6 / 78
Ⅰ章.邂逅
05.龍剣
しおりを挟む
「あのさ、おじい。ちょっと気になることがあるんだけど」
翌朝、ルオはトカゲと並んで、おじいの部屋の前でおじいが起き出してくるのを待ち受けた。
「うわ、ルオか。どうした、こんな朝早くから」
眠そうに出てきたおじいは部屋の前に正座しているルオを見て驚いたようだが、ルオの真剣な面持ちを見るとすぐに寄り添って話を聞いてくれた。
おじいの朝は早い。おじいはまだ日が昇らないうちに裏の畑から野菜を収穫する。今もまだやっと空が白み始めたばかりだ。
「オレのあざと同じあざが、トカゲにもあるんだ」
ルオは腕に乗っているトカゲと左右の手の甲を並べて差し出した。
「なんだって」
おじいは目を近づけたり離したりして手の甲をまじまじと眺め、それから眼鏡を持ってきてまたまたじっくりと二人の手を見比べた。
「うむ、確かに。トカゲのあざはとても小さいが、確かに同じ龍が左右対称に向き合っているように見えるな」
しっかりと観察した後、おじいはルオに同意した。
「それでさ、昨日の夜、夢を見たんだ。トカゲが出てきて、夢の中では水色の翼の生えた龍になってたんだけど、俺たちの都が大変だから剣を抜けって言うんだ。オレのこと、トカゲの双子の弟だって言うんだよ」
ほう、それはなかなかファンタジックな夢だな。
と言われるとルオは予想していた。夢にしては出来すぎているけど、トカゲと双子なんてありえない。いや、本当は龍神だとか言っていたけど、どっちにしてもあり得ない。ルオは少しばかり潜水が得意で漢字が苦手なごく普通のありふれた小学生なのだ。
「龍、……剣、か」
しかしおじいはルオの予想に反し、難しい顔をして押し黙ってしまった。思わずトカゲと顔を見合わせる。なんとなく、「だから言っただろ」とトカゲが兄貴風を吹かせているように感じる。
ええ、ちょっと待ってよ。オレ、本当にこのちんちくりんなトカゲの弟なの? そしたらオレもトカゲなの?
「ルオ。お前に話さなければならないことがある。そして、見てもらいたいものがある。ついてきなさい」
おじいが向かった先は、家の裏にある蔵だった。蔵の中には骨董屋には並べられていないものが数多く眠っている。ルオは時々おじいと共に蔵の掃除をするが、店舗の商品以上に何に使われるのかよく分からない奇妙なもの、綺麗なもの、なんだか危険な感じがするものがごちゃ混ぜになって置かれている。
おじいは蔵の奥から一本の剣を持ってきた。ルオの肩に乗っているトカゲが、ピクリと身を動かす。なんとなく、全身の毛が逆立つような不思議な興奮がルオの身体を駆け抜けた。
「これはお前の剣だ」
おじいが剣をルオに差し出す。蒼く鈍い銀色の光を放つ剣は、柄が龍の形をしている。ルオが剣に手を伸ばすと、剣の方からルオの手にすっと収まる。そしてごく自然にすらりと鞘から引き抜かれ、まばゆい銀色の刀身を露わにした。
「すごい、……」
刀身には龍の紋章が刻まれていた。ルオの、そしてトカゲの手の甲にあるあざと同じ龍の形。この剣がルオの物であることは、言われなくても全身で感じ取っていた。ぴたりと馴染む。新しい手を手に入れたかのように。軽く、のびやかで、隙が無い。
鞘は軽く宙に浮かび上がったかと思うと、初めから決まっていたようにルオの背中にぴたっと収まった。
翌朝、ルオはトカゲと並んで、おじいの部屋の前でおじいが起き出してくるのを待ち受けた。
「うわ、ルオか。どうした、こんな朝早くから」
眠そうに出てきたおじいは部屋の前に正座しているルオを見て驚いたようだが、ルオの真剣な面持ちを見るとすぐに寄り添って話を聞いてくれた。
おじいの朝は早い。おじいはまだ日が昇らないうちに裏の畑から野菜を収穫する。今もまだやっと空が白み始めたばかりだ。
「オレのあざと同じあざが、トカゲにもあるんだ」
ルオは腕に乗っているトカゲと左右の手の甲を並べて差し出した。
「なんだって」
おじいは目を近づけたり離したりして手の甲をまじまじと眺め、それから眼鏡を持ってきてまたまたじっくりと二人の手を見比べた。
「うむ、確かに。トカゲのあざはとても小さいが、確かに同じ龍が左右対称に向き合っているように見えるな」
しっかりと観察した後、おじいはルオに同意した。
「それでさ、昨日の夜、夢を見たんだ。トカゲが出てきて、夢の中では水色の翼の生えた龍になってたんだけど、俺たちの都が大変だから剣を抜けって言うんだ。オレのこと、トカゲの双子の弟だって言うんだよ」
ほう、それはなかなかファンタジックな夢だな。
と言われるとルオは予想していた。夢にしては出来すぎているけど、トカゲと双子なんてありえない。いや、本当は龍神だとか言っていたけど、どっちにしてもあり得ない。ルオは少しばかり潜水が得意で漢字が苦手なごく普通のありふれた小学生なのだ。
「龍、……剣、か」
しかしおじいはルオの予想に反し、難しい顔をして押し黙ってしまった。思わずトカゲと顔を見合わせる。なんとなく、「だから言っただろ」とトカゲが兄貴風を吹かせているように感じる。
ええ、ちょっと待ってよ。オレ、本当にこのちんちくりんなトカゲの弟なの? そしたらオレもトカゲなの?
「ルオ。お前に話さなければならないことがある。そして、見てもらいたいものがある。ついてきなさい」
おじいが向かった先は、家の裏にある蔵だった。蔵の中には骨董屋には並べられていないものが数多く眠っている。ルオは時々おじいと共に蔵の掃除をするが、店舗の商品以上に何に使われるのかよく分からない奇妙なもの、綺麗なもの、なんだか危険な感じがするものがごちゃ混ぜになって置かれている。
おじいは蔵の奥から一本の剣を持ってきた。ルオの肩に乗っているトカゲが、ピクリと身を動かす。なんとなく、全身の毛が逆立つような不思議な興奮がルオの身体を駆け抜けた。
「これはお前の剣だ」
おじいが剣をルオに差し出す。蒼く鈍い銀色の光を放つ剣は、柄が龍の形をしている。ルオが剣に手を伸ばすと、剣の方からルオの手にすっと収まる。そしてごく自然にすらりと鞘から引き抜かれ、まばゆい銀色の刀身を露わにした。
「すごい、……」
刀身には龍の紋章が刻まれていた。ルオの、そしてトカゲの手の甲にあるあざと同じ龍の形。この剣がルオの物であることは、言われなくても全身で感じ取っていた。ぴたりと馴染む。新しい手を手に入れたかのように。軽く、のびやかで、隙が無い。
鞘は軽く宙に浮かび上がったかと思うと、初めから決まっていたようにルオの背中にぴたっと収まった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる