秘密の令嬢は敵国の王太子に溶愛(とか)される【完結】

remo

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secret.Ⅳ

05.

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「…トウマっ」

地上で、突如現れた虹龍に祈りを捧げていた橙龍国皇后レイの前に、そのかぎ爪に吊られたまま、最愛の夫である橙龍国皇帝トマシウスが降ろされた。予期せぬ長時間の空中浮遊に、その顔色は白より白い。地上に降ろされたのにまともに立てず、両手両膝をついてへたり込んだトウマに、すかさずレイが駆け寄る。

「…レイ」

すがるように妻を呼ぶトウマをレイが支え起こした。何とかお互いを支え合う二人を宙に浮かびながら虹龍が見つめる。

「わ、…私はこれからどうすれば良いのですか。絶対的な王の名のもとに、私の国は一つにまとまったばかり。我が誇り高き橙龍の地は、これからなのです、…っ」

トウマが悲嘆にくれている。野望は無残に打ち砕かれた。

「橙龍国皇帝トマシウス・レンジ。お前は生涯皇后レイ・ハニームーンを大切にし、生まれ出づる御子を慈しみ、お前に忠誠を誓った民のために終始心を砕くが良い。橙龍の地を理解し、好み暮らす民の心情を一番分かっているのはお前だ。お前の治世がお前の名を絶対的なものにする。お前の治世もまた、始まったばかりだ」

橙龍の地に虹龍の言葉が響き渡った。

「…わ、私は、追放されぬのですか? このままこの地で皇帝として生きて良いと?」

トウマが小刻みに震えている。
安堵、後悔、決意、重責、…一瞬のうちにその顔の上を様々な表情がよぎる。

「人心を惑わしたり、道を誤ったりしたら、容赦ない裁きを下そう。また、困難が訪れた時には、惜しみなく力を貸そう。それが七龍を統べる私の役目だ」

「はい、…はい、…っ」

地に頭をこすりつけ、虹龍を拝んでトウマはむせび泣いた。神にもらったチャンスを決して無駄にしないよう、この地と民のために生きようという強い誓いが全身に現れていた。そんな夫を支えるレイの目にも涙が溢れている。

「レイ、…元気で。困った時にはすぐ来るから」

「ありがとう、ライ。ライが私の兄さんで良かった。大好き」

虹龍が爪の先を優しく伸ばして、レイの頭をそっと撫でた。

深々と首を垂れて敬虔けいけんな祈りを捧げる橙龍国民からゆっくり離れて、虹龍が上空に浮かび上がった。天を駆る巨大な龍は、晴れやかな大空を虹色に染め上げ、優雅に、力強く、壮大に、圧倒的な美しさで飛翔していく。その後には、未来を照らす七色の虹がかかっていた。

かっけー、虹龍、かっけー、…っ

すっかり嬉しくなってウルフに擦り寄る。
虹龍に乗ってウルフの膝に抱かれているような状態で、首元に頭ですりすりしたら、ウルフがくすぐったそうに笑って、俺の髪にキスした。

「…なあ」

ウルフの艶めいた声が頭の上から沁みてくる。

「あのヘタレ野郎の沙汰さたも決まったし。さっきの続き、してもいいよな?」

…続き?

頭の中まで虹色に染まって、よく分からないまま見上げると、甘やかなウルフの唇が降ってきた。ゆっくり味わうみたいに触れられる。

後ろから引き寄せられて、背中にウルフの心臓の音を感じながら、長い腕に包まれる。手のひらが脚に腰に脇に這いこんで、意地悪な指先がもどかしいほど丁寧にたどる。耳に首筋にウルフの唇が軽やかに遊ぶ。

「ウ、…ルフ」

くすぶっていた火種をあっという間に焚きつけられて、もっと強くウルフに触りたくて向き直ろうとしたら、長い腕と長い足に軽々と留められた。

「…この体勢。好きだよな?」

低い声で囁きかけられて、記憶が甦ってしまった。

野外で。風が頬をくすぐるのどかな夕暮れ時に。
馬上で。二人乗りして、これ以上ないほどしっかり結び付いて。ウルフに奥の奥まで穿たれて死ぬほど気持ち良かった、…

「ちょ、…ちょっと待て」

ただでさえ簡単に潤ってしまうのに、記憶が俺を濡らす。やばいくらい。盛大に。

「誰にも見えないよ?」

確信犯的なウルフの顔に理性が叫ぶ。

いやこれ、外だろ? 何なら空中じゃん。
全世界から丸見えじゃねえか!!
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