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secret.Ⅳ
last.secret
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かくして。
創世の神と崇められる始龍は虹龍の姿をとって甦り、世界を虹色の光で照らし出した。その日、七龍大国の乾いた地には雨が降り、雪解けの土からは若葉が芽を出した。諍いは止み、争いは中断され、地上は爽やかな風と和やかな陽射しに包まれた。空を見上げた人々には、大空にかかる虹の眩い光が降り注ぎ、心が鎮まり慰められ満たされた。人々は、虹龍の恩恵に深く感謝し、緑豊かに育まれた大地を愛した。
甦った虹龍のもと、七龍王たちは各国の平和と繁栄に励み、七龍大陸が豊かで人々が心穏やかに過ごせるよう協働して治世に努める決意を固めた。
「…王子ってことはさ、お前、青龍国王になるの?」
大陸全土が始龍の復活に沸く中、虹龍に乗って青龍国に戻ってきた俺とウルフは、王都で盛大な歓迎を受け、いつ終わるとも分からない祝宴に駆り出されている。
王宮のバルコニーに設えられた王族席で、国王ラルフや王妃ナディアをはじめとする諸々の親族に囲まれ、宮廷料理人のナムラが腕を振るってくれたご馳走の数々を堪能しながら、一堂に集った七龍王たちから祝福を受け、会談に応じている。バルコニーから見える王宮の庭園では、ダンスパーティやら力自慢比べやら奇想天外なマジックやら、各国の国民が入り乱れて余興を楽しんでおり、ひっきりなしに拍手や歓声が上がっていた。
橙龍国の桃より青龍国の桃の方が柔らかさと果汁感が俺の好みだな、と勝手に桃の食べ比べをしていた俺は、このままいくと俺たちは青龍国王と王妃(?)になるのかな、と新たな疑問を抱いて、いつの間にかウルフの膝の上に座っていることに気が付いた。
いつの間にっ!?
「…付いてる」
驚く俺の顎に手を添えて、ウルフが後ろから長い舌先で頬を舐める。
「おま、…っ」
やめろよ、そんなベタなことすんのっ
と言いかけた俺の口はあっさりウルフに塞がれた。
「な、…んっ、…」
「…桃の味がする」
いつになったら羞恥心を取り戻すんだ、このハレンチ王子は!
「桃より赤くなって。可愛いな、俺のライは」
取り戻す気ゼロだろ!
反省のかけらもなさそうなウルフは、俺の髪を撫でるともう一度頬にキスして、
「で、俺たちの将来の話だっけ?」
そのまま触れそうな距離で俺の顔を覗き込む。
…クソ。ウルフしか見えなくなるじゃねえか。
悔しいことに俺のハレンチ王子は何をしてもカッコいい。悲しいことに俺はかなりウルフに毒されている。
「青龍国王になってもいいけど、俺らの子どもがなるかもしれないし」
「こ、…っ!?」
思わず、ウルフの膝の上にしっかり乗っている自分の腹に目を落とす。
子どもって、子どもって、…子どもっ??
「でも俺らの子どもはそもそも初代の七龍だから、ここにいるのは全員俺らの孫っていうか、ひ孫っていうか、玄孫っていうか。だから誰がなってもいいし。新しく龍が生まれたらそいつは七龍からは離れて、新しい離島を作るかもな」
話が壮大過ぎてついてけねーんだけどっ!?
「お前が望めば宿るだろうけど、俺はお前がいればそれでいいかな」
ウルフはすっかりフリーズしている俺の腹を、手のひらで包むようにして優しく撫でた。
「…え? 俺、子ども、…??」
なんか話が飛躍しててよく分からないけど、このところウルフと一緒に居すぎるせいか、俺の身体は女のままで、なんとなくみんな、俺とウルフはそのまま結婚していると思っている。だからなんとなく、次のお世継ぎは、的な視線も感じるわけだけど、なんかそんなの、全然現実味がないというかなんというか、…
「レイもおめでたじゃというし。わしもまだまだ忙しいの」
隣の席でのどかに茶をすする、…わけもなく、豪快に酒を仰ぐ婆がしたり顔でニヤニヤしている。…俺の知らないところで世界は今日も回ってる。
「またいつか眠る日が来ても、…」
俺の腹を優しく撫でていた腕に腰を抱かれて、後ろからぴったりウルフに引き寄せられる。頬を撫でて髪に滑り込ませた手のひらに促されて、見上げた先にウルフの青い瞳が俺だけを真っすぐに映していた。
「また目覚めたらお前を探しに行く」
俺はウルフの青から目を逸らせない。
ウルフの秀麗な顔が傾いて、その甘い唇が俺の唇に重なる。息をするように重なり合うのが自然で、俺たちは一つに繋がるべき存在なんだと思う。
「だからずっと一緒にいよう」
ウルフの声も言葉も温もりも、全てが嬉しくて何もかも気持ち良くて、気が付けば身体をよじってウルフに密着し、長い腕にしっかり抱かれて、甘い舌先を奥深くまでしっかりと受け入れていた。
「あ、…」
外じゃねえか。衆人環視じゃねえか。浮かれたハレンチ馬鹿じゃねえかっ
現状に気づいて唇を離し、ウルフを睨むと、ウルフは青い瞳を不満げに煙らせて、
「…散歩してこようか」
俺を軽々と抱き上げたまま立ち上がり、盛り上がっている祝宴を速やかに中座した。
「どこいく、…っ」
歩きながらもキスを降らせるウルフに塞がれ、何とかその逞しくしなやかなウルフの身体に必死でしがみつく。
「お祝いに走りたいって」
いたずら顔のウルフが向かう先からは、濡れたような漆黒の目をした男の中の男の嘶きが、聞こえたような気がした。
――――――――――――――――――
この後 →
番外編 公開予定です。
創世の神と崇められる始龍は虹龍の姿をとって甦り、世界を虹色の光で照らし出した。その日、七龍大国の乾いた地には雨が降り、雪解けの土からは若葉が芽を出した。諍いは止み、争いは中断され、地上は爽やかな風と和やかな陽射しに包まれた。空を見上げた人々には、大空にかかる虹の眩い光が降り注ぎ、心が鎮まり慰められ満たされた。人々は、虹龍の恩恵に深く感謝し、緑豊かに育まれた大地を愛した。
甦った虹龍のもと、七龍王たちは各国の平和と繁栄に励み、七龍大陸が豊かで人々が心穏やかに過ごせるよう協働して治世に努める決意を固めた。
「…王子ってことはさ、お前、青龍国王になるの?」
大陸全土が始龍の復活に沸く中、虹龍に乗って青龍国に戻ってきた俺とウルフは、王都で盛大な歓迎を受け、いつ終わるとも分からない祝宴に駆り出されている。
王宮のバルコニーに設えられた王族席で、国王ラルフや王妃ナディアをはじめとする諸々の親族に囲まれ、宮廷料理人のナムラが腕を振るってくれたご馳走の数々を堪能しながら、一堂に集った七龍王たちから祝福を受け、会談に応じている。バルコニーから見える王宮の庭園では、ダンスパーティやら力自慢比べやら奇想天外なマジックやら、各国の国民が入り乱れて余興を楽しんでおり、ひっきりなしに拍手や歓声が上がっていた。
橙龍国の桃より青龍国の桃の方が柔らかさと果汁感が俺の好みだな、と勝手に桃の食べ比べをしていた俺は、このままいくと俺たちは青龍国王と王妃(?)になるのかな、と新たな疑問を抱いて、いつの間にかウルフの膝の上に座っていることに気が付いた。
いつの間にっ!?
「…付いてる」
驚く俺の顎に手を添えて、ウルフが後ろから長い舌先で頬を舐める。
「おま、…っ」
やめろよ、そんなベタなことすんのっ
と言いかけた俺の口はあっさりウルフに塞がれた。
「な、…んっ、…」
「…桃の味がする」
いつになったら羞恥心を取り戻すんだ、このハレンチ王子は!
「桃より赤くなって。可愛いな、俺のライは」
取り戻す気ゼロだろ!
反省のかけらもなさそうなウルフは、俺の髪を撫でるともう一度頬にキスして、
「で、俺たちの将来の話だっけ?」
そのまま触れそうな距離で俺の顔を覗き込む。
…クソ。ウルフしか見えなくなるじゃねえか。
悔しいことに俺のハレンチ王子は何をしてもカッコいい。悲しいことに俺はかなりウルフに毒されている。
「青龍国王になってもいいけど、俺らの子どもがなるかもしれないし」
「こ、…っ!?」
思わず、ウルフの膝の上にしっかり乗っている自分の腹に目を落とす。
子どもって、子どもって、…子どもっ??
「でも俺らの子どもはそもそも初代の七龍だから、ここにいるのは全員俺らの孫っていうか、ひ孫っていうか、玄孫っていうか。だから誰がなってもいいし。新しく龍が生まれたらそいつは七龍からは離れて、新しい離島を作るかもな」
話が壮大過ぎてついてけねーんだけどっ!?
「お前が望めば宿るだろうけど、俺はお前がいればそれでいいかな」
ウルフはすっかりフリーズしている俺の腹を、手のひらで包むようにして優しく撫でた。
「…え? 俺、子ども、…??」
なんか話が飛躍しててよく分からないけど、このところウルフと一緒に居すぎるせいか、俺の身体は女のままで、なんとなくみんな、俺とウルフはそのまま結婚していると思っている。だからなんとなく、次のお世継ぎは、的な視線も感じるわけだけど、なんかそんなの、全然現実味がないというかなんというか、…
「レイもおめでたじゃというし。わしもまだまだ忙しいの」
隣の席でのどかに茶をすする、…わけもなく、豪快に酒を仰ぐ婆がしたり顔でニヤニヤしている。…俺の知らないところで世界は今日も回ってる。
「またいつか眠る日が来ても、…」
俺の腹を優しく撫でていた腕に腰を抱かれて、後ろからぴったりウルフに引き寄せられる。頬を撫でて髪に滑り込ませた手のひらに促されて、見上げた先にウルフの青い瞳が俺だけを真っすぐに映していた。
「また目覚めたらお前を探しに行く」
俺はウルフの青から目を逸らせない。
ウルフの秀麗な顔が傾いて、その甘い唇が俺の唇に重なる。息をするように重なり合うのが自然で、俺たちは一つに繋がるべき存在なんだと思う。
「だからずっと一緒にいよう」
ウルフの声も言葉も温もりも、全てが嬉しくて何もかも気持ち良くて、気が付けば身体をよじってウルフに密着し、長い腕にしっかり抱かれて、甘い舌先を奥深くまでしっかりと受け入れていた。
「あ、…」
外じゃねえか。衆人環視じゃねえか。浮かれたハレンチ馬鹿じゃねえかっ
現状に気づいて唇を離し、ウルフを睨むと、ウルフは青い瞳を不満げに煙らせて、
「…散歩してこようか」
俺を軽々と抱き上げたまま立ち上がり、盛り上がっている祝宴を速やかに中座した。
「どこいく、…っ」
歩きながらもキスを降らせるウルフに塞がれ、何とかその逞しくしなやかなウルフの身体に必死でしがみつく。
「お祝いに走りたいって」
いたずら顔のウルフが向かう先からは、濡れたような漆黒の目をした男の中の男の嘶きが、聞こえたような気がした。
――――――――――――――――――
この後 →
番外編 公開予定です。
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