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secret.Ⅲ
09.
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橙龍国王城の北の果てにある天上の塔は、その名の通り高く天までそびえ立ち、明り取りの窓から外を覗くと、眼下に雲が見える。地上に出入り口はなく、俺は橙龍国が誇る高度技術を持った飛行隊に吊り下げられて運ばれ、塔の天井から投げ込まれた。
「決戦は二日もあれば終わるだろうから、そこで大人しくしていてくれ」
塔の中には備蓄倉庫が備えられていて、水や食料、毛布があるから、それで過ごせということだろう。脱出不可能な高い塔に幽閉するなんて、まるでラプンツェル。トウマの悪趣味全開だと思う。
俺はどこで間違えたんだろう、…
肌寒さに毛布を羽織って天井を仰いだ。
石造りの塔にある天井は高く、複雑に岩が組み合わされているが、一部の岩を動かすことで一応の出入りが出来る。でも、中から岩は動かせないし、たとえ動かせて外に出ることが出来たとしても、高い高い塔のてっぺん。どこにも行けない。空から舞う塵になるのが関の山だ。
それでも俺がここから出てウルフに事態を知らせに行ったら、何かが変わるだろうか。ウルフはレイを取り戻そうとするだろうか。橙龍国の子を宿しているとしても、やっぱりレイが好きなのか、…
自分の無力さが情けなくて腹立たしい。
レイが自死するといっても、強引に青龍国に嫁がせるべきだったか。でもあの時すでに、トウマの子を身籠っていたかもしれない。ウルフの子だと信じていたのがトウマの子だったら、…
『…お前がいれば、何もいらないよ』
甘く揺れる美しい青い瞳。俺を撫でる優しい手のひら。
俺が本当に女だったら、ウルフの子孫を残すことが出来たのに。ウルフのためなら、もう二度と男に戻れなくてもいい。
そんなことを考えていたら、少しだけレイの気持ちが分かったような気がした。
もしかしたら、レイも同じなのかもしれない。好きな男のためなら、全てを受け入れ全てを差し出せるのかも。
橙龍国皇帝トマシウス・レンジとしてのトウマはいけ好かない成金野郎に見えるけど、霧の谷で共に過ごしたトウマは素朴で明るく親切な友人だった。女ながらに俺の後をついてきて怯えて泣いているレイを逐一慰めていたのはトウマだ。腕力のないレイが一緒に遊べるように気を配っていたのもトウマ。そこに下心があったのかは分からないけど、レイが命よりトウマを大事に思うように、トウマもレイを大事に思っているなら。統一王としての褒章品でなく、レイ個人を大切にしてくれるなら、…
でも、だとしても、どうしたってウルフは浮かばれない。
ため息をついて床に仰向けに寝転んだ。
ウルフのためなら何でもやりたいのに、ウルフのために出来ることが分からない。
どのくらいぼんやりしていたのか。
空腹に意識が途切れて、うつらうつらしていたのか。地上から伝わってくる大音量と振動に目を開けた。明り取りの窓から見える空に、朝焼けが混ざり始めている。いつの間にか夜明けになっていたらしい。
夜中に青龍国を出て、もうすぐ夜が明ける。
ウルフは。シーザーは。どうしているだろう。無事でいるのか。
壁をよじ登って窓から下を覗くと、雲が晴れているのか、わずかにうごめく明かりが見えた。なんだか城内が騒がしい。
青龍国に攻撃を仕掛ける軍が集められているのか。目を凝らしていると、橙龍国の飛行隊が飛び立ってくるのが見えた。豆粒みたいな航空機が徐々に近づいてくる。何か、…ていうか、この塔に向かって、砲弾のようなものを発射している。足元が揺れるような振動は、発射された弾が塔に当たっているからか。
騒々しさを伴って数多くの航空機が浮上してきた。何を狙っているのか。何かがこの塔に迫ってきていた。
「決戦は二日もあれば終わるだろうから、そこで大人しくしていてくれ」
塔の中には備蓄倉庫が備えられていて、水や食料、毛布があるから、それで過ごせということだろう。脱出不可能な高い塔に幽閉するなんて、まるでラプンツェル。トウマの悪趣味全開だと思う。
俺はどこで間違えたんだろう、…
肌寒さに毛布を羽織って天井を仰いだ。
石造りの塔にある天井は高く、複雑に岩が組み合わされているが、一部の岩を動かすことで一応の出入りが出来る。でも、中から岩は動かせないし、たとえ動かせて外に出ることが出来たとしても、高い高い塔のてっぺん。どこにも行けない。空から舞う塵になるのが関の山だ。
それでも俺がここから出てウルフに事態を知らせに行ったら、何かが変わるだろうか。ウルフはレイを取り戻そうとするだろうか。橙龍国の子を宿しているとしても、やっぱりレイが好きなのか、…
自分の無力さが情けなくて腹立たしい。
レイが自死するといっても、強引に青龍国に嫁がせるべきだったか。でもあの時すでに、トウマの子を身籠っていたかもしれない。ウルフの子だと信じていたのがトウマの子だったら、…
『…お前がいれば、何もいらないよ』
甘く揺れる美しい青い瞳。俺を撫でる優しい手のひら。
俺が本当に女だったら、ウルフの子孫を残すことが出来たのに。ウルフのためなら、もう二度と男に戻れなくてもいい。
そんなことを考えていたら、少しだけレイの気持ちが分かったような気がした。
もしかしたら、レイも同じなのかもしれない。好きな男のためなら、全てを受け入れ全てを差し出せるのかも。
橙龍国皇帝トマシウス・レンジとしてのトウマはいけ好かない成金野郎に見えるけど、霧の谷で共に過ごしたトウマは素朴で明るく親切な友人だった。女ながらに俺の後をついてきて怯えて泣いているレイを逐一慰めていたのはトウマだ。腕力のないレイが一緒に遊べるように気を配っていたのもトウマ。そこに下心があったのかは分からないけど、レイが命よりトウマを大事に思うように、トウマもレイを大事に思っているなら。統一王としての褒章品でなく、レイ個人を大切にしてくれるなら、…
でも、だとしても、どうしたってウルフは浮かばれない。
ため息をついて床に仰向けに寝転んだ。
ウルフのためなら何でもやりたいのに、ウルフのために出来ることが分からない。
どのくらいぼんやりしていたのか。
空腹に意識が途切れて、うつらうつらしていたのか。地上から伝わってくる大音量と振動に目を開けた。明り取りの窓から見える空に、朝焼けが混ざり始めている。いつの間にか夜明けになっていたらしい。
夜中に青龍国を出て、もうすぐ夜が明ける。
ウルフは。シーザーは。どうしているだろう。無事でいるのか。
壁をよじ登って窓から下を覗くと、雲が晴れているのか、わずかにうごめく明かりが見えた。なんだか城内が騒がしい。
青龍国に攻撃を仕掛ける軍が集められているのか。目を凝らしていると、橙龍国の飛行隊が飛び立ってくるのが見えた。豆粒みたいな航空機が徐々に近づいてくる。何か、…ていうか、この塔に向かって、砲弾のようなものを発射している。足元が揺れるような振動は、発射された弾が塔に当たっているからか。
騒々しさを伴って数多くの航空機が浮上してきた。何を狙っているのか。何かがこの塔に迫ってきていた。
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