秘密の令嬢は敵国の王太子に溶愛(とか)される【完結】

remo

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secret.Ⅰ

06.

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「やはりあなた様は始龍さまの半身。魂の片割れであられましたか」

俺と狼の騒ぎを聞きつけて、いつの間にか婆とレイがやってきていた。

「あなた様とライは互いを癒し高め合う存在。どうか末永くライをお頼み申しまする」

婆が狼相手に何やらぶつぶつ拝んでいる。狼も狼で神妙な顔つきで聞いている、ように見えるのがおかしい。

「狼、元気になったの? 何か食べるかな?」

レイがこわごわ近寄ってきた。

うーん? 狼って肉食だっけ??

しかし俺たちの家に肉などなく、俺たちが食べているのと同じ穀物団子をあげてみたところ、一夜にして怪我が治った不思議な銀狼は、なかなかお行儀よく美味しそうに食べてくれた。

雨上がりの朝は昨夜の大雨が嘘のように眩しく晴れ渡り、空の向こうには虹が輝いている。

「銀狼さまはお帰りにならねばならぬ。ライ、お見送りをしておいで」

婆に促されて銀狼と一緒に外に出ると、銀狼は別れを惜しむかのように俺の周りをぐるぐる回り、鼻先を押し付けてくる。俺は銀狼と戯れながら一緒に走り、その美しく力強い疾走を脳裏に焼き付けた。

気高く美しい。壮麗な容姿。鋭く強いまなざし。艶やかで滑らかな手触り。
匂い。鳴き声。温もり。
なんで、こんな身を切られるように胸が痛いんだろう。

霧深い谷の道で迷わないよう、谷を越えた先まで銀狼とともに進む。
険しさが続く山道だが、こんなに近く感じたのは初めてだ。

「…アオ」

たった一晩で俺に強烈な印象を刻み込んだ銀狼を呼んだ。応えるようにアオが俺を見つめる。深く美しい青い瞳で。鮮烈な青。眩しく誇り高い青。俺をとらえて離さない、俺の青。

「元気でな」

アオが一声吠えた。
その声は泣くのをこらえているような切なさを持っていて、俺も奥歯を噛みしめた。泣くな、永遠に会えなくなるわけじゃない。

霧の谷は青龍国と紫龍国の狭間にあり、複雑に入り組んだ地形からそのどちらにも属していない。今、俺とアオは霧の谷を抜け、青龍国が所有する樹海の際まで来ていた。アオは樹海から青龍国に戻るらしい。俺が付いていけるのはここまでだ。

アオは俺に頬を擦り寄せて何度も舐め、肩口を甘噛みした。離れがたい。この噛み跡が深く刻まれて、永遠に消えなければいいのに。ふと、俺の初キスはアオだという妙な感慨に見舞われた。

「…お前のこと、絶対忘れないから。また会おう」

アオは胸が苦しくなような鳴き声を上げると、思いを断ち切るように身をひるがえし、樹海に駆け込んで、あっという間に見えなくなった。

『…って言ったくせに、思い出しもしない』

でも、それっきり。
俺はアオと会うことはなかった。

始龍の子孫である俺たちは、七龍大陸始まりの象徴として時流に乗せられ、戦利品となったり捕虜となったり神として奉られたり、と、各国の思惑に流され、翻弄されていった。
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