秘密の令嬢は敵国の王太子に溶愛(とか)される【完結】

remo

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secret.Ⅳ

04.

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朝焼けと共に世界を照らし出した虹龍にじりゅうは、そのかぎ爪を伸ばして、天上の塔の頂上で茫然ぼうぜん自失状態の橙龍国皇帝トマシウスを摘まみ上げた。

「う、…うわあああっ、…!!」

その身一つで突然遥か上空へと吊り上げられて、トウマが我を失っている。

「俺のライがせっかく警告したのに聞かなかったな、皇帝トマシウス? どうする? 地の果てでずたずたに引き裂いてやろうか?」

ウルフがS度全開で楽しそうに口の端を上げた。

いまいち理解が追い付かないんだけど、俺とウルフは巨大な虹龍の中に宿っていて、ウルフは俺を抱えながら虹龍の機能を自由に操っている、ような状態だと思う。外から俺たちは、多分虹龍にしか見えず、ウルフの声は虹龍の声として響いている。内側からは、ひたすら温かい虹色の光に包まれていて、その向こうに世界が見渡せる感じで、自分が不思議な空間にいるような感じがする。

「お許しください、虹龍様。私が、…っ、私が愚かでありました、…っ!」

極限状態で吊られて、トウマが必至の命乞いを始めた。

「ずっと、…ずっと始龍様の血を分け与えていただき、統一王になることだけを夢見て生きて参りましたゆえ、自分の築き上げてきたものが一気に崩れ去るのを前に、どうにも納得が出来ず、あのように愚かな真似を、…っ」

恐怖からか懺悔からか、トウマの目から涙が零れ落ちた。次から次へと溢れ出し、見る見るうちにトウマの武具を濡らした。煌びやかな衣装の上に飾り物のように磨かれた甲冑かっちゅうで身を固めている。それはトウマが築き上げた力の象徴と言える。

ほろほろと零れ落ちる涙は、力に執着し、そのために切り捨てたものを悼んでいるように見えた。その涙の向こうには、霧の谷で共に過ごした明るく親切な友人の姿がある。妹のレイが惹かれたトウマがいる。

そう信じたい。

「…どうする、ライ」

俺の髪を指先で撫でながら、ウルフの瞳が優しく見下ろす。青く揺れる澄んだ瞳。多分ウルフは、俺の思いが分かってる、…

「…俺のライを泣かせたんだから、ずたずたのボロボロにして死界の魑魅魍魎ちみもうりょうどもに食わしてやりたいところだが、ライの泣き顔は死ぬほど可愛いし、やっとライが俺に告白してくれたわけだから、まあ、大目に見てやらないこともない」

「おい、こんな時に何言ってんだ、このハレンチ王子っ」

と、思ったのに。前言撤回。
このハレンチ野郎に俺の思いは伝わらない。俺の感動を返してほしい。

「なんで? 俺のこと好きなんだよな? 大好きなんだろ? もう一回言ってみろ?」

ウルフが至近距離で俺を覗き込みながら、指で唇を摘まんでふにふにと弄ぶ。

「ん? 誰のことが好きだって?」

こいつ、明らかに面白がってる!!

ウルフが死んじゃうと思って、もう会えなくなると思って、世界がなくなるような絶望で、奈落の底に叩き落されるような絶望と虚無感で、俺がどんな思いで、…っ

なんか思い出したら泣きそうになって俺を弄ぶウルフの指に噛みついた。

「痛い、…」
「ううふのばかっ!!」

涙目になって睨み上げたら、猛烈な勢いでウルフに抱きすくめられた。

「悪かった。ごめん。お前が可愛すぎて」

ウルフが俺を撫でながら、瞼に、涙に、唇を寄せる。

「ずっと待ち焦がれていたから、嬉しすぎた。許せ」

ウルフの柔らかくて甘い唇が、まつ毛に頬にこめかみに、耳をくすぐり、鼻に戻って、唇にたどり着いた。

「…ライ。お前が好きだよ」

甘い告白を吐息混じりに投げ込まれて、うっかり飲み込んだら、絶望に凍り付いていた心があっさり満たされた。悔しいことに、俺は心も身体もウルフで一喜一憂するらしい。

俺だけを映す青い瞳に請われて唇を開くと、舌で舌を撫でられた。全身が光のような快感に痺れて、穏やかな陽だまりに包まれたような心地よさが広がる。ウルフの舌に導かれるまま、至福の繋がりに溶けだして、…

「あのぅ、虹龍様、…?」

気が付けば、空中で吊られたまま放置プレイのトウマの涙は乾き切っていた。
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