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secret.Ⅲ

06.

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青龍国王太子ウルフ・ブルーの愛馬シーザー様は、大変ご立腹のご様子である。

「だから、ごめんって。今回だけ。ホント、恩に着るって」

なぜなら、訳の分からない男に夜中叩き起こされ、遠出に駆り出されたからである。

「俺だよ、シーザ―、俺、俺。俺らこの前、通じ合ったじゃん」

必死でたてがみを撫でてご機嫌を取るも、フンっと大きめの鼻息で返された。使い古された詐欺の手口かよ、という突っ込み感満載である。しかしまあ、なんだかんだ乗せてくれて夜中の城下を疾走してくれているのだから、その優しさには感謝しかない。やはり男の中の男だ。真の男とは切羽詰まった友人を見捨てたりしない。とはいえ、あれだけウルフに心酔しているシーザーが、正体不明の俺の言うことを聞いてくれるなんて奇跡に近い。

或いは、俺には隅々までウルフの匂いが沁みついているのかもしれない。

ウルフの精気の結晶で女の姿に戻った後、ゆるゆるウルフと抱き合って、寝ても覚めても繋がって、絶え間なく隙間なくどこまでもウルフで満たされた。もうこれで最後だと思うと離れがたくて、くわえたり噛みついたり飲み込んだりしてウルフに呆れられた。果てしない欲望に俺だって自分で引いたけど、ウルフには何千回何万回キスしても足りない。手も足も、胸も腹も、腰も太ももも、全部一つに繋がりたい。交わす吐息も、絡まる舌も、声も温度も、全部一つになって、どこまでも溶け合って、分かたれなくなればいい。

好き、とか。大好き、とか。愛してる、とか。
それじゃ全然足りない。ウルフを想う気持ちは空よりも果てがない。
俺はレイと双子だけどレイを想うのとはまた違くて、自分の存在の要みたいなところにウルフがいる。ウルフと離れたらもはや俺は俺じゃなくなって、どうでもいい抜け殻になる。

でも、それは。
俺の一方的な思いだから。

さんざん絡まって、眠っているウルフからそっと抜け出した。
それでも自分が引き抜かれたことを敏感に察したウルフが俺に腕を回して、

「…どこに行く?」

俺を閉じ込めたから、苦肉の策で叫んだ。

「…風呂」
「一緒に、…」
「ぜってー覗くなよっ! チラ見もすんな! 女には見られたくない処理の一つも二つもあんだよっ」

…知らんけど。と心の中で付け加え、立たない腰を無理やり引きずってベッドから降りたら、ウルフに両手で抱き上げられた。

「おい、…っ」
「風呂まで連れて行くだけだ。お前が嫌なら見ない。…お前の身体で見てないとこなんてとっくにないけど」

少し眠たげに唇の端で笑うウルフを下から頭突いた。

「痛い、…」
「恥ずかしいこと言うな!」

実際、さっきまでウルフにドロドロにかき混ぜられていた身体は、その跡が色濃く残っていて、ウルフの視線一つでまた溢れ出す。ウルフは俺の身体の何もかもを俺より知り尽くしている。

ウルフが喉を鳴らして笑いながら、ちゅっ、ちゅっ、と優しいキスをした。

「相変わらず俺の妻は可愛いな」

広々として豊かな温泉が湧くウルフ専用の風呂場に俺を降ろすと、

「ゆっくり温まってこい」

俺の髪を撫でて、ウルフは風呂から出ていった。

ウルフのキスが優しくて、温もりが恋しくて、泣きたくなる。
けど。
もちろん、泣いてる場合じゃない。ゆっくり温まっている場合でもない。

ウルフのために用意されている浴衣をまとうと、動きやすいように手足のあちこちを紐で結び、浴室内にある中庭に下りて、天窓によじ登る。女の身体だと筋力も跳躍力も足りないけど、ゼイゼイ息を切らしながら、そこは気合で頑張った。音を立てないように細心の注意を払って天窓を開け、外に出た。
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