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secret.Ⅲ
03.
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衝撃の収まった身体で跳ね上がり、薄絹一枚の格好で湯殿を飛び出した。
「不届き者っ、逃がしませんわよ!!」
「捕まえて!」「後宮に不埒な男が侵入しましたわっ!」
お姉さま方が大騒ぎで追いかけてくる。
やばいって、今ここで捕まったら万事休す。ウルフに申し開きが出来ない。いやまあ、嘘で固めてウルフを騙してる俺は、そもそも申し開きなんて出来ないけど。
妃たちの声を聞きつけて、あちらこちらから警備の者らしい役人たちが飛び出してくるが、薄絹だけで胸元あらわな俺の姿を見て躊躇する。
「え、男?」「…女?」
骨格の違いはよく見なきゃわからないかもしれないが、跳躍力は格段の差がある。次々に飛び出してくる役人たちをすり抜けて、通路から庭に下り、屋根に飛び移って、ウルフのいる本殿を目指す。
「曲者っ、曲者が出たぞ!」「捕らえろ、矢を射よっ!」
やっべえ、飛び道具出てきた。
俺の行く手に射かけられた矢がひゅんひゅん通り抜ける。
捕まるにしてもこの姿はやばいんだって。追撃を必死でかわすうちに建物を上へ上へと登ってしまった。
これは、…落ちたら死ぬ。間違いなく。
王城のてっぺんで、ひゅうひゅう吹きすさぶ風を感じて、下を見る勇気が出ない。けど、かがり火が焚かれて立て続けに矢が射られ、大騒ぎになって怪しい侵入者を捕えようとしている気配は伝わる。
降りるに降りれないし。格好は寒々しいし。
自分で招いた結果とはいえ、どうしていいか分からない。
「…助けて、ウルフ」
こんな時だけ、都合よすぎだよな。
俺の本当の姿、お前に知られるのが一番怖いのに。
泣きたい気持ちで途方に暮れて、寒空に身を吹かれていたら、背後に何か気配を感じた。
「アオ、…?」
振り向くと、アオがいた。
暮れ落ちた都の暗がりで定かではないけど、目を奪われる銀色の美しい青い目をした狼が王宮の広い屋根を伝って俺に迫ってくる。
「え? …アオ? え? …なんで」
そういえば。アオは青龍国に帰っていったんだった。
今まで全然会わなかったけど、もしかして王宮に仕える狼だったのか。
「アオっ!」
感動の再会にアオに飛びついたら、思いっきり噛みつかれた。
「痛って!」
なにすんだ、アオ。俺だよ、俺。
お前、俺のこと忘れちゃったのかよ?
などという隙も与えず、余裕で俺を乗せられるほどでかくなったアオは、俺の首根っこをくわえたままスタスタと屋根を渡り、見事な跳躍でベランダに降り立ち、素早く身をひるがえして王城の中を走った。
すげー、カッコいい。
力強く惚れ惚れするほど美しい疾走。
俺に触れるアオの毛並みは相変わらず抜群の肌触りで、きめ細かく麗しい。
「お前、王宮の狼だったのか」
アオは真っすぐにウルフの居室に行き着き、俺をベッドに降ろすと無言で身をひるがえした。
「あ、…アオっ」
そのあまりにもそっけない態度に思わず呼び止めると、振り返ったアオは、美しく澄んだ青い瞳で俺を見つめた。
「ええと、…あの、…ありがとう」
俺の心の底まですべてを見透かす鋭い目。こんなに久しぶりに会ったのに、ついさっきまで一緒にいたかのように近しい。何もかも分かりきっているかのような絶対的な信頼感を持つ頼もしい瞳。
「また会える?」
アオを見上げると、アオはふっと微笑んだような気がして、それから俺の口元を舐めた。懐かしい、アオの匂い。アオの舌。なんか、すごく。すごく安心できるような、…
アオは何度か俺を舐めると、ふいに、どこへともなく姿を消してしまった。
「不届き者っ、逃がしませんわよ!!」
「捕まえて!」「後宮に不埒な男が侵入しましたわっ!」
お姉さま方が大騒ぎで追いかけてくる。
やばいって、今ここで捕まったら万事休す。ウルフに申し開きが出来ない。いやまあ、嘘で固めてウルフを騙してる俺は、そもそも申し開きなんて出来ないけど。
妃たちの声を聞きつけて、あちらこちらから警備の者らしい役人たちが飛び出してくるが、薄絹だけで胸元あらわな俺の姿を見て躊躇する。
「え、男?」「…女?」
骨格の違いはよく見なきゃわからないかもしれないが、跳躍力は格段の差がある。次々に飛び出してくる役人たちをすり抜けて、通路から庭に下り、屋根に飛び移って、ウルフのいる本殿を目指す。
「曲者っ、曲者が出たぞ!」「捕らえろ、矢を射よっ!」
やっべえ、飛び道具出てきた。
俺の行く手に射かけられた矢がひゅんひゅん通り抜ける。
捕まるにしてもこの姿はやばいんだって。追撃を必死でかわすうちに建物を上へ上へと登ってしまった。
これは、…落ちたら死ぬ。間違いなく。
王城のてっぺんで、ひゅうひゅう吹きすさぶ風を感じて、下を見る勇気が出ない。けど、かがり火が焚かれて立て続けに矢が射られ、大騒ぎになって怪しい侵入者を捕えようとしている気配は伝わる。
降りるに降りれないし。格好は寒々しいし。
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「…助けて、ウルフ」
こんな時だけ、都合よすぎだよな。
俺の本当の姿、お前に知られるのが一番怖いのに。
泣きたい気持ちで途方に暮れて、寒空に身を吹かれていたら、背後に何か気配を感じた。
「アオ、…?」
振り向くと、アオがいた。
暮れ落ちた都の暗がりで定かではないけど、目を奪われる銀色の美しい青い目をした狼が王宮の広い屋根を伝って俺に迫ってくる。
「え? …アオ? え? …なんで」
そういえば。アオは青龍国に帰っていったんだった。
今まで全然会わなかったけど、もしかして王宮に仕える狼だったのか。
「アオっ!」
感動の再会にアオに飛びついたら、思いっきり噛みつかれた。
「痛って!」
なにすんだ、アオ。俺だよ、俺。
お前、俺のこと忘れちゃったのかよ?
などという隙も与えず、余裕で俺を乗せられるほどでかくなったアオは、俺の首根っこをくわえたままスタスタと屋根を渡り、見事な跳躍でベランダに降り立ち、素早く身をひるがえして王城の中を走った。
すげー、カッコいい。
力強く惚れ惚れするほど美しい疾走。
俺に触れるアオの毛並みは相変わらず抜群の肌触りで、きめ細かく麗しい。
「お前、王宮の狼だったのか」
アオは真っすぐにウルフの居室に行き着き、俺をベッドに降ろすと無言で身をひるがえした。
「あ、…アオっ」
そのあまりにもそっけない態度に思わず呼び止めると、振り返ったアオは、美しく澄んだ青い瞳で俺を見つめた。
「ええと、…あの、…ありがとう」
俺の心の底まですべてを見透かす鋭い目。こんなに久しぶりに会ったのに、ついさっきまで一緒にいたかのように近しい。何もかも分かりきっているかのような絶対的な信頼感を持つ頼もしい瞳。
「また会える?」
アオを見上げると、アオはふっと微笑んだような気がして、それから俺の口元を舐めた。懐かしい、アオの匂い。アオの舌。なんか、すごく。すごく安心できるような、…
アオは何度か俺を舐めると、ふいに、どこへともなく姿を消してしまった。
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