付き合いしてもいいですよ。長居は出来ませんが」
ドランがふわふわのバスタオルにくるまり、勿体ぶって海老沼に話しかけているが、海老沼や他の人間にドランの言葉は分からない。
「お前は余計なこと言うな」
「おい、兄貴をどつくなよ」
掛け合いを始めた兄弟を、
「深海に潜れる人間と姿かたちが変わるトカゲ。絶対に逃がさないよう閉じ込めておけ」
研究所の海老沼はヘビのように執拗な目で見ていた。
『うわ、キモ。なにそれ、火傷?』
『…分からない。生まれた時からあるんだって』
左手の甲にあるあざは、周囲のきれいな子どもたちから珍しがられたり疎まれたりした。
『龍の形をしているな。きっとお前には龍神のご加護があるんだよ』
おじいはそう言って、ルオを慰めてくれた。
周りの子どもが、親に甘えたり叱られたりするのを見て、自分の父や母はどんな人だったんだろうと想像することはあったが、おじいのおかげで寂しくはなかった。
おじいはルオが何者であっても変わらないと言ってくれた。
きっと、平和な海を取り戻して帰ってくるからね、おじい。
耳を澄ませば、クジラの鳴き声や地響き、船舶のスクリュー音などが混ざり合って聞こえてくる。ドランは耳がいいと言っていたが、水の中ではルオもなかなか耳が利くようだ、……
ん? スクリュー音?
ルオは、暗い海の中で迫ってくる潜水艇の気配を感じた。
「ドラン、船がこっちに向かってくる」
「俺も今そう思ってたとこ、……っ」
ドランと顔を見合わせた直後、深海を進む二人を目指して発射されたネットランチャーが見えない蜘蛛の巣のように身体に絡みついた。瞬く間に透明な糸が二人の身体を締め付ける。
「なんだ、これ。離れないぞ」
もがけばもがくほど強力に絡まり合って、身動きできなくなる。底引き網漁で捕まった魚介類そのものだ。
「なんか、捕まったみたい、……」
ルオとドランは網にかかった魚のようにやがて現れた黒く巨大な潜水艇に引き上げられた。
「やあ。また会えて嬉しいよ」
マグロのように潜水艇の床に転がされたルオとドランの前に、見覚えのある人物が現れた。
「ヘビ、じゃなくて、エビ、……っ」
「海洋研究所主任研究員の海老沼です、海藤ルオくん。海藤博士がなかなか良い返事をくれないので、君に直接お願いしようと思ってね。君はこの最新潜水艇を所有する豪華客船で自由気ままに過ごしてくれていい。好きなものを食べ放題、飲み放題。最先端バーチャルリアリティーゲームで遊んでくれてもいい」
海老沼はじめ、海洋研究所の職員と思われる大人がルオとドランを囲む。海老沼はふんわりとした肌触りの良いバスタオルをルオに差し出し、笑顔を見せた。
いやいや、エビヌマさん、目が笑ってないから。
「……食べ放題」
いつの間にか、青いトカゲに戻ってルオに張り付いているドランが隣でごくりと喉を鳴らす。水から引き揚げられたからか元の大きさに戻ってしまったらしい。
「まあ、二三日ならお付き合いしてもいいですよ。長居は出来ませんが」
ドランがふわふわのバスタオルにくるまり、勿体ぶって海老沼に話しかけているが、海老沼や他の人間にドランの言葉は分からない。
「お前は余計なこと言うな」
「おい、兄貴をどつくなよ」
掛け合いを始めた兄弟を、
「深海に潜れる人間と姿かたちが変わるトカゲ。絶対に逃がさないよう閉じ込めておけ」
研究所の海老沼はヘビのように執拗な目で見ていた。
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