秘密の令嬢は敵国の王太子に溶愛(とか)される【完結】

remo

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secret.Ⅲ

08.

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「おいおい、我らが寛大な兄君だぞ? もう少し丁重に扱え」

広大な玉座の間に立てられた巨大な御柱みはしらの間に、荷物のように投げ落とされた俺を見て、橙龍国皇帝トマシウス・レンジことトウマは、口元を歪めて笑った。その後ろに寄り添うように付き従っている妹のレイは、さすがにいたたまれない顔をしている。

「…お前、橙龍国の皇帝だったのか」

暴れないように両手足を縛られ、芋虫のように床に這いつくばっている俺を見下ろして、非情な笑みを浮かべるトウマは、霧の谷で野山を駆け回り、穀物を育て、根菜を掘り起こしていたころの面影はどこにもない。煌びやかな衣装に身を包み、豪奢な冠に宝飾品をぶら下げて、がめつい豪族のような下卑た表情を浮かべている。

青龍国と橙龍国の国境山中で黒づくめの集団に拉致された俺は、速やかに橙龍国都に運ばれ、壮大な王宮に連れて行かれて皇帝陛下と皇后陛下の前に引き出された。

まさかの、幼なじみと妹の前に。

「満月一族を手に入れた者が統一王を名乗れる。我が父君は頭脳派でね。無粋な戦などせずとも、統一王の座を手に入れる方法を考え付いた。私が内密に霧の谷に遣わされたのはまだ7つの時だったが、私とレイは完璧に結ばれ、見事レイを持ち帰った私に父王は約束通り譲位した」

とうとうと今までの自分がどんなに優れていたのかという功績を語る。
トウマってこんな奴だっけ。レイはこいつのどこら辺が好きなんだ?

レイを見上げると、至極気まずそうに眼を泳がせた。
恋は盲目っていうのか、長い年月をかけて刷り込まれたのか、トウマに騙し討ちのような身元を明かされても、レイはトウマにつくらしい。

『本当にごめんなさい』

レイと別れた時の言葉は、そういう意味か。
ウルフを無理やり振り切って、シーザーを傷つけられてまで駆け付けた俺は道化ピエロか。

幼なじみと双子の妹の見事な裏切りに言葉も出ない。

「愚かな青龍ウルフは偽物をつかまされ、いい気になっているようだが、これから我が橙龍国軍が偽酒の混乱に乗じて一気に攻め込み、勝利の咆哮ほうこうをあげる。本物の満月姫の前に、青龍は手も足も出ないだろう。何しろ、我が妃には私の子種が宿っているのだから」

勝ち誇った笑みを浮かべながら、トウマがレイの肩を抱く。

…マジで?

目を見開いてレイの顔とその腹を見比べると、レイは複雑そうな、でも微かに誇らしげな顔をした。

「お前、考え直す気は、…」
「ごめんなさい。レイはトウマのものなの」

マジかよ、この色恋バカ、…っ

つまり。
橙龍国はこれから青龍国に反逆の戦を仕掛けるけど、戦況はどうあれ、レイの存在で勝利宣言をするつもりなんだ。レイが始龍の血が入った橙龍国皇帝の世継ぎを生むなら、…大陸各国は統一王の証と認めるだろう。

「これも全て妹想いの優しい兄君のおかげだよ。ありがとう、寛大な兄君」

そうなったらウルフは、橙龍国トウマの下につくのか。
各国の戦乱を制圧したのは青龍国なのに。俺がレイと入れ替わってレイを逃したばかりに。

ウルフはレイのことを、あんなに大事に想ってるのに。

「兄君は全て終わるまで、天上の塔で高みの見物でも決め込んでいてくれ」

力なくうなだれる俺は再び荷物のように担がれ、王宮内のどこぞの塔へと運ばれた。

俺がウルフを騙したから。
ウルフは全てを失ってしまう。俺はウルフに何もあげられないのか、…
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