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Ⅰ章.邂逅
06.双子の龍
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「やっと抜いたな、ルオ。あーもう、待ちくたびれたぜ。全く俺の弟は手がかかるな」
ルオの肩に乗っているトカゲがやれやれと言った感じで話し始める。
「手がかかるってなんだよ。だいたい、オレの方が大きいし、オレの方がしっかりしてるし、ホントはオレが兄貴なんじゃないの?」
「何言ってんだ。俺はたまたまこんな姿をしているが、本来はお前の十倍はでかい偉大なる龍神なんだぞ」
「え~? ホントに? なんで龍神がこんなとこにいるんだよ? 龍神様っていうのは水の神様で、池とか湖とかにいて、雨を降らせてくれたりするもんなんじゃないの?」
「う、……まあ、訳は話せば長くなる、……」
トカゲが言葉に詰まった。
「じゃあその訳とやらを聞かせてもらおうじゃないの」
手にしたばかりの剣を雑に振り回し、肩のトカゲに向き直ってから、ルオは我に返った。
え。オレ、今トカゲと会話した?
「ルオ。お前、トカゲの言葉が分かるのか」
傍で見ていたおじいも目をぱちくりさせている。
「ええ―――、オレ、トカゲとしゃべってるぅ――――??」
思わずトカゲをむんずと片手で握りしめて大声を上げると、トカゲが露骨に嫌な顔をした。
ん? トカゲの表情が分かる、…つまり、剣を抜いたから会話出来たり表情が分かったりするってことか?
「でかい声出すなよ。俺は耳がいいんだ。お前の鼻息だって十メートル先から聞こえる」
いやいや。さすがにそれは盛りすぎじゃない?
「ちなみに俺はトカゲじゃなくてドラン。龍の都を統べる龍神の王にして、お前の双子の兄だ。……おいルオ、苦しいからいい加減手を放せ」
トカゲ、…じゃなくてドランは、ルオの手の中で偉そうにふんぞり返ってから顔をしかめた。
うわぁ、…ドランの表情が手に取るように分かる。
「あ、ごめん」
ルオが慌てて手を放すと、ドランは地面に降り立ち、王の威厳を示すかのように精一杯背伸びして、…伸びあがったトカゲにしか見えないのだが、ルオとおじいを交互に見た。
「そういうわけで、俺がここに来た理由を話そうと思うが、ちょっと喉が渇いたな。おじいさん、緑茶淹れてくれない? 出来れば玉露がいいな」
「図々しいっ」
ルオは思わず渾身の突っ込みをしてしまった。
「うむ。絶妙な間合い。さすがに息がぴったりじゃの」
いや。そんな賞賛いらんから。
おじいはルオとドランのやり取りを見ながらしみじみとした感じでつぶやいた。
「お前はやはり、海の子なんだな、ルオ」
「海の子って、どういうこと?」
おじいがどこか達観した様子を見せていることにルオの心は騒いだ。
おじいはルオがドランとしゃべっても動じない。剣がひとりでに抜かれたり、鞘が背中に収まったりしてもそれほど驚いていない。ちんちくりんなトカゲ、…じゃなくて本当は龍神らしいドランの双子の弟と言われても、笑い飛ばしたりせず、真剣に向き合っている。つまり、おじいは信じているのだ。この不思議すぎる出来事を受け入れているのだ。受け入れるに足る、何かを知っているということだ。
「朝ご飯を食べながら話をしよう。ルオ、トカゲと畑のトウモロコシを採ってきなさい」
「…うん」
「…トカゲじゃなくてドランです、おじいさん。緑茶もお忘れなく」
やかましい。
ルオの肩に乗っているトカゲがやれやれと言った感じで話し始める。
「手がかかるってなんだよ。だいたい、オレの方が大きいし、オレの方がしっかりしてるし、ホントはオレが兄貴なんじゃないの?」
「何言ってんだ。俺はたまたまこんな姿をしているが、本来はお前の十倍はでかい偉大なる龍神なんだぞ」
「え~? ホントに? なんで龍神がこんなとこにいるんだよ? 龍神様っていうのは水の神様で、池とか湖とかにいて、雨を降らせてくれたりするもんなんじゃないの?」
「う、……まあ、訳は話せば長くなる、……」
トカゲが言葉に詰まった。
「じゃあその訳とやらを聞かせてもらおうじゃないの」
手にしたばかりの剣を雑に振り回し、肩のトカゲに向き直ってから、ルオは我に返った。
え。オレ、今トカゲと会話した?
「ルオ。お前、トカゲの言葉が分かるのか」
傍で見ていたおじいも目をぱちくりさせている。
「ええ―――、オレ、トカゲとしゃべってるぅ――――??」
思わずトカゲをむんずと片手で握りしめて大声を上げると、トカゲが露骨に嫌な顔をした。
ん? トカゲの表情が分かる、…つまり、剣を抜いたから会話出来たり表情が分かったりするってことか?
「でかい声出すなよ。俺は耳がいいんだ。お前の鼻息だって十メートル先から聞こえる」
いやいや。さすがにそれは盛りすぎじゃない?
「ちなみに俺はトカゲじゃなくてドラン。龍の都を統べる龍神の王にして、お前の双子の兄だ。……おいルオ、苦しいからいい加減手を放せ」
トカゲ、…じゃなくてドランは、ルオの手の中で偉そうにふんぞり返ってから顔をしかめた。
うわぁ、…ドランの表情が手に取るように分かる。
「あ、ごめん」
ルオが慌てて手を放すと、ドランは地面に降り立ち、王の威厳を示すかのように精一杯背伸びして、…伸びあがったトカゲにしか見えないのだが、ルオとおじいを交互に見た。
「そういうわけで、俺がここに来た理由を話そうと思うが、ちょっと喉が渇いたな。おじいさん、緑茶淹れてくれない? 出来れば玉露がいいな」
「図々しいっ」
ルオは思わず渾身の突っ込みをしてしまった。
「うむ。絶妙な間合い。さすがに息がぴったりじゃの」
いや。そんな賞賛いらんから。
おじいはルオとドランのやり取りを見ながらしみじみとした感じでつぶやいた。
「お前はやはり、海の子なんだな、ルオ」
「海の子って、どういうこと?」
おじいがどこか達観した様子を見せていることにルオの心は騒いだ。
おじいはルオがドランとしゃべっても動じない。剣がひとりでに抜かれたり、鞘が背中に収まったりしてもそれほど驚いていない。ちんちくりんなトカゲ、…じゃなくて本当は龍神らしいドランの双子の弟と言われても、笑い飛ばしたりせず、真剣に向き合っている。つまり、おじいは信じているのだ。この不思議すぎる出来事を受け入れているのだ。受け入れるに足る、何かを知っているということだ。
「朝ご飯を食べながら話をしよう。ルオ、トカゲと畑のトウモロコシを採ってきなさい」
「…うん」
「…トカゲじゃなくてドランです、おじいさん。緑茶もお忘れなく」
やかましい。
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