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番外編Ⅰ. そんなバレンタインデー
【前編】料理人ナムラ・ディーンの受難
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こちらはライが橙龍国に連れていかれる前。
青龍国王宮でウルフといちゃいちゃ過ごしていた時の一幕です。
番外編としてお気軽にお楽しみいただけましたら幸いです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
青龍国王宮宮廷内厨房管理責任者ナムラ・ディーンは、大変困惑していた。
王太子ウルフ・ブルー様がお連れになった王太子妃レイ・ハニームーン様のセンスがひどい。
「なあなあ、この桃、美味しいじゃん。で、この蜜柑も美味しいじゃん。だから桃と蜜柑と、ついでに柿とパイナップルと苺とキウイも入れて、チョコレートと混ぜたら最高に美味しいフルーツチョコレートが出来ると思うんだよな。でもさ、ウルフはミントが好きじゃん。だからミントも入れたいじゃん。だからチョコの上に葉っぱ差してさ、耳みたいにすんのどうかな?」
…変だろ。ミント差して耳って。個性的すぎる。
という喉まで出かかった言葉を何とか飲み込む。
王太子妃さまの褒めて褒めてオーラがすごい。
ここでケチをつけたら拗ねてしまうかもしれない。ウルフ様が溺愛されているレイ様のご機嫌を損ねることにでもなったら、料理長としての首が飛ぶ、…かもしれない。
「あの、…ですね、レイ様。美味しいものと美味しいものを全て混ぜれば良いというものではございません。物には限度というか、相性がございます。それぞれの味が引き立つように、適度に選りすぐられた方がよろしいかと存じます」
けほけほと咳ばらいを混ぜ込みながら、レイ様の顔色をうかがう。
「相性、…」
言って、レイ様は小首をかしげられた。次いで、なぜか赤くなられた。
「うん、確かにあるよな」
そう頷かれたレイ様は、ウルフ様のことを思い浮かべられたに違いない。どうやらお二人は相性抜群のようだ。ウルフ様は片時もレイ様をお離しにならないし、レイ様には色濃くウルフ様の跡が刻まれている。色欲には非常に淡白で、御父上のラルフ様がご心配されてらしたほどのウルフ様が、まさかこれほどの執着を見せるとは、宮廷内の嬉しい誤算である。
後宮のお妃方は嘆かれるだろうが、これでお世継ぎも、しかも始龍神の血を分けたお世継ぎの御誕生もそう遠くない未来であろう。これで我が青龍国のみならず、七龍大陸各国は統一王の下、固い結束で結ばれる。七龍の未来は明るい。
「じゃあ、チョコとミントだけにする」
「少なっ!」
思わず妙な突っ込みをしてしまい、慌てて言い繕った。
「…、くないですか?」
レイ様、素直なのはよろしいが、極端すぎないか。
「だってさ、…」
レイ様は唇を尖らせて小さい声でぶつぶつ仰った。
「他の誰も、入れたくないんだ、…」
あ、…あー、なるほど。そういうことね。ウルフ様を思い浮かべられたら、盛りだくさんのフルーツが数多おわす愛妃さまに思えたってことね。色々なフルーツを混在させたくないと。自分だけを味わってほしいと。なるほど。ウルフ様はどの愛妃さまの元にも通われたことがないって噂、多分知らないんだろうなあ。
婚姻話が持ち上がった時は乗り気じゃないという噂もあったが、レイ様もすこぶるウルフ様にご執心らしい。
そもそも。料理スキルがほぼ皆無であるにもかかわらず、ウルフ様の目を盗んで(多分、見て見ぬふりをしているのであろうが)、夜中厨房に忍び込み、明日のバレンタインデーに備えてドンガラがっちゃんと厨房を荒らし始めたところからして(慌てて私が様子を見に来たのだが)、ウルフ様を想う乙女心が炸裂しているといえよう。
あーあ、相思相愛か、バカップル。
こんな夜更けじゃなく、せめて昼間にやってくれないかな。
という思いはみじんも見せずにレイ様に頷いた。
「では、ミントチョコレートにいたしましょうか。ただし、ミントは葉っぱを混ぜるのではなくクリームにした方がよろしいかと思いますが」
「うんっ!」
レイ様は俄然やる気を見せて、私の指示を素直に聞き、大変不格好な青黒い塊、…もとい、ミントチョコレートを完成された。
「できた―――っ」
見た目がひどい。
と思うのは私だけで、レイ様はひどく満足そうだ。
「あさイチでウルフに渡すんだ。アイツ喜ぶかな」
チョコレートだらけになった顔を輝かせて、ウキウキしている。
ウルフ様、ご愁傷様、…という思いがちらりと頭をかすめたが、
「ナムラ、手伝ってくれてありがとう。夜中に起こしてごめんな。ちゃんと片付けしとくから」
すぐにレイ様の満面の笑顔に消し飛ばされた。
微笑ましい。
レイ様はただただウルフ様が好きで、好きで好きで、本当に心から大好きなんだな、と思う。ウルフ様はそんなレイ様が可愛くて仕方ないんだろう。
始龍の血を手に入れるための政略結婚かとクールなウルフ様を心配していたけれど、そんな風に思い合える相手と出会えて本当に良かった。どうか末永くお二人がお幸せでありますように。
宮廷料理人ナムラ・ディーンは白んでいく空をあくびを噛み殺しながら眺め、大陸創生の神である始龍神に心から祈りを捧げたのだった。
青龍国王宮でウルフといちゃいちゃ過ごしていた時の一幕です。
番外編としてお気軽にお楽しみいただけましたら幸いです。
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青龍国王宮宮廷内厨房管理責任者ナムラ・ディーンは、大変困惑していた。
王太子ウルフ・ブルー様がお連れになった王太子妃レイ・ハニームーン様のセンスがひどい。
「なあなあ、この桃、美味しいじゃん。で、この蜜柑も美味しいじゃん。だから桃と蜜柑と、ついでに柿とパイナップルと苺とキウイも入れて、チョコレートと混ぜたら最高に美味しいフルーツチョコレートが出来ると思うんだよな。でもさ、ウルフはミントが好きじゃん。だからミントも入れたいじゃん。だからチョコの上に葉っぱ差してさ、耳みたいにすんのどうかな?」
…変だろ。ミント差して耳って。個性的すぎる。
という喉まで出かかった言葉を何とか飲み込む。
王太子妃さまの褒めて褒めてオーラがすごい。
ここでケチをつけたら拗ねてしまうかもしれない。ウルフ様が溺愛されているレイ様のご機嫌を損ねることにでもなったら、料理長としての首が飛ぶ、…かもしれない。
「あの、…ですね、レイ様。美味しいものと美味しいものを全て混ぜれば良いというものではございません。物には限度というか、相性がございます。それぞれの味が引き立つように、適度に選りすぐられた方がよろしいかと存じます」
けほけほと咳ばらいを混ぜ込みながら、レイ様の顔色をうかがう。
「相性、…」
言って、レイ様は小首をかしげられた。次いで、なぜか赤くなられた。
「うん、確かにあるよな」
そう頷かれたレイ様は、ウルフ様のことを思い浮かべられたに違いない。どうやらお二人は相性抜群のようだ。ウルフ様は片時もレイ様をお離しにならないし、レイ様には色濃くウルフ様の跡が刻まれている。色欲には非常に淡白で、御父上のラルフ様がご心配されてらしたほどのウルフ様が、まさかこれほどの執着を見せるとは、宮廷内の嬉しい誤算である。
後宮のお妃方は嘆かれるだろうが、これでお世継ぎも、しかも始龍神の血を分けたお世継ぎの御誕生もそう遠くない未来であろう。これで我が青龍国のみならず、七龍大陸各国は統一王の下、固い結束で結ばれる。七龍の未来は明るい。
「じゃあ、チョコとミントだけにする」
「少なっ!」
思わず妙な突っ込みをしてしまい、慌てて言い繕った。
「…、くないですか?」
レイ様、素直なのはよろしいが、極端すぎないか。
「だってさ、…」
レイ様は唇を尖らせて小さい声でぶつぶつ仰った。
「他の誰も、入れたくないんだ、…」
あ、…あー、なるほど。そういうことね。ウルフ様を思い浮かべられたら、盛りだくさんのフルーツが数多おわす愛妃さまに思えたってことね。色々なフルーツを混在させたくないと。自分だけを味わってほしいと。なるほど。ウルフ様はどの愛妃さまの元にも通われたことがないって噂、多分知らないんだろうなあ。
婚姻話が持ち上がった時は乗り気じゃないという噂もあったが、レイ様もすこぶるウルフ様にご執心らしい。
そもそも。料理スキルがほぼ皆無であるにもかかわらず、ウルフ様の目を盗んで(多分、見て見ぬふりをしているのであろうが)、夜中厨房に忍び込み、明日のバレンタインデーに備えてドンガラがっちゃんと厨房を荒らし始めたところからして(慌てて私が様子を見に来たのだが)、ウルフ様を想う乙女心が炸裂しているといえよう。
あーあ、相思相愛か、バカップル。
こんな夜更けじゃなく、せめて昼間にやってくれないかな。
という思いはみじんも見せずにレイ様に頷いた。
「では、ミントチョコレートにいたしましょうか。ただし、ミントは葉っぱを混ぜるのではなくクリームにした方がよろしいかと思いますが」
「うんっ!」
レイ様は俄然やる気を見せて、私の指示を素直に聞き、大変不格好な青黒い塊、…もとい、ミントチョコレートを完成された。
「できた―――っ」
見た目がひどい。
と思うのは私だけで、レイ様はひどく満足そうだ。
「あさイチでウルフに渡すんだ。アイツ喜ぶかな」
チョコレートだらけになった顔を輝かせて、ウキウキしている。
ウルフ様、ご愁傷様、…という思いがちらりと頭をかすめたが、
「ナムラ、手伝ってくれてありがとう。夜中に起こしてごめんな。ちゃんと片付けしとくから」
すぐにレイ様の満面の笑顔に消し飛ばされた。
微笑ましい。
レイ様はただただウルフ様が好きで、好きで好きで、本当に心から大好きなんだな、と思う。ウルフ様はそんなレイ様が可愛くて仕方ないんだろう。
始龍の血を手に入れるための政略結婚かとクールなウルフ様を心配していたけれど、そんな風に思い合える相手と出会えて本当に良かった。どうか末永くお二人がお幸せでありますように。
宮廷料理人ナムラ・ディーンは白んでいく空をあくびを噛み殺しながら眺め、大陸創生の神である始龍神に心から祈りを捧げたのだった。
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