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Ⅰ章.邂逅

09.盗聴

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「…音がする」

ルオに弾き飛ばされたドランはくるりと回って上手に着地すると、ふいに耳をぴくりとそばたてた。

音?

ルオも耳を澄ませてみるけど、何も聞こえない。

「こっち。ちょっと嫌な感じの機械音」

ドランはそう言うと、リビングの先にある骨董屋の店舗の方に進んだ。ルオとおじいも後に続く。

「これだ」

ドランは店のカウンター傍に付けられたほんの小さなゴミみたいな虫を指した。…虫? ドランってばお腹空いただけだったりして、とルオは思ったが、おじいの険しい顔を見て口に出すのをやめた。

おじいは黙って虫に手を伸ばすと、床に置いて踏みつけた。

「おじい?」
「しーっ」

おじいはいつも自分の命とみんなの命を大切にすること、と教えてくれている。虫であってもむやみに殺したりしない。思いもよらないおじいの行動にルオは驚いたが、おじいは険しい顔のまま、人差し指を口に当てた。

「盗聴器だ」

ルオの耳元で声を殺しておじいが囁く。おじいはその潰れた黒い虫のようなものを静かに摘み上げた。よく見ると中に何か回線のようなものがあるのが分かる。

とうちょうき?

心臓が嫌な感じに軋んだ。
盗聴器って、遠くの会話をこっそり盗み聞きするための機械だよね。なんでそんなものがお店に? 誰かがおじいを狙ってる?

ドランの耳を頼りに、店舗に仕掛けられていた盗聴器四つを発見した。

「他には?」
「ないと思う」

ドランが十メートル先から鼻息が聞こえるかどうかは分からないけれど、耳がいいというのは本当らしい。

「これは通称『虫』という超小型最新モデルの盗聴器だ。一般には売られていない」

おじいはカウンターに置いた盗聴器を睨むように見ている。

「売られてないならどうして、……」

ここに仕掛けられているんだろうかと考えてみる。

この盗聴器は一般の人じゃなくて、手に入れられる特別な立場にある人が仕掛けたってことだろうか?

おじいが静かに頷いた。

「これは、海洋研究所の最先端技術開発部が政府の委託を受けて作ったものだ。つまり、…これを仕掛けたのは先日ここを訪れた海洋研究所の人間だろうと思う」

ルオは、一学期最後の日におじいの店で出会ったねちっこいヘビを連想させる男性を思い出した。ヘビ、…じゃなくて、エビなんとかさん。

「どうやら研究所は手段をえらばずにお前を手に入れたいようだ」

研究所の職員がルオの身体に興味を持っていると先日おじいから聞いた。ドランの話を信じるとすれば、ルオは龍神の子なのだから、身体を調べられれば人間とは違うところが見つかるかもしれない。
それに、盗聴器によってドランの話が研究所の人たちに伝わっているとしたら、ルオとドランに対する興味はますます大きくなっているだろう。

ぐずぐずしている暇はない。
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