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secret.Ⅱ
04.
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青龍国と橙龍国の国境にある光月湖の視察は、ウルフの父親である青龍国王ラルフ・ブルーが先駆し、ウルフと側近の近衛騎士が何人か王に同行していた。軍馬を駆って城下を走る王の一行は荘厳で、王都はそんな一行の姿を一目見ようとする民衆で埋め尽くされていた。
「ラルフ王、万歳」「ラルフ様、お勤めご苦労様です」
王に忠誠を誓う国民はもとより、
「ウルフ様、素敵っ」「なんと麗しい」「きゃあ、こちらを向かれたわ」
「ウルフ様~、愛しています」「ああもう、カッコ良すぎる」「眼福っ」「最高っ!!」
ウルフを慕う黄色い歓声が凄い。
青龍国の王家は国民に慕われているらしく、それは大変喜ばしいことだけど、そんな我らがウルフ様が他国から娶ったばかりの女と仲良く馬に二人乗りしているのだから、ファンの動揺は察して余りあるというものだろう。
俺に対する視線の刃が凄い。
俺は統一王を名乗るための戦利品で、ウルフとの結婚はいわゆる政略結婚。ラルフ王をはじめとする王族や王宮の人たちからは歓迎の意を感じたけど、ウルフファンの国民感情はそう簡単にはいかないんだろう。推しには恋愛ごとなど持ち込んで欲しくないが、持ち込むなら自分が好きで選んだ相手と心底幸せになってほしい、みたいな。
ウルフは俺のこと別に好きじゃないし、そもそも俺は本当の結婚相手でもないし。
分かっているけど、視線が痛い。目で殺せるなら殺られそうな勢いだ。
さりげなく落ち込んでいたら、またしてもシーザーが鼻息とともに背面を揺らした。俺の消沈ぶりを察して励ましてくれているらしい。マジ、シーザー、男前。男の中の男。
「…レイ、どうした? 人ごみに酔ったか?」
後ろから腕を回してしっかりと俺を抱えているウルフが、俺を覗き込んできた。背後にぴったり寄り添って、鼓動さえ伝わりそうに密着しているウルフにも俺の変化は筒抜けらしい。
見上げると、深く澄んだ青い瞳が俺だけを映して揺れていた。
でも俺。ウルフが好きだ。
そう思ったら、ウルフの青い瞳が近づいて、形のいい唇が俺の唇にちゅっと触れた。
一瞬何が起こったか分からずに瞬きを繰り返す俺の耳に、ぎゃあああああ―――っという黄色い悲鳴がとどろいた。予期せぬキスシーンを見せられて、大衆が卒倒しそうな大混乱に陥っている。
「てめ、…んなとこで何すんだっ」
遅ればせながら、自分が街中の大観衆の目前で、公開キスをさらしてしまったことを理解する。
「何って、…」
動揺を隠しきれない俺の頬を指で撫でて甘く笑うと、
「俺の妻が死ぬほど可愛いってことをみんなにお披露目しようかと」
ウルフは俺の頬に手を添えたまま顔を傾け、ついばむような軽いキスを繰り返し、悪戯っぽい顔をして俺の唇を舐めた。
何てことするんだ、このハレンチ王子―――――――っ
俺の声にならない声は、大衆のどよめきと拍手喝采にかき消された。
王子が妻と仲良くするのを王族は好ましく見守っていて、ウルフが示した妻に対する姿勢は、ある種ショック療法的な効果で国民に受け入れられたらしい。
「ウルフ様、万歳」「ご結婚おめでとうございます!」「おめでとうございます、ウルフ様っ」「王子っ、王子、万歳!!」
大歓声の中を王族一行は軍馬に乗って颯爽と駆け抜けていく。
俺は恥ずかしすぎてウルフに顔をうずめていたけど、ウルフは毅然と、でもとても優しい顔をして、手を上げて大衆の歓声に応えていた。俺たちを乗せたシーザーまでも、どこか誇らしげに力強く疾駆していた。
「ラルフ王、万歳」「ラルフ様、お勤めご苦労様です」
王に忠誠を誓う国民はもとより、
「ウルフ様、素敵っ」「なんと麗しい」「きゃあ、こちらを向かれたわ」
「ウルフ様~、愛しています」「ああもう、カッコ良すぎる」「眼福っ」「最高っ!!」
ウルフを慕う黄色い歓声が凄い。
青龍国の王家は国民に慕われているらしく、それは大変喜ばしいことだけど、そんな我らがウルフ様が他国から娶ったばかりの女と仲良く馬に二人乗りしているのだから、ファンの動揺は察して余りあるというものだろう。
俺に対する視線の刃が凄い。
俺は統一王を名乗るための戦利品で、ウルフとの結婚はいわゆる政略結婚。ラルフ王をはじめとする王族や王宮の人たちからは歓迎の意を感じたけど、ウルフファンの国民感情はそう簡単にはいかないんだろう。推しには恋愛ごとなど持ち込んで欲しくないが、持ち込むなら自分が好きで選んだ相手と心底幸せになってほしい、みたいな。
ウルフは俺のこと別に好きじゃないし、そもそも俺は本当の結婚相手でもないし。
分かっているけど、視線が痛い。目で殺せるなら殺られそうな勢いだ。
さりげなく落ち込んでいたら、またしてもシーザーが鼻息とともに背面を揺らした。俺の消沈ぶりを察して励ましてくれているらしい。マジ、シーザー、男前。男の中の男。
「…レイ、どうした? 人ごみに酔ったか?」
後ろから腕を回してしっかりと俺を抱えているウルフが、俺を覗き込んできた。背後にぴったり寄り添って、鼓動さえ伝わりそうに密着しているウルフにも俺の変化は筒抜けらしい。
見上げると、深く澄んだ青い瞳が俺だけを映して揺れていた。
でも俺。ウルフが好きだ。
そう思ったら、ウルフの青い瞳が近づいて、形のいい唇が俺の唇にちゅっと触れた。
一瞬何が起こったか分からずに瞬きを繰り返す俺の耳に、ぎゃあああああ―――っという黄色い悲鳴がとどろいた。予期せぬキスシーンを見せられて、大衆が卒倒しそうな大混乱に陥っている。
「てめ、…んなとこで何すんだっ」
遅ればせながら、自分が街中の大観衆の目前で、公開キスをさらしてしまったことを理解する。
「何って、…」
動揺を隠しきれない俺の頬を指で撫でて甘く笑うと、
「俺の妻が死ぬほど可愛いってことをみんなにお披露目しようかと」
ウルフは俺の頬に手を添えたまま顔を傾け、ついばむような軽いキスを繰り返し、悪戯っぽい顔をして俺の唇を舐めた。
何てことするんだ、このハレンチ王子―――――――っ
俺の声にならない声は、大衆のどよめきと拍手喝采にかき消された。
王子が妻と仲良くするのを王族は好ましく見守っていて、ウルフが示した妻に対する姿勢は、ある種ショック療法的な効果で国民に受け入れられたらしい。
「ウルフ様、万歳」「ご結婚おめでとうございます!」「おめでとうございます、ウルフ様っ」「王子っ、王子、万歳!!」
大歓声の中を王族一行は軍馬に乗って颯爽と駆け抜けていく。
俺は恥ずかしすぎてウルフに顔をうずめていたけど、ウルフは毅然と、でもとても優しい顔をして、手を上げて大衆の歓声に応えていた。俺たちを乗せたシーザーまでも、どこか誇らしげに力強く疾駆していた。
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