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Ⅰ章.邂逅

07.都の禁忌

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「実はルオ、お前は海から流れてきてな、わしが浜辺で見つけたんだ。まだ赤ん坊だったが、背中にその龍の紋章がある剣を背負っておった。その剣は、お前の成長に合わせて徐々に大きさを変えているんだ。いつでもお前にぴったりなように」

朝の食卓テーブルには、採れたてトウモロコシ、トマトとキュウリのサラダ、アユの塩焼き、炊き立てご飯とナスのお味噌汁が並んでいる。隣に座るドランはあっという間に食べ終えて、念願の緑茶をすすっている。

ルオは糊で張り付けたかのようにぴったり背中に収まっている龍の紋章がある剣を横目で振り返った。身体の一部であるかのように、自然とルオにくっついている剣を思うと、成長に合わせて大きさが変わると言う話は頷ける。

「お前は龍神様の申し子だと思った。わしは若いころに連れ合いを失くしてからずっと独り身でな。心を込めてお前を育てたつもりだ。だがいつか、お前が海に還る日が来ることは分かっていたように思う」

「おじい、……」

何か言いたかったが、言葉が出てこなかった。
おじいの孫ではなかったと言う事実にショックを受けている。だが、左手のあざと言い、長期潜水能力と言い、成長と共に大きさを変える龍剣の存在と言い、おじいの話に間違いがないのはよく分かる。

「だが、お前が何者であっても、わしの孫であることは変わらん。いつでも帰ってきていいし、このままここにいてくれてもわしは大歓迎じゃ」

おじいが手を伸ばして、ルオの頭を撫でた。皺だらけの手のひらから、温かいものが流れ込んで、喉のつかえがすっととれた。

「うん、そうだよな。オレはオレ。これからも変わらない」

急にすっきりして、ようやくトウモロコシにかぶりつく。甘くてジューシー。おじいの畑でとれる野菜は世界一美味しい。
が、そんなルオにドランが水を差した。

「変わらないかもしれないけどさ、ルオには俺と一緒に龍の都に来てもらわないと困るわけ。龍の都が危機に陥っているから」

ずずずーっと器用にお茶をすする。何このトカゲ。いや、龍か。

ルオが横目でじろりとドランを見るも、ドランは素知らぬ顔でお茶をすすっている。

オレ、本当にこんなんと双子なのかな。

「俺たちは龍の都に生まれた龍神の双子だが、双子の龍は争いの元。都では禁忌なんだ」

そんなルオの胸の内を見透かしたようにドランが話し始めた。

「きんきってなに?」
「禁じられていること、…かな」

ドランの話をおじいに伝えながらこっそり聞くと、おじいもこっそり教えてくれた。

「だから後から生まれたほうを消さなければならないという決まりがあるんだけど、俺たちの父親である先代の龍神王はお前を殺すことが出来ず、人の子として地上に逃がしたんだ」

「え――、オレ、殺されるとこだったってこと?」
「まあな」
「そんなのひどくない? 双子ってだけで?」
「そうな」
「もしかしたらお前がこっち側だったかもしれないし」
「それな」
「都の禁忌、ナンセンスっ!」
「……急にぼろくそじゃん」

やいやい言っている双子を優しい目で見つめながら、おじいがドランにお茶のお替わりを注いでくれた。
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