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Ⅰ章.邂逅
10.出立
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「ドラン、今から龍の都に行こう」
本当は、戸惑いもあった。
自分が龍神の子どもだとか、クラゲの怪物が都を占拠しているとか。にわかには信じられないし、自分に何ができるのかも分からない。おじいと離れ離れになることに不安もある。
でももう迷っている場合じゃない。
背中にぴたりと収まった龍剣はルオのもの。ドランの依頼を引き受けられるのもルオだけ。
「おう、善は急げだ」
調子よく頷くと、ドランは早速外に飛び出した。
早っ、…
「ルオ。これを持って行きなさい。お守りだ」
おじいがいつも肌身離さず首から下げていた琥珀のネックレスを外すと、ルオの首にかけた。
「お前が何者であっても、英雄でもそうじゃなくても、わしはずっとお前の味方だ。何があっても、お前はわしの大切な孫だ。どうか忘れないでくれ」
そしてルオをぎゅっと抱きしめた。
「ルオ、無事でな」
「うん。おじいも」
なんだか胸がいっぱいになって涙が出そうだった。おじいから目に見えない力がルオの中に流れ込んで、ルオを強くしたような気がする。
「おっせーよ、ルオ」
「今行くっ」
海岸まで、おじいも一緒に来てくれた。
夏の強い日差しに照らされた海は煌めいて、既に海水浴を楽しむ人々の姿が沢山見える。海の家が軒を並べ、カラフルなパラソルが広がり、あちらこちらから歓声が聞こえてくる。ルオとドランは海水浴場から少し離れた人気のない岩場の陰に降り立った。寄せては返す波が岩に当たって白い水しぶきをあげている。
「よし。乗れ、ルオ」
そそくさと水に飛び込んだドランが偉そうにルオを振り返る。
乗れったって、そんなちんちくりんなトカゲ、乗ったら潰れて、……
困惑するルオの目の前で、ドランの身体が膨らんだ。ウミガメほどの大きさになっている。
「ええー、浦島太郎じゃん」
「龍神の力を奪われたと言っても、水は俺の源だからな。このくらい出来る」
体長一メートルほどの巨大なトカゲがふんぞり返る。もはやワニのようである。
「じゃあ、行ってくるね、おじい」
「気をつけてな。ルオ、ドラン」
ルオは岩場からジャンプしてドランの背中に飛び乗った。
ドランは軽やかに鮮やかに水に潜ると、高速でぐんぐん飛ぶように進んでいく。あっという間に水面が遥か頭上に遠ざかっていった。
きっと、浦島太郎はこんな気持ちだったんだろうな。
太陽の光が明るく差し込む海中には、色とりどりの魚の群れが見えた。海藻、貝、イルカ、シャチ、…海の生き物たちが次々と目の前を横切っていく。この美しく平和な光景を見る限りでは、海の生物たちが大量に死滅し、地上が深刻な水不足に陥っているというのは、どこか遠く無関係な世界の話のように思えた。
本当は、戸惑いもあった。
自分が龍神の子どもだとか、クラゲの怪物が都を占拠しているとか。にわかには信じられないし、自分に何ができるのかも分からない。おじいと離れ離れになることに不安もある。
でももう迷っている場合じゃない。
背中にぴたりと収まった龍剣はルオのもの。ドランの依頼を引き受けられるのもルオだけ。
「おう、善は急げだ」
調子よく頷くと、ドランは早速外に飛び出した。
早っ、…
「ルオ。これを持って行きなさい。お守りだ」
おじいがいつも肌身離さず首から下げていた琥珀のネックレスを外すと、ルオの首にかけた。
「お前が何者であっても、英雄でもそうじゃなくても、わしはずっとお前の味方だ。何があっても、お前はわしの大切な孫だ。どうか忘れないでくれ」
そしてルオをぎゅっと抱きしめた。
「ルオ、無事でな」
「うん。おじいも」
なんだか胸がいっぱいになって涙が出そうだった。おじいから目に見えない力がルオの中に流れ込んで、ルオを強くしたような気がする。
「おっせーよ、ルオ」
「今行くっ」
海岸まで、おじいも一緒に来てくれた。
夏の強い日差しに照らされた海は煌めいて、既に海水浴を楽しむ人々の姿が沢山見える。海の家が軒を並べ、カラフルなパラソルが広がり、あちらこちらから歓声が聞こえてくる。ルオとドランは海水浴場から少し離れた人気のない岩場の陰に降り立った。寄せては返す波が岩に当たって白い水しぶきをあげている。
「よし。乗れ、ルオ」
そそくさと水に飛び込んだドランが偉そうにルオを振り返る。
乗れったって、そんなちんちくりんなトカゲ、乗ったら潰れて、……
困惑するルオの目の前で、ドランの身体が膨らんだ。ウミガメほどの大きさになっている。
「ええー、浦島太郎じゃん」
「龍神の力を奪われたと言っても、水は俺の源だからな。このくらい出来る」
体長一メートルほどの巨大なトカゲがふんぞり返る。もはやワニのようである。
「じゃあ、行ってくるね、おじい」
「気をつけてな。ルオ、ドラン」
ルオは岩場からジャンプしてドランの背中に飛び乗った。
ドランは軽やかに鮮やかに水に潜ると、高速でぐんぐん飛ぶように進んでいく。あっという間に水面が遥か頭上に遠ざかっていった。
きっと、浦島太郎はこんな気持ちだったんだろうな。
太陽の光が明るく差し込む海中には、色とりどりの魚の群れが見えた。海藻、貝、イルカ、シャチ、…海の生き物たちが次々と目の前を横切っていく。この美しく平和な光景を見る限りでは、海の生物たちが大量に死滅し、地上が深刻な水不足に陥っているというのは、どこか遠く無関係な世界の話のように思えた。
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